《記憶》

まー @marble223

「その動画に映ってるのは、そう僕だ」「やっぱり、お前か」「カズ、おまえはもう一人の自分がいる事は、わかってるんだろう？いや、わかってるはずだ」「俺は…俺は。そう夢だと思っていた。あれ？夢で見た話だ…とか景色だ、その話も夢で聞いたな…とか。ただ、俺はあの事件以来殻に閉じこもって

まー @marble223

しまった。その頃の俺はもう現実か夢かわからなくなってしまっていた。何で俺の大事な人は、みんな俺を置いて行くんだろう…俺は人を好きになっちゃいけないんだ。だから誰とも関わらない。関わっちゃいけないんだ。俺は…考えるのを止めたんだ。いや、逃げたんだ。夢の世界に」「それからは？」

まー @marble223

「夢は、時にはハッキリ見たり、ぼんやり眺めてたり、あんまりよく覚えてない。あの日、デジカメを見るまでは」「それがキッカケか…」「キッカケ？」「おまえ、人格を奪われていたんだよ。カイに」「…そうか」「今でもカイがお前の中に居るかどうかはわからないが、主人格のおまえが表に出てるから、

まー @marble223

カイは今は居ない」「中平、なんでおまえ詳しいんだ？」「あぁ、いや。2.3年前に田上から結婚するから式に出てよって連絡があったんだ。あいつとは学校辞めてからも連絡取り合ってたからな。それでお祝いに飲みに行こうって話になって」「あいつ、結婚したんだ。あ、あの彼女？マミちゃんだっけ？」

まー @marble223

「いや、そりゃとっくに別れてる。社内恋愛で結婚したよ。今や2人の子持ちだよ（笑）」「そっか。あいつもパパかぁ」「あぁ。それで、その時にあいつが思い出したように僕に話したんだ。あいつの実家病院だったろ？」「あぁ、デカイ病院の院長してたんだっけ？」「そうそう。それでその親父がふと思い

まー @marble223

出したように話したんだって。何か招待客を決めていた時だったらしいが、高校の時の友達に連絡しなきゃって話していて、梨田連絡取れないんだよなって言ったら。親父さんが、梨田？そういや昔ある事件の被害者にそんな名前の子がいたなって。元気にしていたらおまえくらいかなって。何となく気になって

まー @marble223

話を聞いたら、ある事件の被害者で、お母さんの…」「…あの病院。田上ん家の病院だったんだ」「やっぱり、おまえだったのか」「あそこは祖父母の実家が近くて、事件の後入院した病院から祖父母が転院させたんだ」「そっか。梨田なんて、そうある名前じゃないしな。で、話を戻すが、その子は多重人格と

まー @marble223

診断されたらしいんだが、入院したばかりの頃は人格交代していたらしい。ただ、祖父母の献身的な看病のおかげで、少しずつ落ち着きを取り戻し、もしかしたら事件のせいで記憶が混乱していたのかもしれないと判断されたみたいだが…」「目が覚めたら祖父母が居たのは覚えているよ。長い長い夢を見ていた

まー @marble223

と思っていた。入院中の記憶はあんま覚えてないな。田上は何でそんな話をおまえに？」「それは、思い出したからさ」「思い出した？」「おまえ、先生が妊娠していた事は知ってるか？」「いや、知らなかった。この前、彼女のお母さんから聞いて初めて知ったんだ」「相手が誰だか知りたいか？」

まー @marble223

「そりゃ…知りたい」「相手はおまえだよ」「…」「いや、カイと言うべきかな」「そんな…まさか」「僕は、あの日。そう、その動画の日だ。先生が窓から飛び降りようとしていたのを止めたんだよ」「え？」「僕は、先生が好きだった。でも先生がおまえを好きなのは知ってたし、おまえが好きなのも知って

まー @marble223

た。あの日、僕は自分の気持ちにケリをつけたくて、ダメだってわかっていたが、自分の気持ちを伝えに放課後教室に向かったんだ。すると、先生がデジカメを持ってグラウンドに居るお前を見ていた。僕は立ち止まってしばらく見ていた。すると先生は…僕は教室に飛び込むと先生の前に立ちはだかった。

まー @marble223

先生はこの子と一緒に死なせてと言った。僕は先生の腕を掴んだ。この子と？先生は頷いた。まさか…先生は頷いた。僕は先生に死んじゃダメだ！と言った。とにかく話してみよう！梨田と！すると先生は諦めたように…わかったわ。梨田くんに言うわ。と、僕は掴んでいた手を離した。それから先生の話を

まー @marble223

聞いたんだ。二か月くらい前、梨田くんに呼び出され、いつもと様子が違うから、何かあったの？って聞いたら。今まで見たこともない冷たい目つきで、先生、俺の事好き？って聞いて…」「嘘だ…」「先生は試されたんだよ。アイツに」「試す？何をだよっ！」「こんな事をするヤツでも好きでいられるか？

まー @marble223

って」「何のために？」「カズ…カイはおまえを失いたくなかったんだよ。先生と居ると幸せで満たされてる。そうなるとどうなる？」「…カイは居場所がなくなる」「そうだ。おそらく、カズが危機にある時に出てくるのがカイだった。だから、カイはいつもおまえを守っていた。でもさ、おまえは祖父母と

まー @marble223

暮らすようになり生活も安定し、先生に出会い幸せだった。すると存在自体消滅してしまいそうになる。そんな焦りがあったんじゃないか？」「先生は…？先生は」「先生がいつおまえに話そうとしたのかはわからん。それは、あの事件の日に話そうと思ってたのかもしれないし、今ではわからん。ただ…

まー @marble223

僕は見たんだ。 あの時、お前が先生を押したのを。あれは事故じゃない。自殺でもない。お前が先生を殺したんだ。いや、カズ、お前じゃない。カイが殺したんだ。先生を。 俺は…俺はわかってたんだ。 そう。自分がした事を。 自分じゃない自分がした事を。

まー @marble223

自分じゃない自分がした事を。 警察に行き、取り調べが始まり、帰される時に、僕は思わずお前の腕を掴んだ。 おいっ！おまえが… するとお前は振り返って 人殺しのおまえに何か言う資格あんのかよ。と、言った俺は驚いた。あいつは笑いながら言った知ってるんだ。

まー @marble223

お前らがホームレスにした事をな。と。 どこまでもどこまでも暗い闇の様な冷たい瞳だった。おっと、コレが証拠だ。 そう言ってアイツはケータイの動画を見せた。代わりに、俺はホームレスの件は黙っていてやるさ。困った時の切り札はいくつも持ってないとな。カズを守ることは出来ないからな。

まー @marble223

と、アイツは冷ややかに笑った。 ゾッとした。俺は悩んだ。 いくら梨田に妊娠した事実を話しても、カズには届かない。アイツが出てきてしまうだけだ。カズに真実は届かない。 でも言わなければ、あの事をバラされてしまう。そんな事になったら、僕も田上も出口も…。

まー @marble223

僕は関わるのを止めてしまった。 そうさ、僕も逃げたんだ。真実から。 でも、僕はわかったんだ。何故、今カイが消えたのか。動画を見て、カイは気付いたんだよ。 僕もわかったよ。その動画を見て初めて。それは…