小説『ぼくと盤上の宇宙人』

囲碁棋士大橋拓文六段によるUstreamネットラジオ『大橋プロのスペースマンでGO!』の企画として番組アカウントで連載された小説『ぼくと盤上の宇宙人』(荘田 茜 作)です。
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大橋プロのスペースマンでGO! @spaceman_GO

「ぼくと盤上の宇宙人」第九章 18 たどり着いた山頂は、驚くほどの混雑だった。 人ごみをすり抜け、見晴らしの良い場所へと進んだ。 傾いた夕陽が向かいの山を照らしている。

2015-01-16 02:25:53
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「ぼくと盤上の宇宙人」第九章 19 空が水色から橙色に移り変わるグラデーションに染まっていた。 綺麗な空だった。けれどどんなに目を凝らしても、ぼくが一番見たいものは見えなかった。

2015-01-16 02:26:14
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「ぼくと盤上の宇宙人」第九章 20 「バカだ……」 ため息が出た。 ぼくは何しにこんなとこへ来たんだろう。 UFOとか宇宙船とか、そんなのが高尾山から見つかるとでも思ったんだろうか。

2015-01-16 02:26:32
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「ぼくと盤上の宇宙人」第九章 21 もと来た道を引き返し、足早に山を下りた。 山頂まで行ったから何が変わったということもない。ただ、一つだけ確かなものがあった。 ぼくは、囲碁を打とう。 鈴虫の音色が聞こえてきた。

2015-01-16 02:26:51
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「ぼくと盤上の宇宙人」第九章 22 電車を乗り継ぎ都心へと戻る。 その夜は夢も見ずにぐっすりと眠った。 翌朝、ひろふみのいない日本棋院でぼくは対局をしていた。 冷たい石の感触。碁盤から漂う木の香り。石音が耳に心地好い。 さあ、今日はどんな囲碁になるだろう。

2015-01-16 02:27:09
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「ぼくと盤上の宇宙人」第九章 23 背後で扉が開き、誰かが部屋に入って来た。ぼくの後ろで対局を見ている気配がする。 聞き馴染んだ声がした。 「ふかし、それ終わったら僕と打とう」 振り返ると、ひろふみが立っていた。 第九章 了

2015-01-16 02:27:31
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 1 「結局どうする? 」 「番組の方向性ありきなのか」 「囲碁のゆるキャラ」ひろふみが呟く。 「企画の面白さを重視するか」 「普及への影響力って観点も」 「囲碁のゆるキャラ」ひろふみが再び呟く。

2015-01-17 01:27:44
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 2 「うん、囲碁のゆるキャラはこの先面白いことになると思うけど、とりあえず今は次のゲスト決めちゃおうよ」 「確かに」

2015-01-17 01:28:12
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 3 北千住駅近くのお好み焼き店でのこと。 気楽な飲み会ムードから一転、ぼくらは真剣な打合せを行っていた。 脱線癖のあるひろふみを本筋に戻しつつ、次回のスペースマンでGO!のゲストと企画を検討する。

2015-01-17 01:28:29
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 4 あの夏、地球に戻って来たひろふみは、碁次元宇宙のことをすべて忘れていた。 宇宙本因坊との戦いも、サト子やカネガエの記憶も無くなっている。 片鱗といえば唯一、やたらと「コギャル」という言葉に反応するようになった気がすることだろうか。

2015-01-17 01:28:52
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 5 これも、ぼくがそう思いたいだけかもしれない。 単にスケベなのかもしれない。 打合せを終え、ぼくらは店の外に出た。 真冬の冷たい空気が頬に当たる。 「寒いっ」 ポケットに手を突っ込んで寒がるひろふみに、ぼくは声をかけた。

2015-01-17 01:29:12
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 6 「ねえ、ひろふみ」 「ん? 」 「さっきさ、囲碁は宇宙から来たって言ってたじゃん? 」 「うん」ひろふみが相づちを打った。

2015-01-17 01:29:40
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 7 「ぼくも実は、そんなこともあるかもね派なんだ。それでさ、思ったんだけどさ、むしろ逆に『宇宙は囲碁から来た』って考えるとよけい面白くない? 」 ひろふみは手を口許に当て、納得したように頷きながら言った。

2015-01-17 01:30:00
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 8 「囲碁は一手ごとに未来が枝分かれするから。枝分かれした無数の未来のうちの一つくらい、ここじゃない別の宇宙と繋がっててもおかしくない、よね」 ひろふみがあまりにピタリとぼくの考えていたことを言い当てたので、少し面食らう。

2015-01-17 01:30:20
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 9 そしてなんだか愉快な気持ちが込み上げて来るのを抑えられなかった。 「ひろふみ、もしかして本当は……」 ひろふみはすっとぼけた顔で歯を見せて笑っている。 まあ、どっちでも良いか。

2015-01-17 01:30:40
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「ぼくと盤上の宇宙人」エピローグ 10 手を振って挨拶を交わす。 「じゃあまた次回の放送で! 」 ぼくたちは別れ、それぞれの帰路についた。 「ぼくと盤上の宇宙人」おしまい

2015-01-17 01:31:11
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