立ち上がったところで、雪見だい◯くのような少女から、雪◯だいふくとはなんぞと聞かれる。 お前みたいな食べ物やと言いたくなるも、うーんと唸り。 どんな、どんな……。 はっ……!
2015-02-15 21:24:58何かを思いついたように指をパチンとならすと、空中に雪見だいふ◯が突如としてあらわれ、シンセイの手中にポトリと落ちる。 「はい、これ。雪見だいふく」 スッとセレナに差し出す。
2015-02-15 21:25:18「無償の愛ね。私は知ってるけど、やっぱり人間じゃなかったわ」 返ってきた答えに、笑みを深める。楽しみとも喜びともつかない、曖昧な、あるいは空虚な表情だけれども。 「そう、人間は、自分のためにしか動かない。不思議だけど、そうできているのよね」 ソファの肘掛けに頬杖をついて。
2015-02-15 21:36:41それから一息の間、眼鏡の奥の目を見つめてから、足を振り子のようにして、勢いよく立ち上がる。 「オド、あなたは正直すぎて、あんまり面白くないわ!」 びしっと指を突きつけて、失礼も顧みずに言い放つ。そもそも礼儀なんてもの、同じ文化で育った人間の社会でしか用をなさないものだけれど。
2015-02-15 21:36:49「どうしてこんな人間ができちゃったのか、『夢』から覚めて見ればわかるかしら、どうかしら?」 さほど待つ必要すらなく、この『夢』は過ぎて人は『現実』へと戻されるだろう。
2015-02-15 21:37:52「あっ、わっ……!」 本当に、白くて、ふわふわ……! 雪見だい○くのように目をまん丸にしながら、珍しげにシンセイの手の中のそれを眺めて。 指先で、ツン、と触れてみて。 「冷たい……柔らかい……!」 しかもこれは、甘いのだというではないか!
2015-02-15 21:45:10そっと指先でつまむように転がしてみれば、それはコロリと、セレナの華奢な手のひらに収まる。 持ってみるとわかる、柔らかな外側に包まれた内側の、控えめな重み。 「ふわぁ……っ」 キラキラと輝く瞳をシンセイに向けて。 「あのっ、あのっ、これっ、食べていいですか……?」
2015-02-15 21:45:12「くっ」 突き付けられた指に、忌々しげに呻き。 そして、 「夢の中で! 悪魔にまで! 何故! 面白みがないと! 言われなければならんのだ!」 やはり叫んだ。
2015-02-15 21:52:02「……好きに判断するといい。どうせいつも通りにしか動けん」 何度目かになる、叫んでずれた眼鏡の位置を直しながら男は言う。 「質問があれば随時答えよう」 「――ではトリトマ。1日よろしく頼む」
2015-02-15 21:52:45食べて良いと答えを貰えば、輝く瞳を再び雪見だ○ふくへとうつし。 白くて、丸くて、ふわふわ、もちもち、ひんやり、しっとり、ぷにぷに……ふゎあぁああ!! こみ上げる感情に頬を染めながら、神妙な顔で、お行儀良く「いただきます」とだけ言うと、ワクワクしながら小さな口を大きく開けて……
2015-02-15 21:54:18「ええ、とびっきりの性悪でございます」 (――嗚呼。この少女は実に『いい』) 微塵も揺るがぬ瞳は未来を想起させ、褐色の青年の胸はどこまでも高鳴る。 「折れぬ、たゆまぬ意思こそ、我が望み」 載せられた手の甲にそっと口付けて、 「心に刻んでおきましょう、ディアドラ。我が黄金」
2015-02-15 21:57:18……青年を一瞥する彼女は、どこか可笑しげで。はて、格好を間違えたかな、などと我が姿を見るものの、とりたてておかしくはない、と判断したようだ。その素振りは、いかにも人間のようである。それとも、これは擬態だろうか。
2015-02-15 21:57:25己が姿をあらためる青年が胸ポケットから取り出したのは、猫の意匠が縫われたハンカチだ。口づけた手に、そっと握らせる。 「証を。目覚めたときに、傍にあるように」 そうして青年は手を握ったまま立ち上がり――視界が揺らぐ。世界が、揺らぐ。
2015-02-15 21:57:47