足音の追跡者#2
姿の見えぬ足音と対峙したジルベルを置いて、ギルーとキリマは再び、走り始めた。洞窟の地面に溜まった地下水は冷たく、痛いほどだった。 52
2015-03-05 23:02:55ジルベルの悲鳴は聞こえなかった。若いギルーも盗賊のキリマも決して振り返らず、僅かに傾斜する洞窟の奥へ続く道をひたすら走る。ジルベルは死んだだろう。彼を蘇生させるためにも、二人は……もしくは一人でも、生きて帰らねばならない。魔法陣を攻略しなくてはいけないのだ。 53
2015-03-07 20:32:52若いギルーはランタンを持って走るキリマに、静かに語りかけた。「キリマ、言ったよな。もし、あの足音を逆に追いかけることができたなら……魔法陣を破れるかもしれないって」 キリマは驚いて返す。「ええっ、あんなの冗談だよ。そもそも、どうやって追いかけるのさ」 54
2015-03-07 20:38:43「大切なことはいつだって笑って言うようなことさ。冗談の中にも、答えはある」 若いギルーは走りながらそう言った。青いサーコートの裾が水を吸って重い。重いチェインメイルを着ている分、体力の消耗が激しい。息が上がる。盗賊のキリマは軽装だ。まだ、いくらか体力に余裕がある。 55
2015-03-07 20:42:04盗賊のキリマはランタンで道を照らしながら言う。「どうやって、どうやってあいつを追いかけるのさ! 私たちは、追いかけられているんだよ!?」 しかし、ギルーは笑って言う。「師匠が言ってただろう、常にトップを走ってるやつはいつか躓く日が来る。それを狙えって」 56
2015-03-07 20:46:20ギルーはさらに続ける。「いわば、あれも追うものと追われるものの立場なんだ。俺達はいつか躓く。先を走って、行き止まりに辿りつく日が必ず来るんだ。でも、だからって追われ続けるなんて不自然だろう?」 「それが……魔法陣の歪みだっていうの?」 キリマは何かが分かったようだ。 57
2015-03-07 20:49:41キリマは、頭の中に浮かんだ考えを口にする。「永遠に追われ続けるなんてありえないからこそ、それが歪みとなってどこかに現れるってこと?」 若いギルーは、照らされた洞窟の向こうを見る。「見ろ、分岐点だ。右は俺達が来た道。左はどこへ繋がっている?」 キリマは答えられない。 58
2015-03-07 20:52:56「左に行ってみようぜ。同じことを繰り返しては、同じ失敗を繰り返すだけだ。魔法陣の法則から外れる行動をするんだ」 「そんな! 左が行き止まりだったら……」 「右もどうせ行き止まりだ!」 ギルーは笑ってキリマの手を引く。左の脇道へと、進む! 幸運にも、しばらく道は続いていた。 59
2015-03-07 20:56:14例の足音は依然、二人をヒタヒタと追いかけてくる。一寸先の闇から行き止まりが出てきてもおかしくは無い。しかし、それはなかなか現れなかった。いや、行き止まりが無くても、体力的に限界を迎えて追いつかれたら終わりだ。それは、足音の主も分かっているのだろう。 60
2015-03-07 20:59:02「やっぱり駄目だよ、ギルー。出口が見つからなくちゃ、いつかは追いつかれちゃう! 永遠に走りつづけることなんてできないよ」 キリマが泣きごとを言う。ギルーは静かに周りの景色を見ていた。何の変哲もない洞窟だ。天井からは鍾乳石が垂れ下がり、岩肌は水に濡れて光っている。 61
2015-03-07 21:03:39「ああ、僕の体力はそろそろ限界だ」 ギルーも弱音を吐いたかに思えた。だが、彼は笑っていた。笑っていたのだ。「キリマ、分かったよ。僕には分かったよ」 「何が!?」 キリマの悲鳴のような声。ギルーは、見つけたのだ。「キリマ。魔法陣を破る方法が、分かったんだよ」 62
2015-03-07 21:07:23