メニイ・タイド・リビングデッド・アンド・ア・コンクリート・グラッジ #5(完結)

いまいち反響が物足りんかった
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劉度 @arther456

連撃を繰り出しながら、南方棲戦姫は確信していた。先程の投げ技は柔道の一本背負い。そして今、彼女の攻撃を次々と払っていく動作は知らないものだが、何らかの武術であることは間違いない。これを動かしているのは、人間だ。「同胞に何をした、貴様」 21

2015-03-06 21:43:32
劉度 @arther456

答えはない。だが、それまでピクリとも動かなかった戦艦水鬼の表情が、ぐんにゃりとした笑みを作った。その顔に向け左手を繰り出す。容易く受け止められる直前、拳を止めた。「掛かったな」轟音。戦艦水鬼の目の前に突きつけられた戦姫の砲塔が、容赦無い接射を撃ち込んだ。 22

2015-03-06 21:46:46
劉度 @arther456

「ルォォォォォン!」水鬼の背中の双頭の怪物が、苦悶の雄叫びを上げた。ここが好機、容赦はしない。肩の機銃を怪物の頭に向け連射、その間に両腕に搭載された主砲、副砲を全て展開する。怪物が両腕を振り上げるが、無数の機銃弾に怯み、大和の攻撃準備を阻止できない! 23

2015-03-06 21:49:58
劉度 @arther456

「全弾必中の距離だ。戦艦の皮を被るのであれば、精々耐え切ってみせろ」先程の砲撃で頭が半分吹き飛んだ戦艦水鬼に呼びかける。聞こえていようといまいと関係ない。砲門は全て出揃った。「主砲、副砲全基、薙ぎ払えッ!」号令と共に、南方棲戦姫の全ての砲が火を吹いた! 24

2015-03-06 21:53:14
劉度 @arther456

16インチ三連装砲三門、8インチ三連装副砲二門、7インチ連装高角砲12門、その他無数の対空機銃による、至近距離からの一斉射撃。その威力は凄まじく、一瞬、辺りの海面が大きく凹み、南方棲戦姫は反動で後退した。では、戦艦水鬼はどうか。硝煙の向こうにいるはずの奴は。 25

2015-03-06 21:56:27
劉度 @arther456

まだ、形を残していた。上半身は完全に吹き飛び、後ろの怪物の頭の片方も砕け、体の半分以上を失いながらも、残った砲塔全てを南方棲戦姫に向けていた。南方棲戦姫はその場から一歩下がる。必殺の一斉射撃を受け、なおも残った敵の異様に怯えたわけではない。"流れ弾"を警戒しただけだ。 26

2015-03-06 21:59:38
劉度 @arther456

突如、双頭の怪物の肩で爆発が起こった。顔の無い戦艦水鬼の代わりに背中の怪物が海上を見やれば、舞鶴鎮守府の金剛艦隊が、今まさに一斉射撃を行ったところであった。水鬼に次々と砲弾が降り注ぐ。魔力シールドが砲弾を弾き返すが、大破した今その強度は著しく低下していた。 27

2015-03-06 22:03:04
劉度 @arther456

更に、反対側からも砲撃。外地連合艦隊の残った艦娘たちの、死力を尽くした反撃であった。ほとんどの艦娘は傷を負っているが、一人たりとも闘志は欠けていない。誰かの放った主砲が、遂に水鬼のシールドを砕いた。残った水鬼の体が、爆発で次々と散っていく。 28

2015-03-06 22:06:23
劉度 @arther456

とどめを刺しに来たのは、上空から急降下してきた彗星の一群であった。狙いをすました250kg爆弾が、一直線に空母水鬼の上から投下される。水鬼を守るシールドも装甲も、既に限界を超えていた。ひときわ大きな爆発が起こり、煙が晴れた後には、もう戦艦水鬼は欠片も残っていなかった。 29

2015-03-06 22:09:37
劉度 @arther456

赤い唇からため息が漏れる。強敵を倒した南方棲戦姫だったが、感慨は湧かなかった。呼ばれてきたはいいものの、相手は軍艦ですらない、ただのスクラップだった。周りを取り囲む艦娘たちも腑抜け揃いでしかない。「帰るか」舞鶴艦隊と連合艦隊に囲まれた南方棲戦姫は、事も無げにそう言い放った。 30

2015-03-06 22:12:49
劉度 @arther456

決まれば、動き出すのは早い。取り囲む艦娘たちの陣容を一通り見渡した南方棲戦姫は、180度ターンしてから機関全速、舞鶴艦隊に全速力で突撃した。外地連合艦隊の方には向かわない。疲労困憊とはいえ、まだいくらか空母が潜んでいる。補足されたら逃げづらい。 31

2015-03-06 22:16:02
劉度 @arther456

金剛たちの砲撃を弾きながら、南方棲戦姫は進路を左舷に修正。敵左翼、詰襟制服を着た艦娘が指揮する艦隊へと向かう。その内の一隻、扶桑が背中の主砲を撃ってきた。避けない。戦艦の矜持に関わる。幸い、両舷に水飛沫を上げただけで、直撃しなかった。「つまらん茶番だ」 32

2015-03-06 22:19:14
劉度 @arther456

「すまんな。前座だと思ってくれ」横を通り抜ける瞬間、詰襟制服の艦娘が呟いた。返事はしない。フン、と鼻だけ鳴らし、南方棲戦姫は包囲網を突破した。次の出番がいつになるか、彼女は知らない。来るべき本番に思いを馳せながら、彼女は遠く水平線の彼方へ消えていった。 33

2015-03-06 22:22:30
劉度 @arther456

「あーあ、負けちゃったなあ」トラック諸島、西方沖合。海面より遙か下、光も届かない海中に、一隻の巨大な潜水艦が潜行していた。その艦長席に座るのは、修道服を身に纏った、年端もいかない子供。それも見目麗しい白人の少女であった。「本物の姫には、まだ勝てないかー」 35

2015-03-06 22:26:07
劉度 @arther456

戦況を振り返りながら修道服の少女が思案していると、司令室のドアが開いた。入ってきたのは、黒いコートを海水でずぶ濡れにした大男である。「あ、おかえりーアレクセイ。ごくろーさま」修道服の少女だけは、彼に気づくと椅子の上に立ち、背を伸ばして彼の頭を撫でた。 36

2015-03-06 22:29:18
劉度 @arther456

「ネズミを退治できなかったのは残念だけど、時間切れだったからしょーがないよねー」笑顔で語る少女に対し、黒コートの男は無言。それでも少女は一人で頷いて、喋り続ける。「データも実験素材も回収済み、あっちに残ってるのは用済みのゴミだから大丈夫だよー」 37

2015-03-06 22:32:34
劉度 @arther456

「じゃ、アレクセイはゆっくり休んでて」少女が手を振ると、黒コートの男は司令室を出ていった。残った少女は椅子に深々と座り、フフンと鼻を鳴らす。「それじゃあ、音響障壁はNo.30-50を二時間のローテーションで。深海棲艦たちに新しいミュージックを聴かせてあげようか」 38

2015-03-06 22:35:46
劉度 @arther456

トラック諸島ウェノ島。ここには泊地の中心地である元帥府が置かれている。その一室、第一小会議室には先の激闘を生き抜いた面々が集っていた。上座に座るのは本土より派遣されてきた舞鶴元帥と大湊元帥。その横には顔色の悪いトラック元帥と横須賀の提督が座る。 40

2015-03-06 22:39:08
劉度 @arther456

深海棲艦の攻撃からトラック諸島は守りぬいたものの、その被害は決して小さいものではなかった。救助活動に専念したため、人的被害は比較的軽く済んだが、十隻以上の指揮艦が沈んだ。南方戦線は暫く守勢に立たされるだろう。だが、二人の顔色が悪いのはそれだけではない。 41

2015-03-06 22:44:30
劉度 @arther456

「以上の報告から、トラック泊地内に所属不明の集団が長期間潜伏していたのは間違いありません」舞鶴元帥の部下、太った眼鏡の技官が調査資料を読み上げ終わると、二人は同時に溜息をついた。「トラック元帥……」「待て、私じゃない。君のところの艦娘の工場だろう、あそこは」 42

2015-03-06 22:48:23
劉度 @arther456

「何よ、五十鈴が敵を引き込んだっていうの?」「西側は五十鈴工場の土地だ。そう考えるのが自然だろう」「おや、軍事力を盾に工場の敷地を勝手に接収してるのはどこの誰でしたっけ?」「それは前任者の話だ!私はついこの前、佐世保から転勤してきたばかりなのだぞ!?」 43

2015-03-06 22:51:35
劉度 @arther456

「まあまあ、皆様落ち着いて」立ち上がりかけた元帥と大将を、舞鶴元帥が宥める。「決して皆様を疑っているわけではありませんよ。トラック元帥殿は仰る通りここに来てから日が浅いですし、この事実が判明したのは不知火さんのお陰ではありませんか」「だ、だろう?」「そうですね……」 44

2015-03-06 22:54:55
劉度 @arther456

環礁の外側にあった研究所は、内部の時限爆弾により殆ど痕跡を残さず崩壊した。結局そこで何の研究が行われていたのかは分からずじまいだ。だが、唯一内部に潜入した不知火の証言から、その施設に多数の深海棲艦が捕らえられていた痕跡があったことははっきりしている。 45

2015-03-06 22:58:19