小説『ぼくと盤上の宇宙人』

囲碁棋士大橋拓文六段によるUstreamネットラジオ『大橋プロのスペースマンでGO!』の企画として番組アカウントで連載された小説『ぼくと盤上の宇宙人』(荘田 茜 作)です。
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大橋プロのスペースマンでGO! @spaceman_GO

連続投稿小説『ぼくと盤上の宇宙人』はじまるよー

2014-12-07 12:30:45
大橋プロのスペースマンでGO! @spaceman_GO

「囲碁は宇宙からやってきたと思うんだよね」 なんの脈絡もなく、ひろふみが呟いた。 瞬間、打ち上げの席で盛り上がっていた場が止まり、一拍置いて周囲に笑いが起こる。

2014-12-07 12:31:14
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北千住駅近くの薄暗いお好み焼き店。 月に一度ひろふみがゲストを招いて囲碁の対局をし、その模様をUstreamで配信している。放送終了後に設けられた、フランクな会である。

2014-12-07 12:31:43
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またいつものやつかー、相変わらずですねー、などと囃し立てられ、最高のひらめきをぞんざいに扱われ納得がいかぬ、とでもいう風にひろふみは首をひねっている。

2014-12-07 12:32:18
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大橋拓文六段。囲碁を生業とするプロの棋士だ。 囲碁ファンの間では、奇抜な布石とマニアックな詰碁で人気を博している。 勝負の世界に生きながら、どこか勝ち負けを超越したところで囲碁を捉えているような雰囲気も魅力だ。

2014-12-07 12:32:36
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ふわふわと雲の上を弾むような歩き方。 独特の間合いで繰り出される、いかにも天から降ってきたかのような突飛な発言。 周囲を異次元にいざなうそのキャラクターから、親愛を込めて「宇宙人」と呼ばれている。

2014-12-07 12:32:54
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だけどぼくは、ひろふみが「宇宙人」と呼ばれるたびに心臓がドキリ とする。 それは、ひろふみも知らないぼくだけの秘密。 誰にも知られちゃいけない。 そう。ひろふみは文字どおり宇宙人なのだ。

2014-12-07 12:33:06
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第一章 1 ひろふみと知り合ったのは、小学六年生の全国少年少女囲碁大会でのことだ。ひろふみは四年生のときにその大会で準優勝していたので、名前は知っていた。 決勝戦だった。

2014-12-07 20:24:49
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第一章 2 しかし、棋力はひろふみのほうがはっきり上だった。 終局後、盤を挟んで向かいに座るひろふみの眼差しは、どことなく遠い世界を見ているようだった。

2014-12-07 20:25:36
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第一章 3 再会したのは日本棋院の院生になってからだ。 同じ学年だったこともあり、すぐに打ち解けてつるむようになった。ひろふみのすっとぼけた発言に毎回ツッコミを入れるのが楽しかった。

2014-12-07 20:25:56
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第一章 4 棋士を目指し囲碁漬けの毎日をすごす。 ぼくらは中学三年生になっていた。 このままプロを目指すならば高校に進学するかどうか微妙な時期だ。 ひろふみは、進学しないことをすでに決めたようだった。

2014-12-07 20:26:15
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第一章 5 あの日JR市ヶ谷駅のホームには蝉しぐれが降り注いでいた。 眼下に八月の太陽が照り付ける釣り堀が見える。 ぼくたち二人は汗もぬぐわず総武線の電車を待っていた。

2014-12-07 20:26:34
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第一章 6 「声が聞こえる」 「え?」 ひろふみの唐突な発言には慣れたつもりだったが、つい聞き返してしまった。 「ここ最近なんか聞こえるんだよね」 「……怖い話系嫌いなんだけど」 「佐為かも」

2014-12-07 20:27:43
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第一章 7 その年の正月に少年ジャンプで連載が始まった『ヒカルの碁』は、院生の間で一大ブームになっていた。 「いや、ズルすぎるでしょそれは。だいたいぼくら一人で必死にやってるっていうのに、ヒカルの野郎ときら、とんだチートだよ」

2014-12-07 20:28:13
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第一章 8 「佐為に操られて打ってるんだから……あれっ、てことは僕も佐為に乗っ取られるのかな」 ーー電車がまいります。黄色い線の内側までお下がりください。

2014-12-07 20:28:35
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第一章 9 突然、見知らぬ男がひろふみの肩を乱暴に掴んだ。 「お前の仕業か!」 ぼくもひろふみもビクリと飛び上がり振り向いた。男は片手に握った少年ジャンプを掲げながら、ひろふみに詰め寄った。

2014-12-08 22:59:16
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第一章 10 「お前! 本隊に無断でこんなことをして、どうなると思っているんだ。なぜ通信に応じない。定期連絡はどうした。我々に楯突くつもりか。なんとか言え!」 ひろふみは目を真ん丸にしながら、掴みかかってきた色白の男を見返している。

2014-12-08 22:59:46
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第一章 11 男は舌打ちしながら「来い」と強引にひろふみの腕を引っ張った。 ちょうど轟音と共に反対側のホームに電車が滑り込む。 ドアが開き、まばらに人が降りてくる。

2014-12-08 23:00:22
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第一章 11 ひろふみは到着した電車の近くまで引きずられていた。 ぼくはただ突っ立っていた。 目の端に、扉の中に引き込まれようとするひろふみが映る。 ーードアが閉まります。ご注意ください。 ーードアが閉まります。 気が付くとぼくはひろふみを追いかけて、駆け込み乗車をしていた。

2014-12-08 23:00:44
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第二章 1 三鷹行きの電車に乗り込んだはずだった。 だが、ここはなんだ。 閉まろうとする電車の扉に滑り込んだ途端、自分を取り巻く景色が消えた。そして、どうやら教室ほどの広さの空間に放り込まれたようだった。

2014-12-09 23:43:56
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第二章 2 壁一面に数多のモニターがはめ込まれ、そのすべてがそれぞれ囲碁の盤面を表示している。 19路はもちろん17路の終局図、対局中らしき13路、中には日本列島のような形をした変形碁盤もある。

2014-12-09 23:44:24
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◆「大橋プロのスペースマンでGO!~Welcome To Go Galaxy」公式アカウント ◆「日本社会人囲碁協会Twitter」@jygs15

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第二章 3 初手はどこに打つのが大きいんだろう。 隣に立つひろふみと肩を寄せ合い、画面に映る囲碁に意識を向けた。 ぼくはとても動揺していたのだと思う。 つい囲碁に目を奪われてしまったが、そうすることで訳のわからない状況と向き合うことを拒否していたにちがいない。

2014-12-09 23:44:57
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第二章 4 薄暗い空間の中でモニターの明かりがぼくらを照らしていた。 ひろふみに詰め寄った男は、部屋の一角に占めたパソコンのような計器に向かってしきりに何か話しかけている。 「おそらく緊急プログラムだが、通信に失敗したようだ。データが壊れている。バックアップを送ってくれ」

2014-12-09 23:45:21
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第二章 5 壁のモニターを見ていたひろふみが声をあげた。 「えっそこでツケるの! 」 どうやら壁中央にあるモ ニター上の対局のことのようだ。 確かに19路のこの局面では、見たことがないようなツケだった。

2014-12-09 23:45:43
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