紙の提督 第二話 「十三隻の怒れる妹たち」

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片倉青一 @ktkrao1

第二話「十三隻の怒れる妹たち」 ウウワーーーンンンーーー ウウワーーーンンンーーー 指宿支所に、猫の鳴き声にも似た、甲高い警報が鳴り響いた。空襲警報だ。 私はそれを隊舎の洗面所で聞いた。 #紙の提督

2015-01-15 22:53:33
片倉青一 @ktkrao1

ばたばたと艦娘たちが飛び出る気配。打ち放しのコンクリートに、スリッパの音が幾重にも反響した。 敵機か。どこから来ている。対空砲火なら任せーー 「馬鹿ね!潜水艦よ!」と五十鈴が叫びつつ、艤装をてきぱきと展開しながら駆け去った。 #紙の提督

2015-01-15 22:54:12
片倉青一 @ktkrao1

せ、潜水艦? 潜水艦で空襲警報が? どんなシステム構成だ。 聴音機でも配置しているのか。 #紙の提督

2015-01-15 22:55:09
片倉青一 @ktkrao1

「野郎ぶっころしてやる!」由良タイプでもあんなに激昂することがあるのか。 #紙の提督

2015-01-15 22:56:16
片倉青一 @ktkrao1

「のろまなで無力な戦艦は引っ込んでなさい!」と、爆雷を積みつつ雷が私を押しのけた。 の、のろまで無力… 確かに私は練度こそここの面々に及ばないし、潜水艦なら私の出る幕はないが、しかし、のろまで無力はないだろう… 雷に言われるとなんだか余計に凹む。 #紙の提督

2015-01-15 22:57:47
片倉青一 @ktkrao1

外に出ると、十二隻からなる水雷戦隊がずらりと整列していた。日頃の怠惰ぶりが嘘のようだ。 それらスプーキーズと割烹・由良を前に、提督が訓示を垂れていた。 艦隊名、どうにかならないのか。 #紙の提督

2015-01-15 23:00:02
片倉青一 @ktkrao1

「諸君。懲りもせず奴らが出た。我々はこれを全力で叩かねばならない」 あの腑抜けた壮年の男が、今は背筋をぴんと伸ばし、左腰に帯びた軍刀の柄へ左手を置いて、威風堂々と立っている。 #紙の提督

2015-01-15 23:01:24
片倉青一 @ktkrao1

「奴らに潜望鏡を覗かせるな。息を継がせず深海の底へと追い落とせ。さもなくば明日にも君らの怠惰と享楽は奪われる」 怠惰と言ったか今。 #紙の提督

2015-01-15 23:02:33
片倉青一 @ktkrao1

「全力で叩け。躊躇も停滞もするな。勝利の女神は後ろ頭が禿げている。ひたすらに殲滅しろ」 「「「ウーラン!!」」」 待て。その掛け声はなんか違う。 「では健闘を祈る」 一隻、また一隻と、艦娘たちは港から海原へと飛び出し、あっという間に駆け去った。 二十四の航跡が残った。 #紙の提督

2015-01-15 23:04:07
片倉青一 @ktkrao1

「なんだ、長門君。いたの。君の出番はないから部屋に戻るなり舞風お姉さんのラジオ体操四番をするなりしたまえよ」 提督がもとの腑抜けに戻った。 ふん。大層な騒ぎだな。潜水艦など、こそこそ隠れて魚雷を撃って逃げるだけが能の、卑怯な鼠だろう。 #紙の提督

2015-01-15 23:08:13
片倉青一 @ktkrao1

「分かってないねえ。潜水艦に最適な任務、何だか分かる?」 先遣部隊として隠密裏に敵艦隊へと接近し、主力を漸減ならしーー 「はい不正解」 言い終わらないうちにバッテンが付いた。言わせてくれても… #紙の提督

2015-01-15 23:09:30
片倉青一 @ktkrao1

「潜水艦は通商破壊に使いましょう。ここテストに出ます」 そんな卑怯な真似をせずともーー 「どうすれば?」 それは、艦隊決戦に持ち込んで敵の主力を叩き、制海権を確保することでーー 「君、すごいね。脳みそ化石?」 か、化石…言うに事欠いて化石とは… #紙の提督

2015-01-15 23:11:00
片倉青一 @ktkrao1

「まあ、戦いについては本でも読んでのんびり勉強したまえ。僕は書類が残っているのでね、戻るよ」 指揮も執らないのか。 「あのね。あの子たちがいちいち言うこと聞くわけないでしょう」 それはそうだが。 #紙の提督

2015-01-15 23:21:36
片倉青一 @ktkrao1

その晩は、沈みかけた味方の輸送船からかっぱらった物資を肴に酒盛りが催された。 聞けば響が殺した敵の皮を被り、姿を偽装して次々と物資を海中投棄したとか。 敵に偽装して味方の物資を強奪…ここ、もしかして海賊かヤクザなのでは… #紙の提督

2015-01-15 23:25:33