菅原さんが車で不思議な道に迷い込むお話

内容が内容なのでなんでも許せる方推奨です。
15
青るい @rui4444

目の前の信号が赤に変わった。 「降りて、影山。さようなら。」

2015-02-15 01:20:15
青るい @rui4444

影山は動揺を隠せない様子で血の気の引いた顔でこちらを見ている。 「菅原さ…」「降りろっっ!!!!!!!!!」 車内に声が反響する。もうぐちゃぐちゃだ。思考がまとまらない。せめて最後ぐらいはもっと綺麗な別れ方をしたかったのに。

2015-02-15 01:24:23
青るい @rui4444

影山は俯きながらズボンをちぎれそうなくらい握りしめていた。ミラー越しにポタポタと落ちる涙を見た。「…そ…でも…俺は…ック…さよ…なら…ッス…」 パタンとあっけない音で扉が閉まった。信号が青になった。影山は俯いたまま立ち尽くしていたけど、俺は目をそらして力強くアクセルを踏んだ。

2015-02-15 01:36:40
青るい @rui4444

やっと言えてすっきりするはずだったのに、胸の中は吐きそうなくらい感情がうごめいていた。これでよかったんだよな、だってこれ以上良い案が思い浮かばなかったんだから。今は影山を傷つけたとしても、影山の将来を考えるとこうするしかない。

2015-02-15 01:47:26
青るい @rui4444

「大丈夫…影山は俺がいなくても…」自分で口に出した言葉がとどめを刺した。気付けばアクセルを踏む力はどんどん強くなっていって周りの景色は吹っ飛んでいった。さっさと帰って仕事に打ち込めばこんなこと考える余裕もないはずだ。

2015-02-15 01:52:43
青るい @rui4444

この時間になるとほとんど車は走っていなくて、自分の車のライトだけが道を照らしており、その先は真っ暗でもうここがどのへんなのか良く分からなかった。ただ真っ直ぐに行けば何かがあるという不思議な確信だけがあった。

2015-02-15 01:57:33
青るい @rui4444

涙はいつのまにか乾いて、ほっぺたが乾燥してピリピリしてきた。気持ちに反した賑やかなラジオをぼーっと聞いていると、「うわああああああ!!!」キキィイイイイイイ!!!!突然目の前に人らしきものが見えてあわてて急ブレーキをかける。

2015-02-15 01:59:56
青るい @rui4444

「あ、やっぱスガちゃんだ!及川さん轢き殺されるとこだったよー!」こっちは心臓が止まりそうなくらいドキドキしているのに、ニコニコと笑いながらピースしてアピールしてくる。そこにいたのは及川徹だった。

2015-02-15 02:12:59
青るい @rui4444

及川徹は高校時代敵チームだったけど、同じポジションという共通点もあり、大人になってから偶然再会してそれからちょこちょこ会っていた。上手く言えないけれど、及川と俺は人間的に似ている部分があって、お互い言わなかったけれど居心地の良さを感じていた。

2015-02-15 02:16:13
青るい @rui4444

そして俺と影山の微妙な関係についても唯一話をしたことがある。及川は「それなら別れて俺にしたらいいのに、俺めっちゃ楽だよ~?」って笑いながら言ってたけどどこまでが本気か分からない。

2015-02-15 02:18:30
青るい @rui4444

「スガちゃん乗~せて!」って俺の言葉なんか聞かずにすでに助手席のドアを開いている。「ちょ、お前…俺の話聞く気ねーじゃん!まぁいいよ…助手席荷物沢山あるから後ろに乗って。」「…。」及川が急に黙る。そして優しげな目でこちらを見つめる。「やだ。」

2015-02-15 15:32:20
青るい @rui4444

「…?」意味が分からないという顔で返すと「ああーやっぱり、気付いてないんだね。」と助手席の荷物を両手で担いで盛大に車外へ放り投げた。「-----なにして…っっ!!!!」大事なパソコンも書類も携帯もすべて入ってるのに…!でも予想に反して大きな機械が壊れるような音はしなかった。

2015-02-15 15:37:18
青るい @rui4444

はらはらしながら道路を覗き込むと、カバンや紙袋の中には何も入っていなかった。…どういうことなんだろう、確かに大事な書類も全部詰めて持って帰ってきたはずなのに。「スガちゃん…ねぇ、及川さんが全部捨ててあげる。あんなのスガちゃんが1人で持てるわけない、いらないよ。」

2015-02-15 15:42:12
青るい @rui4444

及川は諭すように柔らかく微笑んだ。綺麗に荷物がなくなった助手席に及川が座りこむ。「さ、出発しよ。ほんとは運転も変わってあげたいけれどそうもいかないみたい。」及川が何を言っているのか良く分からなかったけど、彼は妙に落ち着いていて何かを固く決心したみたいに真っ直ぐ前を見つめていた。

2015-02-15 16:08:08
青るい @rui4444

荷物がなくなってしまった事実に一瞬「クビ」という文字がよぎって血の気が引いたけど、なんかもうそんなことはどうでもいい気がしてきた。及川の「いらないよ」という言葉が何だかとてもしっくりきて、今までこんなものにこだわっていた自分に笑えてきた。やっぱり及川はすごい。

2015-02-15 16:24:26
青るい @rui4444

当の本人は隣で気持ちよさそうに鼻歌を歌いはじめた。「お前…なんであんなとこにいたの?深夜だからよかったけど…うっかり死ぬぞ?」「スガちゃん…飛雄ちゃんにはもう会ったの?」話を遮るように質問で返される。「…会ったけど…何で知ってんの」

2015-02-15 16:28:58
青るい @rui4444

「ふぅん…でも乗ってないってことは降ろしたんだね?それとも飛雄ちゃんから降りた?」「…何が言いたいのお前…」「どっち?教えて」及川が俺の顔を覗き込む。あのサーブをする直前の真剣な瞳を思い出した。「…俺から…降ろしたけど…何…」

2015-02-15 16:32:15
青るい @rui4444

「…そっか。スガちゃん、辛かったね…。」すべてを見透かしたような顔。でも及川に聞いてもらって気持ちが楽になった。気が緩むとまた涙が滲んでくる。そうか、もう戻れない。ずっとずっと遠くに来てしまった。ミラー越しの影山の姿を思い出す。あんなに小さく見えたのは初めてだった。

2015-02-15 16:39:02
青るい @rui4444

「ねぇ…スガちゃんが降りろって言っても俺は絶対降りないからね…」「あはは何その決意表明…俺なんて返したらいいの」「俺にできることこれぐらいだから…最後の我儘許してよ」及川の声が震えて冗談じゃないことに気付く。及川の手がハンドルを握る俺の手に重なる。その手は氷のように冷たかった。

2015-02-15 16:48:58
青るい @rui4444

俺は彼の手を握り返す。その温度の冷たさですべてを悟った。 いつまでたっても到着しないこの道は…そういうことか。随分前から信号すらなくなって、もう目の前には暗闇しか続いていない。時折すれ違った反対車線を走る車もいなくなっていた。

2015-02-15 16:56:10
青るい @rui4444

「…及川、あんがとな」彼はどういたしまして、と笑った。「ふふ、こうやってるとドライブデートみたいだね…。生きてるうちに行きたかったけど、まぁギリギリで達成出来たからよしとする。」

2015-02-15 16:59:50
青るい @rui4444

「なんか眠くなってきたなぁ…ねぇ、スガちゃんもそろそろ休も。」及川の手が優しく俺の頬を包む。視界が及川に遮られる。彼の唇はひんやりと冷たくて気持ちよかった。

2015-02-15 17:04:52
青るい @rui4444

「…スガちゃん唇すっごく冷たい、思ってたのと違う…」むぅと唇を尖らせてみせる。…それをお前が言うのか。 「及川…おやすみ。」「ふぁ…うん…スガちゃんおやすみ…。」 及川が幸せそうに目を閉じるのを確認してから、俺はハンドルから手を離した。

2015-02-15 17:13:09
青るい @rui4444

そして及川の手にそっと自分の手を重ねて、ゆっくり目を閉じた。遠く後ろの方で影山の声が聞こえた気がしたけど、エンジンの音に掻き消されて上手く聞き取れなかった。

2015-02-15 17:16:31
青るい @rui4444

---------------------------------- 「影山…大丈夫か…っ!?」目を覚ますと一面、白い壁に薬品の匂い…。そして高校時代のバレー部のメンバーが俺の周りを取り囲んでいた。挨拶をしなければ、と思って起き上がろうとすると全身激痛が襲う。

2015-02-15 17:50:25