『Forged Justice』

艦これを元とした二次創作です。 真・女神転生シリーズと装甲悪鬼村正のオマージュを含みます。
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道楽逆宗 @kanmusutensei

「フーーッ!!」 叢雲の槍が先程までより尚速く突き出され、回転運動が加わる事により横へ伸びた刃がミキサーの如くマサムネの身体を傷付ける。 「管槍(※6)だと!?」 叢雲の槍は柄に近い部分が抜け、左手の手元に来ていた。 45 (※6:柄の前方に管を通す事で口の滑りを良くした物)

2015-02-24 00:33:08
道楽逆宗 @kanmusutensei

「ここからがッ私の本番なのよッ!」 叢雲が宙へと身体を投げ出し叫ぶ。 槍に捻りを加えながら腕で旋廻させ、更に身体の軸を回転させる事での立体攻撃である。 たった数秒の間に叢雲は「点」での突きを「線」の薙ぎ払いに変え、「面」の回転刃に変え、「歯車」の三次元的連撃へと昇華させた。 46

2015-02-24 00:34:02
道楽逆宗 @kanmusutensei

並の三半規管では到底不可能な曲芸だが、海上を自在に行く艦娘の平行感覚と自立式観測ユニットによってその異業は為される。 マサムネの前腕部は瞬く間に血塗れとなり、肩や横腹の肉も抉り取られた。 「くっ」 太刀が巻き取られていないのは幸運だったか? 47

2015-02-24 00:34:59
道楽逆宗 @kanmusutensei

「殺(と)った!」 否。柄巻には一切血が滴っておらず、脱力して下げられた太刀は確りと握られている。 「……くはっ」 「なっ……!?」 叢雲の観測ユニットは槍の先端が心臓を貫こうとする刹那に悪鬼が笑うのを見た。 48

2015-02-24 00:36:03
道楽逆宗 @kanmusutensei

銀閃が空を奔る。 重量バランスの崩れた叢雲はマサムネの横を通り過ぎて吹き飛んだ。 三回転する内に上下を取り戻し、地を踏みしめて慣性を制御する。 僅かの内に立ち直った叢雲が構え直すと、槍の穂先が無くなっている事に気付いた。 49

2015-02-24 00:38:02
道楽逆宗 @kanmusutensei

「良い……。改二でもない駆逐艦がこうも抗ってみせるとは。興味が湧いて来たぞ、貴殿の提督にな」 柳生新影流「無の型」に近い脱力した状態からの斬り上げ。重力に逆らった一撃にも関わらず、叢雲の目で以ってしても捉える事は適わなかった。 50

2015-02-24 00:40:02
道楽逆宗 @kanmusutensei

マサムネが再び構える。左足を前に、刀が地面に対して垂直となるよう右耳の横に。 (八双……じゃない! これは蜻蛉!) 一見して腕の位置が十cm程変わっただけのように見えるが、防御寄りの八双の構えと比べて蜻蛉の構えは超攻撃的な物である。 51

2015-02-24 00:42:05
道楽逆宗 @kanmusutensei

この構えをするのは示現流の剣士。示現流は受けや避けには向かず、二の太刀要らずと言われる程の初撃偏重、そして猿叫と言う独特の叫び声を上げて斬り掛かるのが特徴だ。 「まずは耳……」 黒色の作務衣の下で鍛え上げられた肉体が膨らんだように叢雲には見えた。 52

2015-02-24 00:44:03
道楽逆宗 @kanmusutensei

(不味い!) 叢雲は慌てて観測ユニットとの接続を遮断し、両耳に手を当てて横へ身体を転がす。 「キィィィイイイイイイイイエエエエエエエエエエエエエエエエイイイイイ!!!!」 空気が弾けた。 53

2015-02-24 00:46:03
道楽逆宗 @kanmusutensei

寸前まで叢雲の居た場所を暴力が通り抜け、破壊音が廃工場内に響く。 ごろごろと転がった叢雲が立ち上がると、立眩みを感じて踏鞴を踏んだ。 「……呪(しゅ)を篭めた叫び声による牽制ね。でも分かっていれば何て事は……」 「そして左手だ」 マサムネの言葉を聞き、叢雲は自分の手を見る。 54

2015-02-24 00:48:05
道楽逆宗 @kanmusutensei

――――ぼとり、と音を立てて叢雲の左手がコンクリートの床に落ちた。 叢雲は即座に切断面の血管を収縮させて止血、霊力を流し込んで蓋の如く閉じる。 体積の何%かが消失した事で出るショック症状のスイッチを意識的に切ると、脳裏に『小破』の文字が浮かんだ。 55

2015-02-24 00:50:11
道楽逆宗 @kanmusutensei

(痛覚遮断を入れてなかったのに痛みが無かった……馬鹿みたいな切れ味ね) 対手の握る太刀を睨みつつ、叢雲は上半身を揺らしてバランサーの調整を図る。 自立式観測ユニットが不調な状態にも関わらず僅か数秒で調整が完了、戦闘体勢を立て直した。 56

2015-02-24 00:52:04
道楽逆宗 @kanmusutensei

「……準備は出来たか?」 マサムネの低い声が廃工場に重く響く。 先程の猿叫により窓ガラスが砕け、雨が床の端を濡らし始めていた。 「……ええ、待たせてしまったようね」 右腕のみで槍を構え直し、叢雲は微笑む。 先程のような動きは最早出来ない、槍も尖った鉄パイプに変じてしまった。 57

2015-02-24 00:54:03
道楽逆宗 @kanmusutensei

勝機が無いにも関わらず、叢雲の緋色の眼から輝きは失われていない。 (まだ、何か有る。この駆逐艦は武器を、牙を隠し持っている) マサムネは内心喜びで満たされていた。 彼の求めていた正義への……救いへの道が開かれたからである。 即ち、英雄を見付けると言う目的に一歩近付いたのだ。 58

2015-02-24 00:56:02
道楽逆宗 @kanmusutensei

「特型駆逐艦5番艦の叢雲改め、幽霊鎮守府初期秘書艦にして遠征艦隊旗艦、叢雲」 叢雲が再び艤装を現界させる。 主砲使用不可、魚雷使用不可、艦としての攻撃能力は喪失した。しかしまだ動ける。 艤装の起動ランプが点滅し、駆動音が高鳴った。 59

2015-02-24 00:58:02
道楽逆宗 @kanmusutensei

「……来い」 マサムネが再び蜻蛉に構える。 受けに回るつもりは無い、正面からの太刀打ちである。 殺気がぶつかり、叢雲とマサムネは降り注ぐ光量が絞られたように互いの姿しか見えなくなった。 雨のせいではない。春の薄い雲では太陽を完全に遮る事は出来ない、極限的な集中の為せる業だ。 60

2015-02-24 01:00:04
道楽逆宗 @kanmusutensei

「……出撃するわッ!」 新型高温高圧缶が叢雲の出力を一時的に増大させる。 試験配備された機関部強化装備の使い勝手は決して良くない、制限時間の短過ぎる強化装置は却って攻撃を避け辛くなるからである。 だが、この距離ならば。 61

2015-02-24 01:02:37
道楽逆宗 @kanmusutensei

叢雲が疾走した。 距離は僅かに五m、互いに二歩も行けば射程距離に入る。 機を捉えたマサムネも同時に足を踏み出した。 新型缶を使った叢雲はマサムネよりも速く、先端を失ったとは言え槍のリーチは陸奥正宗よりも長い。 一秒にも満たぬ時間が泥の如くねっとりと経過していた。 62

2015-02-24 01:04:06
道楽逆宗 @kanmusutensei

「――キィィイイイエエエエエエイイイ!!」 「――シャアアアアーーーッ!!」 刹那の交差。 二人はそのまま擦れ違った。 マサムネの胸には叢雲の槍が刺さり、そしてその槍には叢雲の右腕がぶら下がっている。 どぼん、と何かが水に沈む音が聞こえた。 63

2015-02-24 01:06:02
道楽逆宗 @kanmusutensei

「――なっ!?」 残心を解いてマサムネが振り返ると排水口から水柱が立つのが視界に入る。 元鉄鋼工場だったこの施設には鋳造や圧延時に使用される排水を流す管が有り、今でも雨天時には排水水槽から水が流れる。 その管に工場床の排水口も繋がっているが、その孔の直径は僅か三十五cmだ。 64

2015-02-24 01:08:12
道楽逆宗 @kanmusutensei

「……逃げられた、と言う訳か」 マサムネがぽつりと呟いた。 胸に刺さった槍を引き抜くと流れ出ていた血が固まり、肉が盛り上がって修復して行く。 刀に付着した血を拭い、鞘に収めると、マサムネは天を仰いで哄笑した。 「……ははははは! 面白い! あれの主ならば、或いは!!」 65

2015-02-24 01:11:00
道楽逆宗 @kanmusutensei

廃工場に響く男の笑い声を雨垂れが包み込み、ゆっくりと静まり返る。 「さて……。追う為には仕方無い、『ブライト』の奴を頼るとしよう」 マサムネは苦々しい笑みを浮かべて独り言ちた。 「我が弟を、な」 66

2015-02-24 01:12:02