【比榛】うちの鎮守府のバレンタイン【ぬい霜】

ぬい霜、比榛、鈴熊要素を含みます。 比榛多め
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リン @tiger_lingon

「もうこんな時間。少し、出てきますね」 読んでいた本を閉じ、机の上において熊野は立ち上がる。 「およ?珍しいね、熊野が休みの日に出かけるの」 休みの日には部屋でゆっくりとティータイムを楽しみながら過ごすことが多い熊野が、出掛けると言ったことに鈴谷は少しだけ首を傾げた。

2015-02-14 21:04:47
リン @tiger_lingon

「私にもそういう日はありますの」 「ちなみに、誰と約束してんの?」 「…榛名さんと初霜さんですが」 少しだけ詰まりながら、普段より少しだけ小さな声で熊野は告げる。ほほぅ、榛名さんと初霜とねぇ。鈴谷の口元が少しだけ緩む。 「じゃあ、行ってきますね」 「うん、気を付けてねー!」

2015-02-14 21:11:18
リン @tiger_lingon

笑顔で手を振って、出かけていく熊野を見送った鈴谷は、扉が閉まると同時に拳を握り、小さくガッツポーズをした。今日の日付は2月13日。昨日まで出撃していた第一艦隊の自分たちには、今日と明日で休みが2日ある。そして明日はバレンタインデーという好きな人へ想いを込めてチョコレートを贈る日。

2015-02-14 21:14:49
リン @tiger_lingon

と、いうことは、だ。熊野が約束をしている初霜、榛名と共に明日のためチョコレートを作ってくれるのではないだろうか。鈴谷はそう思案する。そうだ、きっとそうに違いない。 「そうゆうことなら…」 鈴屋は唇をぺろりと舐め、部屋を飛び出した。

2015-02-14 21:17:11
リン @tiger_lingon

「とゆうわけだから、鈴谷たちもお返しになにか作ろう!」 机をバンッと叩いてそう言えば、座っていた比叡と不知火がびくりと体を震わせる。 「でもさ、何か作るにしても榛名たちが厨房使うんでしょ?会っちゃ意味ないし、それより今からで使用許可間に合うの?」

2015-02-14 21:19:55
リン @tiger_lingon

比叡がそう言えば、鈴谷はふふんと鼻を鳴らしてポケットから何回にも折られ小さくなった紙切れを取り出して、開いてから比叡と不知火の眼前に見せびらかすかのように突きつけた。 「比叡さん、この鈴谷をナメちゃいけませんよ。ちゃんと!夜間の使用許可をとってきました!」

2015-02-14 21:23:04
リン @tiger_lingon

「おおおおおっっ!!さすが鈴谷!!……って、え?夜間…?」 「だって、夜間しか熊野たちにバレずに作業できる時間なさそうじゃないですか」 「まぁ…そうなんだけど」 比叡は抜け出せるかな…とぼやく。 「じゃあ今日の夜、熊野たちが寝たら厨房に集まりましょう!」 「うん!」

2015-02-14 21:26:58
リン @tiger_lingon

「…不知火は不参加でお願いします」 やる気に満ちている比叡と鈴谷を横目に、今まで黙っていた不知火が断りを告げる。 「…は?」 呆気にとられすぎて、思わずそんな声しか出てこなかった。鈴谷は座っている不知火の肩を掴んではぐらぐらと前後に力の限り揺らす。 「え、なんで?なんで??」

2015-02-14 21:30:52
リン @tiger_lingon

「もともと、バレンタインなどという浮ついた行事には興味がありませんので」 「はぁっ!!?」 肩を掴んでいる力が弱くなった瞬間に、不知火は鈴谷の手をどかして立ち上がり、部屋を出ていこうとする。 「では、失礼します」 ばたんと音を立てて閉まった扉を睨み付けながら、鈴谷は愚痴をこぼす。

2015-02-14 21:35:05
リン @tiger_lingon

「なにあいつ、簡単に言えば好きな人にチョコ渡そう、ってだけの話なのに。つまんないやつだな」 「まぁまぁ、不知火には不知火なりの考えがあるんじゃないかな。私たちは榛名たちのために、お菓子作ろう」 なだめようと必死な様子の比叡に諭され、鈴谷は1つため息をついて「そうっすね」と笑った。

2015-02-14 21:38:32
リン @tiger_lingon

【比榛】 14日の朝、比叡が目を覚ますと榛名は既に部屋にいなかった。普段起きる時間の少し前に、鈴谷とお菓子を作ってから帰ってきたのだが、その時には榛名はまだ眠っていて彼女の寝顔を見て癒されてから布団に入ったことは覚えている。 「榛名ってばどこに行ったんだろ…」

2015-02-14 21:44:24
リン @tiger_lingon

寝ぼけた頭で少し寝癖のついた髪を梳きながら時計に目をやれば、時刻はすでに12時を回っている。 「え!?もうこんな時間なの!?」 なんで起こしてくれなかったの!?そう思いながら布団を跳ね除けて、急いで着替えを始める。あぁもうこんな時間だ、せっかくの休みだったのに。

2015-02-14 21:47:33
リン @tiger_lingon

そんなことを思ってみたが、起きない自分を榛名が疲れているのだろうと気にかけて寝かせておいてくれたのかもしれない。そう思ったら寝起きから幸せな気分になれた。 「これで榛名がいてくれたらもっと最高なのになぁ」 思わず声が漏れた。

2015-02-14 21:50:25
リン @tiger_lingon

早く榛名を見つけて「おはよう」って言って、それで、一緒にお昼ご飯を食べよう。 比叡は思わず笑顔になりながら、部屋を後にした。

2015-02-14 21:52:56
リン @tiger_lingon

「…なんで榛名いないのさ」 鈴谷の部屋で一緒に、夜中に作ったチョコレート菓子をラッピングしながら比叡はため息を漏らす。そう、起きてから外がオレンジ色に染まっていく今まで探し回ってみたがどこにもその姿は見当たらない。誰に訊いても知らない、そう答えられた。

2015-02-14 21:55:36
リン @tiger_lingon

「熊野も朝からいないんですよね」 「熊野も?」 「熊野も」 自分の恋人が見当たらないというのに、鈴谷は落ち着いている。 「…鈴谷はなんでそんな落ち着いてんの」 「渡すのが恥ずかしいだけなのかと思って」 んー完璧!鈴谷は綺麗にラッピングしたものを眺め、そう呟く。

2015-02-14 21:59:28
リン @tiger_lingon

「さすが夫婦」 「いやー、比叡さんと榛名さんには負けますよ」 嫌味のつもりで少し言ってみたのだが、鈴谷は照れることなくそう返してくる。比叡は窓から見えるオレンジ色の景色を、目を細めながら見つめる。 「早く会いたいなぁ。榛名…」

2015-02-14 22:03:11
リン @tiger_lingon

「あっ、お帰りなさい!比叡お姉さま」 「榛名…」 部屋に戻ってみれば榛名が先に戻っていた。起きてからずっと姿を見ていなかったために、榛名の姿を目にとめたその瞬間、今まで以上の愛しい気持ちがこみ上げてくる。早足で榛名のもとへ向かい、比叡はぎゅっと榛名のことを抱きしめた。

2015-02-14 22:06:45
リン @tiger_lingon

「お姉さま?」 「おはよう、榛名」 何を言おうか迷っていたのに、自分の口からはするりとそんな言葉が出ていた。 「はい、おはようございます。比叡お姉さま」 昨日ぶりに聞く榛名の声。1日しか経っていないはずなのに、既に何日も聞いていなかったのような錯覚を起こす。

2015-02-14 22:09:10
リン @tiger_lingon

「榛名、今日はどこに行ってたの?」 「熊野さんや初霜さんと少し」 「どこにもいないから心配したんだよ」 「ご、ごめんなさい。…でも、置手紙もしていったので…」 置手紙!?比叡は思わず榛名を抱きしめていた手を離した。 「お、お姉さま?」

2015-02-14 22:13:03
リン @tiger_lingon

榛名から話を聞いてみれば、さすがに部屋を出る前に起こそうかと思ったのだが、あまりにも私が幸せそうな顔で眠っていたので起こさなかったとのこと。そして、それでも部屋を出ていることを心配かけさせちゃいけない、とのことで、私が気付いていなかっただけで机の上に手紙を置いていたとのこと。

2015-02-14 22:15:31
リン @tiger_lingon

「…なにそれすっごく恥ずかしい…」 置手紙に気づかずに探し回っていたのかと思うと、今すぐに穴を掘って入りたい衝動に駆られる。 「あ、あのお姉さま。榛名、お姉さまに渡したいものがあるんです」 まっすぐに見つめられ、その真剣なまなざしにどきりとする。榛名に促されるまま、比叡は座る。

2015-02-14 22:18:40
リン @tiger_lingon

「榛名は、比叡お姉さまのことが大好きなんです。だから…これ、受け取っていただけませんか…?」 榛名が机の下から取り出した赤い箱には、緑色のリボンが結ばれている。鈴谷が作ってくれるのではないか、そう言っていたことも半信半疑だったが、たしかに自分の目の前で榛名が渡そうとしてくれている

2015-02-14 22:22:02
リン @tiger_lingon

「うん、ありがとう榛名」 平静を装って、比叡は榛名が差し出してくれている箱を、両手で丁寧に受け取る。にこりと笑って言えば、榛名は顔を真っ赤にさせて笑い返してくれた。 うん、うちの妹、世界一可愛い。

2015-02-14 22:24:17
リン @tiger_lingon

「それでね、私からも受け取ってもらいたいものがあるんだ」 高鳴る鼓動を抑えつつ、自分も作ったものを榛名に差し出す。 「えっ…」 「私もね、榛名のこと大好きなんだ」 榛名のことを見つめたままそう言ってやれば、ただでさえ照れて赤くなっていた榛名の顔が更に赤く染まっていく。

2015-02-14 22:28:00