暗礁艦隊外伝～お隣艦隊その１～

CF型マシニーカhir @hir_CF

闇夜。 ランタンを片手に、もう片方の手にショットガンを携えた男が、畑の間の畦道を歩いている。 #魔法使い提督

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今は、冬野菜の収穫期。深海棲艦が跳梁跋扈する今のご時世、日本では食料は貴重だ。 最近は武装を降ろした艦むすが労働力に加わってくれているからまだ楽だが、去年の今頃は燃料も尽き、すべてを人力でやっていたほどだ。過酷な労働はそれだけでも死者を出した。 #魔法使い提督

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食糧事情は多少安定したとはいえ、野菜泥棒の類は後を絶たない。 男も泥棒がいないか見回っているところだった。 ガサッ 「！？」 何かいる。 畑の隅でゴソゴソしている何かが。 「誰だ！？」 … 灯りを地面に置くと、銃口をそちらに向ける 「出てこい。さもないと撃つぞ！」 #魔法使い提督

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ガサガサガサッ！ 「！？うわあ！」 銃声 しかしそいつは勢いを殺さず突っ込んできて―― #魔法使い提督

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「おれ見たよ！あいつ、銃弾を浴びても痛がりもしねえで突っ込んできたんだ！」 包帯を巻かれて怪奇ミイラ男状態になった被害者から聞き取りをしているのは艦娘であった。 「ええと。銃弾を浴びて平気な野菜泥棒…深海棲艦…じゃないですよね」 深海棲艦は野菜を喰わない #魔法使い提督

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深海棲艦は人間を見かければ、よほどのことがない限りは必ず殺す。何より奴らはとてつもなく重く、地面にめり込まないために広範囲へ重量を分散させる。結果として地面には痕が残る。だから、男が遭遇したのは深海棲艦ではない。 「うーん。まあ調べてみますね」 #魔法使い提督

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一通り話を聞き終わった娘は、畑へ出ると現場に残された跡を調べた。 「うーん。足跡は人間？」 パシャリパシャリ シャッターの音を幾度かさせると、その場から足跡を追跡。 人間サイズでありながら艦橋並みの視座の高さと視力を誇るのが艦むすだ。 #魔法使い提督

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地上と上空、両面での探査を続けながら移動した結果はすぐ出た。 足跡が洞窟へと続いていたのだ。 そちらに歩み寄る娘。と。 「クマァァァッ！」 真横から衝撃。 駆逐艦なら中破しかねないほどの衝撃力を耐え、娘は艤装を展開した。地面が広範囲に陥没する #魔法使い提督

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手にした砲を相手の脇腹に押し付け、何も考えないまま発砲。 その一撃で、襲ってきた相手の上半身は下半身にお別れを言う事態となった。 改めて、自分の撃った相手を観察する娘。 「…く、球磨型？」 「くまぁ…」 何故艦むすが野菜泥棒を？ #魔法使い提督

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がさっ びくっ 「あ、あのぉ…いるなら出てきた方がいいですよ？撃っちゃいますよ？」 重巡娘の視線の先には洞窟がぽっかりと口を開いている。球磨はそこにいかせまいとしたのか？ しばし考え込むと、娘の腿がパカッと開く。中から出てきたのは数人の妖精さん。 #魔法使い提督

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意を決した妖精さん達が洞窟の中へと入る。 数十秒後。 そのうちの１人が、重巡娘へ手招きした 「大丈夫です？」 そろりそろりと近づいた彼女が見たのは… 「…女の子？」 見慣れない姿だ。人間か？それとも駆逐艦娘だろうか？ 岩肌に寄りかかり、顔色が悪い。意識はないようだ #魔法使い提督

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少女を持ち上げようとして…重い。１００ｋｇ以上ある。人間ではない。 「これは一大事ですねえ」 呟いて、重巡娘―青葉は、自宅である魔法使い鎮守府―通称暗礁艦隊へと通報した。 #魔法使い提督

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「これは磯風だな」 カタログを手に魔法使い提督は呟く。 「作るのに戦艦棲姫の残骸が１０体分は必要なのに性能は並み以下でな。持ってるだけでステータスにはなるが」 寝台に横たえられた磯風を酷評。 「また珍しいものを」 「へへ、それほどでも」 「褒めてないって、青葉」 #魔法使い提督

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「で？こっちの修理は終わりそうか」 「はい！大人しいもんです」 妖精さんによってバラバラに分解されているのは、先ほど青葉に大破させられた球磨 「治ったら事情を聴かせてもらおう」 武力を握っている提督は、事実上司法権も握っている。おかげでこんな仕事も舞い込むわけだが #魔法使い提督

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「う……うぅん」 艶めかしい声が上がる。青葉と提督が振り返った先では、磯風が身をよじっていた。 「おはよう。眠り姫さん」 まだ寝ぼけているのか、穏やかな笑みで提督を見上げる磯風。 数秒。 「…っ！？」 正気に戻ったのか、ローブにフードの怪人から飛び離れる #魔法使い提督

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「…っ！お前は」 覚醒した磯風は周囲を一瞥。木造平屋内。戦力測定。ローブ姿の人間１。青葉型重巡１。右側に入渠中の球磨。音響も測定。外からの駆動音６。既に臨戦態勢の駆逐艦・軽巡がいる。どう突破するか…いや、球磨を置いては 「落ち着け。私は敵ではない。今のところは」 #魔法使い提督

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「…」 「魚料理は嫌いかね？」 先の騒ぎの後。目の前の男は、ローブを脱ぎ捨てるとエプロンを手に取り料理を開始。瓦を積んだ戸外のカマドでたちどころに米を炊き、焼き魚、野草のお浸し、味噌汁を作りあげると、磯風を食事に誘った。 「…美味い。手慣れているのだな」 #魔法使い提督

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「魔法使いだからな」 「…（じー」 自称魔法使いの提督に対してジト目を向けると、食事に戻る磯風。 「そうか、食事が必要なのは君だったか」 「…」 艦娘は基本的に食事を必要としない。エネルギーとする事はできるが、重油の方がはるかに効率がいい。 「君は人間だな？」 #魔法使い提督

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「さて。食事しながらでいいのだが。幾つか質問していいかな」 磯風は無言。 「では勝手にさせてもらおう。君たちは何者だ？」 僅かな間。 「…答えられない」 「何故？」 「話せば貴方は私を放置しておかないだろうからだ」 「だろうな。ならばこう聞こう。困っているかね」 #魔法使い提督

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「…ああ。あの洞窟で、私は動けなくなっていた。残っている生体部分に栄養が不足していたからだ」 磯風の言葉。 「だから、連れは野菜を盗んでいたのか」 艦むすは戦闘しなければ無補給で数か月は稼働する。だが生身の人間から作られた個体は栄養が必要だ。 #魔法使い提督

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「ふむ。賠償する意思があるのであれば、うちで立て替えよう。その分は働いて貰いたいのだがね。衣食住、補給と整備は勿論提供する」 「よいのか？」 提督の言葉は磯風には望外の申し出だった。 「死人や重傷者が出ていないからね。あとで謝りに行ってもらうが」 「それは勿論」 #魔法使い提督

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「では、君と連れは今日からうちの艦むすだ。よろしく。…おっと、自己紹介がまだだったか。人は、私の事を魔法使いと呼ぶ。君もそう呼んでもいいし、提督と呼んでももちろん構わない」 確かに魔法使いらしい姿だ。 そんなことを思いながら、磯風は差し出された右手に握手を返した。 #魔法使い提督

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そこは神戸市元町から南へすぐ。旧外国人居留地に残る古く格式のあるビルディングの一つが、元町鎮守府の建物だ。 「てーとくぅ！ゆーがっとめーる！」 「はいはい、ちょっと待ってね金剛」 黒いサラサラヘアーの元町提督は、金剛が持ってきた原始メール―手紙―を受け取った。 #魔法使い提督

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「ドーしたの？提督」 手紙を読み始めると、見る間に眉間に皺が寄る元町提督。 「…あいつ」 「ほえ？」 「あいつが脱走したそうよ」 「えー！？脱走って…改造処置した時ミーも立ち会ったけど、記憶思い出せなくなってたＹＯ！？」 「前のあいつの艦娘が手引きしたみたい」 #魔法使い提督

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「拠点がないから、何もできないと思うんだけど」 「ですネー。そのうち野垂れ死にするか、あいつの方から助けて下さいって言いにくるに決まってマース」 そこまで言うと、元町提督は曇った表情を振り払った。 #魔法使い提督