金銭的市場経済と贈与ネットワーク

全てを金銭でしかカウントできない市場経済では、いざというときの危機に保障がない。贈与ネットワークを強化し、「真の富」が交換されるしなやかで強い経済を目指すべき。
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shinshinohara @ShinShinohara

農業技術を研究している限り、熱心に読むことはなかろうと学生の頃思っていたのが経済学だった。 しかし、なぜ農家は儲からないのか、まさに命の糧である食糧を作る人たちがこんなにも軽んぜられるのはなぜか、という疑問が強まってきたとき、自然と興味が湧くようになった。しかしあくまで農業が軸。

2015-02-05 15:02:04
shinshinohara @ShinShinohara

民主党の前原氏が指摘したように、農業の生産額はGDPのわずか1%。経済学的視点からいえばこんな産業は守る価値がなく、日本から消えてなくなっても構わない、という単純な反応が生まれるのもやむを得ない面がある。しかしこの意見は経済学的洞察が浅いと言わざるを得ない。

2015-02-05 15:05:12
shinshinohara @ShinShinohara

世界一の食糧生産国であるアメリカならばさぞかし農業生産額が大きかろう、と期待したいところだが、驚くべきことにGDPの1.4%でしかない。日本のように農業が斜陽産業のようにとらえられてきた国と比べても、アメリカにおいてさえ農業の売上額は大したことがないのだ。

2015-02-05 15:08:29
shinshinohara @ShinShinohara

石油は全産業にとって重要なエネルギーだが、GDPの何%に相当するのだろう?2010年当時で石油の輸入総額は約10兆円、GDPの約2%に過ぎない。さすがの前原氏も「GDPのわずか2%でしかない石油なんか輸入しなくてもよい」とは言わないだろう。

2015-02-05 15:16:08
shinshinohara @ShinShinohara

そう、石油は全産業にとってのエネルギーであり、食糧は人間にとってのエネルギーだ。石油でトラックもトラクターも動き、食糧でサラリーマンは働く。エネルギーなしには動かない。エネルギーは絶対不可欠であり、値段の安さだけで決して判断してはならないものなのだ。

2015-02-05 15:18:56
shinshinohara @ShinShinohara

このことは「農業を成長産業に」というキャッチフレーズとも強く関係してくる。分かりやすくするため、ここでもたとえを「石油を成長産業に」と言い換えてみよう。石油が成長産業になるということは、石油を大量に消費するか、消費量が増えないなら石油価格が高くなることを意味する。

2015-02-05 15:22:09
shinshinohara @ShinShinohara

二酸化炭素の問題があるから石油の消費量を伸ばすわけにはいかない。従って「石油を成長産業に」というフレーズは石油価格の高騰でしか実現できない。石油が高くなれば運送業も苦しくなり、製造業も原材料が高くなる。石油が成長産業になれば他の産業が低迷するのだ。

2015-02-05 15:24:20
shinshinohara @ShinShinohara

同じことが食糧にも言える。「農業を成長産業に」は、食糧の価格がそのままだとしたら大量生産することを意味し、生産量がそのままなら食糧の価格が高騰することを意味する。 少子高齢化で食べる量が減っているから食糧増産は難しい。ということは、農業が成長するには食糧が高騰するしか道がない。

2015-02-05 15:27:37
shinshinohara @ShinShinohara

食糧が高騰すれば国民の生活が苦しくなることを意味する。100円で買えていたパンが200円に、3000円で買えていたコメが6000円になれば、生活は一気に苦しくなる。統計が取られなくなったと言われる「エンゲル係数」が高くなることを意味するのだ。

2015-02-05 15:29:47
shinshinohara @ShinShinohara

農業が他の産業と比べてGDPに占める割合が小さいということは、国民が食糧を安く購入でき、その分生活にゆとりがあることを意味する。食糧は国民のエネルギーとなり、ありとあらゆる産業を支える労働力を生んでいる。GDPに占める割合が小さいことに難癖つけるのは少々早とちりといわねばならぬ。

2015-02-05 15:33:53
shinshinohara @ShinShinohara

実は、食糧の生産量を増やさず、食糧の価格も高騰させずに「農業が成長産業に」なったように見せかける方法がひとつある。食糧を全て市場経済にのせてしまうことだ。親戚の農家から送ってもらっていたコメも全て市場に出荷し、金で買うしか方法がないようにしてしまうことだ。

2015-02-05 15:38:12
shinshinohara @ShinShinohara

この事態はすでに進行しつつある。多くの農家が農地を手放し、担い手農家に農地が集約しつつある。今は地代がわりに一定量のコメを地主に渡すことが多いようだが、そのうちそれもなくなるような制度変更が行われるだろう。大規模農家は作ったものを全て市場に出荷するようになる。するとどうなるか?

2015-02-05 15:40:53
shinshinohara @ShinShinohara

興味深いエピソードがある。93年の米不足の際、親戚に農家がいる人はコメを送ってもらうことができ、少しも困らなかったが、親戚に誰も農家がいない人は、どこに行っても国産米を手に入れることができなくなってしまったのだ。

2015-02-05 15:43:10
shinshinohara @ShinShinohara

そう、これまでの日本農業には、金銭の授受がほとんど行われないか、あってもごくわずかでGDPに全く現れてこない食糧の私的流通があった。コメは必ずしも市場に出荷するわけではなく、宅急便で親戚宅に定期的に送られていた。お金に換算されることのないコメの流通ルートがあったのだ。

2015-02-05 15:47:33
shinshinohara @ShinShinohara

しかし大規模化が進めば親戚にコメを送ることができなくなってくる。コメは市場、あるいは小売業を通じて金銭でやりとりされる形で流通するしかなくなる。こうなると、コメの生産量は変わりないのに流通量が見かけ上増えた、という状態にもなりうる。

2015-02-05 15:49:46
shinshinohara @ShinShinohara

大規模農業を推進すれば、タダ(あるいは安価に)で親戚に送られてきたコメが、全て金銭的市場経済の場に登場し、流通量が増えたかのようにみえる。しかし、その際に犠牲になるのは「国民の食料安全保障」だ。

2015-02-05 15:52:37
shinshinohara @ShinShinohara

93年の米不足でも慌てずに済んだ人達も、親戚が農家を辞めることであてにできなくなる。もし似たような食糧高騰の時代がきたとき、誰もがスーパーに殺到して食糧がなくなっていることに右往左往しなければならなくなる。金銭的市場経済に全ての食糧を任せるとそういうことになる。

2015-02-05 15:55:53
shinshinohara @ShinShinohara

この構造はアフリカの食糧危機と似ていることに注意が必要だ。アフリカでは、アメリカの安い小麦やトウモロコシが大量に流入し、貧農でさえ太刀打ちできないほど価格破壊が起きた。やむなく賃金がもらえるコーヒーのプランテーションで働いた。農地はコーヒー園に、農家は農業労働者に。

2015-02-05 16:00:07
shinshinohara @ShinShinohara

そしてコーヒー価格の暴落と天候不順による食糧生産の低迷が起きた。コーヒー園でもらえる賃金はわずかであり、アメリカから輸入する食糧は相対的に高くなって手が出せず、かといって国内の農地はコーヒー園に変わってしまって食糧を作っていなかった。結果、大量の飢餓民が発生した。

2015-02-05 16:03:21
shinshinohara @ShinShinohara

アフリカの人達は自ら食糧を作ろうにもアメリカの安すぎる食糧に太刀打ちできず、次々に畑を手放さざるを得なくなり、畑はコーヒー園に変わって食糧を作らなくなり、賃金を稼いで食糧を買う構造になった。そのときに賃金低下と食糧高騰が重なると、食糧を手に入れる術がなくなってしまったのだ。

2015-02-05 16:07:25
shinshinohara @ShinShinohara

食料安全保障を考える際、金銭的市場経済のことだけを考えていては十分な対策を取れなくなる。食糧は生命維持にはなくてはならないものなのに、お金がないと飢え死にするしかない、というセーフティネットの薄さは、安全保障と呼ぶに値しない。どんな軍事力を誇ろうと飯が食えない軍隊は潰える。

2015-02-05 16:11:20
shinshinohara @ShinShinohara

「農業を成長産業に」という掛け声とは逆に、「農業を市場経済から切り離す」視点もあってよい。どちらか一方に偏するのはよくない。市場経済で頑張れる分野には頑張ってもらうが、食糧は安全保障面を重視し、市場経済とは対照的な「贈与ネットワーク」面を育てる視点もあってよい。

2015-02-05 16:14:24
shinshinohara @ShinShinohara

@wheyh 羨ましいですね。 これが失われたとき、国民の生活安定性がどう損なわれてしまうのか、注意が必要ですね。

2015-02-05 16:18:02
shinshinohara @ShinShinohara

農家から親戚に送られていたコメも「贈与ネットワーク」によるものだ。盆と正月に都会から物珍しいお土産を買ってきてくれた、娘が大学に進学する際に下宿の世話をしてくれた、等々、「贈与」に対するお返しとしてコメが送られてきた。それは必ずしも対価として釣り合ってなくても構わなかった。

2015-02-05 16:22:27
shinshinohara @ShinShinohara

「いつもおいしいお米をありがとう」という便り。誕生日に送られてきたささやかなプレゼント。「憶えていてくれたのか、嬉しいな」。出張先で見つけたちょっとした小品。コメの対価として釣り合っていなくても「また来年も旨いコメを送ってやろう」となる。贈与ネットワークは釣り合いではないのだ。

2015-02-05 16:25:42