小説『ぼくと盤上の宇宙人』

囲碁棋士大橋拓文六段によるUstreamネットラジオ『大橋プロのスペースマンでGO!』の企画として番組アカウントで連載された小説『ぼくと盤上の宇宙人』(荘田 茜 作)です。
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大橋プロのスペースマンでGO! @spaceman_GO

第二章 6 「ああ、それは」 計器から顔を上げ、男は薄笑いを浮かべた。対局の画面に向かって歩みながら答える。 「こう、こうして……」 指差して解説を始める。 「こうしのいで……こっちに先手」 「あっ! 」

2014-12-09 23:46:10
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第二章 7 ぼくとひろふみは、ほとんど同時に声を出した。 「そんな利き筋があったとは」ひろふみが感心したように、息を吐きながら言った。 この男は強い、とぼくの直感が告げていた。

2014-12-09 23:46:28
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第二章 8 「ここは一体、なんなんですか? ひろふみをどうするつもりなんですか」 負けた気がしたのを誤魔化したくて、質問を投げた。 「そろそろデータが届く頃だよ」 男はぼくの言葉を無視し、自分の眼鏡のつるを触りながらひろふみに声をかけた。

2014-12-13 12:30:19
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第二章 9 すると、急にひろふみの顔が赤く光り始めたように見えた。 よく見ると、眼鏡のレンズが発光している。 ーーデータの受信を完了しました。フォルダを展開します。 やはりひろふみの顔周辺、どこからか電子的な音声が知らせる。

2014-12-13 12:30:41
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第二章 10 「うわうわうわ、何これっ、何これっ」 ひろふみがうろたえながら頭をかきむしる。 「光ってる。光ってる 」 ぼくも上ずった声で連呼することしかできなかった。 ひろふみは髪の毛をむしるような動作を何度も繰り返し、唸りをあげ始めた。

2014-12-13 12:31:23
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第二章 11 不安を覚え、ひろふみの肩に触れた。小刻みに震えているのが伝わってくる。 「ヒラメイタッ! 」 突然ひろふみが大声で叫んだ。 思わずひろふみの肩をいっそう強く掴む。

2014-12-13 12:31:49
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第二章 12 そばで様子を窺っていた男が、口許だけで歪んだ笑みを作り、ひろふみに訊ねた。 「我々が地球に来た目的は? 」 ひろふみは応えない。 「データは正しく開けたはずだ。言え。我々の目的は? 」

2014-12-13 12:32:06
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第二章 13 ひろふみの視線がぼくを捉える。 眼鏡越しにその瞳が揺らいだように見えたのはぼくの気のせいだっただろうか。 なぜかぼくは困惑し、掴んでいた手を離してしまった。 「囲碁侵略」 ひろふみはぼくから視線を外し、きっぱりと告げた。 第二章 了

2014-12-13 12:32:27
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 1 あの時ぼくがひろふみの手を離さなければ、何かが変わっていただろうか。 ひろふみがどこか手の届かないところへ行ってしまいそうな、そんな予感が胸を占めていた。

2014-12-13 23:49:36
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 2 落ち着きを取り戻したひろふみは男と向き合って話し始めた。 「カネガエ、あの漫画は誰かが勝手に始めたことで僕は関係ないよ」 「だとしたら、機密情報が漏れているのか?我々の作戦に酷似しすぎではないか」 「僕の15年分のデータを解析してみれば? 」

2014-12-13 23:49:57
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 3 ぼくは一刻も早くここから逃げ出したくてたまらなくなっていた。 この場所がどこなのかはわからない。何が起こって、どうやってここに来たのかもわからない。

2014-12-13 23:50:49
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 4 わかっていることは。 教室程度の広さの部屋で、壁の三面はモニターで埋まっている。窓はない。出入口だろうか、ドアは一ヶ所だけ。鍵がかかっているかは不明だ。 居るのはカネガエと呼ばれた男と、ひろふみと、ぼくの三人のみ。 逃げるにはどうすればいい?

2014-12-13 23:51:15
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 5 多分あの男の目的はひろふみで、ぼくを連れてくる気はなかったはずだ。だとすると、ぼくだけだったらなんとかなりそうな気もする。 でもそれじゃダメだ。 そう考えながら、ぼくは同時に迷ってもいた。 ひろふみはぼくと一緒に逃げてくれるだろうか。

2014-12-13 23:51:32
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 6 ひろふみはカネガエと話し込んでいる。 「我々は囲碁が打たれるときに発生する超エネルギーを糧に生きている。これはデータにある通りだから、把握できただろう」

2014-12-13 23:51:58
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 7 「今この地球上では、金を多く持っているものが支配階層になる仕組みになっているな? 」「まあ、そうかも」 「その仕組みを変える。金ではなく、囲碁がすべての指標になる世界に作り変えるのだ。囲碁の強者が支配者として君臨し、この世界を統べることになる」

2014-12-13 23:52:54
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 8 「革命的な社会構造の変化だ」 「我々にとってこれほど都合の良い世界はあるまい。仕組みを作ってしまえば、我々が洗脳などの手を入れずともよくなる。自動的に人類が囲碁を広め、打ち、より効率的にエネルギーを供給してくれることになるだろう」

2014-12-13 23:53:24
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 9 「ちょっと待って」 ぼくは思わず割り込んでしまった。 「囲碁の才能が無い人はどうなるの」 カネガエは、ぼくがいる ことをようやく思い出したという風に視線を寄越した。 「君はけっこう囲碁が打てるんだろう。なら悪い相談じゃない」

2014-12-13 23:53:48
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 10 「ぼくの話はいいよ。頑張ってもどうしても強くなれない人は少なからずいるよね。そういう人たちはどうなるの? 」 「囲碁ができないなら、野垂れ死ぬことになるな」 男は表情を変えることなく言葉を継いだ。

2014-12-13 23:54:14
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 11 「今だってそんなに変わらないだろ。金を稼ぐ力、あるいは増やす力のない人間はどうなる?どんなシステムになっている? 」 「囲碁は苦手でも他の分野では才能がある人だって…… 」

2014-12-13 23:54:32
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 12 「例えば、どんなに音楽の才能に秀でていたとして、それを金に変える力がなければその才能は無いことと同じになる。そういう社会をこの数百年かけて作ってきたのは君ら自身だ。我々はそれを真似させて貰うのさ」

2014-12-13 23:54:48
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 13 話に納得がいかない。といって、反論も出来ない。 ぼくは一刻も早くひろふみと一緒にここから逃げたいのに。 そんなのおかしいだろ。 腑に落ちない感情の塊に絡めとられたように、体は動かなかった。

2014-12-13 23:55:03
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 14 「ふかし」 ひろふみがぼくの名を呼んだ。 「そろそろ戻ろう」 ぼくの手を取り、扉に向かって歩き初めた。 「待て、戻るとはどういうつもりだ。お前の帰る場所は我々の宇宙だろう、ヒロフミ」 カネガエが制止の声をあげた。

2014-12-13 23:55:37
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 15 「うん。だけど、明日も棋院に行かなきゃだし」 「反抗する気か。やはり通信を途絶えさせたのは意図的だったか」 「いや、それは故障だから。緊急プログラム発動してたんだってば」 「疑わしいな」

2014-12-13 23:55:54
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 16 「僕が確かに君らの仲間だってことは送ってくれたデータでわかったよ。君らの作戦を邪魔するつもりはない。でも僕は15年地球人として育った。だから協力も出来ない。扉を開けてよ」 「逃がすと思うか」 「じゃあ……対局だ」

2014-12-13 23:56:11
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「ぼくと盤上の宇宙人」第三章 17 ひろふみは痛いほどにぼくの手を握り、そして離した。 攻撃的な気配が立ち上るのを感じる。 突如ひろふみとカネガエによる対局が始まった。 第三章 了

2014-12-13 23:57:09
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