ストレイトロード:ルート140(10周目)
- Rista_Bakeya
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谷底に造られた道路は一面白く、前を走る車が刻んだ溝もすぐ同じ色に染まった。窓の外に広がる雪景色を眺めているのだろう、藍が騒いでいるが、私は全て聞き流した。ハンドルの加減、ブレーキの踏み方一つでタイヤが滑る危険な足元を彼女はきっと見ていない。もっと飛ばせと言い出す前に谷を抜けよう。
2014-12-27 21:47:36「勝負は勝負でしょ?」そう言い放った藍の前で、テーブルに叩きつけられたカードの束が宙を舞った。イカサマがあったと主張する勝負師達の中にただ一人、必ず雪辱を果たすと叫んだ者がいた。藍は笑って手を振った。もしこれが何かを賭けた戦いだったとしても、彼女は同じように振る舞ったのだろうか。
2014-12-28 23:03:50怪物に制空権を奪われた世界でも空軍は存続している。但し各国が競うのは空を飛ぶ技術ではなく、未知の敵を撃ち落とした数だ。「あれが最新の対空兵器です」案内役の兵士が基地の庭を占領する巨大な箱を指した。「でもまだ人間の底力はこんなものじゃない」力強い一言だった。藍は深くうなずいていた。
2014-12-29 20:13:46藍は装いと態度を飾ったお出かけの時も、食事の好き嫌いだけは我慢も妥協もしない。無闇な拒絶の悪い側面を説いても「相性が悪い」などと撥ね付ける。あまりにも堂々としているので、私は次第に躾ける自信を失った。私に娘を託した両親は今までどうしていたのか。尋ねなくても藍の言動から察しがつく。
2014-12-30 19:28:26140文字で描く練習、466。託す。 大人としての責任はどこまでなのか。 知りたくもあり、知りたくもなし。
2014-12-30 19:28:32藍は雇用契約書のサインを確かめてから、急に顔を上げた。結った髪の房が私の顔を直撃した。「わたしを裏切らないって、今ここで誓って」私が目を開けられない間に、藍は要求を追加してきた。うなずいたら額が衝突する程詰め寄られた。「曖昧はダメ。声に出して」誓いを録音していたことは後に知った。
2014-12-31 19:45:36城壁の外は既に空が明るく、見張り台に人が上がる様子がはっきり見えた。「山の方はもう日が昇ってるから、そろそろね」藍が外を見て来たように言う。私が予定時刻を確かめようと時計を見た瞬間、角笛の音が街に夜明けの到来を知らせた。人々の歓声に沸く大通りにももうすぐ新しい朝が降り注ぐだろう。
2015-01-01 20:07:46140文字で描く練習、468。角笛。 風の魔女が持つ技の一つ。風が吹きわたる空の上からの世界をいつでも見られる。
2015-01-01 20:07:51子供たちが奇妙な面を被った人物から逃げ回っている。村の伝統行事は日没まで続くという。「最後まで逃げ切れたら今年は無病息災だそうです」「転んだらどうなるの?」首を傾げた藍の前で一人が転んだ。しかし鬼役はその子供を無視し、他の子を追って去っていった。「…こういう逃げ延び方もあるのね」
2015-01-02 20:17:37なお今回の140にモデルなどは特にありません。形式→意味→詳細の順でさっき考えた「どこかでやっているかもしれない架空の祭り」です。念のため。
2015-01-02 20:22:52人里を荒らし回り、藍が戦いの末に山中へ追いやった怪物と、山を挟んだ向こう側の村で再び出くわした。「でも前に見た時はこんなじゃなかったわ」顔の独特な形状は記憶と一致したが、以前と比べて明らかに胴回りが膨らんでいる。冬眠を控えた獣のようだ。「だったら本当に眠ってくれたらよかったのに」
2015-01-03 21:20:15山林に切り開かれたバイパスを可能な限り急ぐ。藍は窓を開け、雪上を並走する怪物を睨んでいる。「早く車止めて。あの爪だけでも折らないとこの先危ない」「せめて先にこの道を抜けさせてください。今ここで暴れられたら雪崩が起きます」藍の主張は理解できる。だが反論には雪崩の説明から必要そうだ。
2015-01-04 19:59:51食料品店に藍を連れて行くと、彼女は必ずカゴに入った物を逐一確認する。そして時に私の目を盗み、時に堂々と、商品を別の品に入れ替える。今日は魚の缶詰をすり替える瞬間を目撃した。「先日も買いましたが、お口に合いませんか?」「実はちょっと苦手」そういう感想は食べた時に言ってほしいものだ。
2015-01-05 19:53:10ヘッドライトを消し、エンジンを切った。月光に包まれた荒野の片隅で、おんぼろの愛車はしばしの眠りにつく。もちろん私達も。藍は助手席のシートを後ろへ倒し、積んでいた毛布を全部動員して自分の安眠を確保している。私は古くなった上着2枚を重ねて肩にかけ、やっと僅かな温もりを得て目を閉じた。
2015-01-06 19:31:55「こんなのを食べるの?」「はい。近縁種が市場に出回る時期もあります」山の斜面で見かけた幾つかの草花が食用になると教えても、藍はしばらく信じなかった。身近な野菜との比較も交えて説明すると、今度は近くに生えていた大樹の根を指して聞かれた。「あれも何かに使える?」「…昼食の椅子になら」
2015-01-07 19:28:23