S-M 過去

あ阿々。 @rainbow_solara

① ”風邪ひいて熱があるので友達の家に泊まります。ごめんね。” 仕事終わり、届いてたメッセージ。 ライブ前だから。 風邪うつすわけにいかないから。 だから帰りません。 って。 アホか、あいつ…。 なんでこんな時に風邪ひくねん。 そんな場合ちゃうやろ…。

あ阿々。 @rainbow_solara

② っていうか、俺も人の事言われへんけど。 人一倍虚弱体質で、大事な時にいっつも体調を崩してしまう俺。 何度その世話をさせたか。 昔のことを思い出す。 あいつを初めて抱いた後。 あいつは熱を出した。 知恵熱。 その時隣にいたのは、俺ちゃうかった。 俺は何もでけへんかった。

あ阿々。 @rainbow_solara

③ そこは俺の居場所ちゃうかった。 熱で苦しい体も、俺とそいつの間で苦しむお前も、 何も癒してやれへんかった。 ただ遠くで想うだけやった。 悔しかった。 帰って、毛布を一枚と車のキーを持って、また外に出る。 その友達ん家は知ってる。 一回、迎えに行ったことがある。

あ阿々。 @rainbow_solara

④ 俺と付き合ってんのは知ってたんやっけ？ まあええわ。 拒否されても、怒られても、暴れられても、絶対に連れて帰る。 マスクして、いっぱい手洗いうがいして、加湿器つけて、絶対にうつらんようにするから。 だから帰ってこい。 よう看病なんか出来ん。 ただの我儘なんわかってる。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑤ でも、俺の目の届かんとこで苦しむな。 倒れるな。 あん時決めてん。 側にいるって。 あいつが苦しいときは、しんどいときは、俺が側にいる。 言わんでも、拒否されても、絶対に。 あん時みたいに遠くでモヤモヤすんのも、後悔すんのも、もう嫌やねん。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑥ 赤信号。 煙草に火をつける。 あいつが帰ってきたら、治るまでこれもやめる。 そう決めて、最後の煙をいっぱいに吸い込む。 信号が変わったのを確認して、アクセルを踏む。 はやる気持ちを抑えて、あいつの元へと、夜の道をただ走らせた

あ阿々。 @rainbow_solara

① 熱出したって、聞いた。 仕事の合間に電話したら、 大丈夫です。 ご心配かけてすいません。 なんて、固い言葉で返された。 言外の、拒否。 遠くで男の声がする。 ああ、彼、がおんねんな。 めっちゃ緊張してんやろ、今。 何も言えずに電話を切った。

あ阿々。 @rainbow_solara

② でも、その熱、俺のせいやろ？ 一昨日の夜、初めてお前を抱いた。 抱いたって言うか、最初は玄関で無理矢理。 あとは、ベッドで一晩中。 腕の中にずっと閉じ込めて。 押し返す手が、いつしか背中にまわって、縋りつく。 めっちゃ幸せやった。 今でも、あの甘い声が耳から離れん。

あ阿々。 @rainbow_solara

③ あれで、あいつの限界超えてまったんやろな。 電気のついた窓を、車から見上げる。 あそこにお前がおる。 彼、もおる。 熱の原因なんて言えるはずもない。 風邪、とか、疲労、とか言ってんねやろ。 浮気相手の熱を彼氏に看病してもらうて、どんだけしんどいか。

あ阿々。 @rainbow_solara

④ 治るもんも治らんやろ。 あいつの心境を思って、溜息をつく。 幸せなあいつの日常を壊したのは、俺。 俺があそこに行って、全部ぶちまけて、そうしたら少しは楽になる？ そういうことじゃないやんな？ 多分。 どうしたらええんやろ。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑤ あん時はあんなに幸せやったんに、今はめっちゃ寒い。 あのぬくもりと柔らかさを知ってしもた。 もう手放せへん。 でも、今俺はあそこには行かれへん。 真面目なお前やから、今これ以上攻め込んだら、きっと全てを捨ててどこかへ行ってまう。 それだけはあかん。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑥ でも、あいつの幸せを祈って身を引くなんて、もうでけへん。 窓の明かりが消えた。 しばらくして、男が一人、マンションのエントランスから出てきた。 あいつか？ 駅の方向へ消えていく背中。 苛立ちを抑えて煙草を揉み消す。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑦ 部屋で一人。 寝てるやろか。 ちゃんと息してるか？ 一人になって、安心してる？ 泣いてる？ 後悔してる？ 今、誰を想ってる？ 何をするわけでもなく 何が出来るわけでもなく ただ一晩中 お前が寝てる部屋の窓を見上げていた。

あ阿々。 @rainbow_solara

① もう何度目だろう。 こうして、人目をはばかるように貴方と体を重ねる。 もう見慣れてしまった天井。 ベッドに押し倒されて、背中に手が回って、キスが降って来る。 啄む唇。 次第に深くなるそれに簡単に溺れていく。 手を絡めあって、隙間を埋める様に求め合って。

あ阿々。 @rainbow_solara

② この関係は誰も知らない。 私の気持ちも、誰も知らない。 嘘。 知ってる。 指から、彼の証を抜き取ろうとする貴方。 咄嗟に抵抗するけど、あっさりと奪われて、ベッドの下に放われた。 誰のものでもない私。 貴方のものになる私。

あ阿々。 @rainbow_solara

③ 暗い部屋で、隠れるように、抱き合って、繋がり合う。 ヴー… 携帯が鳴った。 彼。 長く震えて、止まる。 また、震える。 何度も。 多分、彼は気付いてる。 私が何か隠してるって。

あ阿々。 @rainbow_solara

④ 貴方の手がのびて、電源を落とす。 私じゃないの。 この人が切ったの。 私は悪くないの。 ごめんね。 込み上げる罪悪感に蓋をする。 「何も考えんな」 苛立ちをそのまま私の体にぶつける。 それを私全部で受け止める。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑤ 『しぶ、た、に…さ…』 やっと、それだけ。 「いつになったら、名前呼んでくれるん…？」 黙ってしまった私に、笑って、また繋がる。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑥ ずるい私。 何も考えたくない。 答えは出てるの。 分かってるの。 でも、どうしたらいいかわからないの。 怖いの。 世界が変わるのが、怖いの。 この手を離せないの。 あの手も離すのが怖いの。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑦ どうしたらいいの？ どうして欲しいの？ 全部捨てて逃げてしまいたい。 全部捨てて連れ去って欲しい。 分からないの。 分かってるの。 一度繋がってしまったら、もう止まらない。 分かってたのに。 あとはもう堕ちて行くだけ。

あ阿々。 @rainbow_solara

⑧ この部屋に この腕に 閉じ込めて 抱き締めて 繋がり合って 揺さぶって 何も考えれなくなるまで そうすれば、きっと。 分かってる。 私はずるい。

あ阿々。 @rainbow_solara

① "そんで、結局どうやって別れたん？" コーヒーを飲みながら、横山君が聞く。 『結婚しようって、言われたから』 "はあ？" わけわからないって顔。 『どこにもいかないでって。何もしなくていい。ずっと一緒にいようって言われたから』 "意味わからん"

あ阿々。 @rainbow_solara

② 『見えないとこ行かないでって、先行かないで、って言われた』 "…" 『結婚チラつかせて、もうこれ以上成長するなって』 "そんなん言うてないやん" 『言われたの』 カップを口に運ぶ。 『変わらないでって。だから』 "…だから？" 『別れた』 "…"

あ阿々。 @rainbow_solara

③ 『すばると一緒に行こうって、決めた』 "そんだけ？" 『…』 意を決して、話をして、 彼は激高して、私の服を剥ぎ取って、 すばるが体中に付けた痕を見て、愕然としてた。 手を上げかけて、下ろして。 そして、結婚しようって。

あ阿々。 @rainbow_solara

④ それを妙に冷めた気持ちで聞いてた。 ああよかったって、思った。 これで別れられるって。 すばるの所に行けるって。 すばると一緒に、前向いて一緒に歩いて行こうって、 泣きながら縋りつく彼を見ながら思っていた。 最低。 知ってる。