青葉島鎮守府 第五話

衣笠のお散歩 前の話:http://togetter.com/li/791790
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跡地 @kkkkkkmnb

【青葉島鎮守府 第五話】

2015-03-11 23:54:18
跡地 @kkkkkkmnb

そういえば、この要塞のような鎮守府は何で青葉島鎮守府と呼ばれているのだろう?

2015-03-11 23:55:18
跡地 @kkkkkkmnb

青葉島というのはかつての軍艦青葉が、樹木を用いたカモフラージュで一か月近くもの間、敵機の目を欺いたことをもとにしたあだ名の事のはずだ。  確かに、この要塞上部には樹木が生い茂っているが、だからといってそれで、ここに鎮守府がある事を隠しているわけではない。

2015-03-11 23:59:24
跡地 @kkkkkkmnb

なのになぜ、この鎮守府は青葉島鎮守府と呼ばれているのだろうか……?  そういいおえると、衣笠は青葉の方を振り向いた。しかし青葉は衣笠に背を向けてソロバンをパチパチとはじいている。

2015-03-12 00:04:10
跡地 @kkkkkkmnb

「あおばー?」  そう言って、青葉の肩を衣笠が揺する。しかし、青葉は適当な返事しか返さない。衣笠の頬がタコの様にふくれるが、青葉は黙ってソロバンをはじき続ける。

2015-03-12 00:10:52
跡地 @kkkkkkmnb

どれだけ揺らしても、青葉の手元は全く狂わない。さすがは記者魂。どうしてうちの姉達はこうも余計な才能しか持っていないのだろうか?  衣笠は自分の姉の顔を思い浮かべて、溜息をついた。

2015-03-12 00:15:34
跡地 @kkkkkkmnb

「ねーねー、青葉は気にならないの―?」  そういってあぐらを組んで座っている青葉の背中をげしげしと蹴るが、青葉は石の様に動かない。衣笠の蹴りにも次第に力がこもる。

2015-03-12 00:18:03
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「ねーねー、あーおーばー、おーしーえーてーよー!」  一文字一蹴り。そして最後に思いっきり回し蹴りを決めようと振りかぶった衣笠は、青葉に軸足の小指をソロバンで思いっきり叩かれてしまった……衣笠の口から声にならない悲鳴があがる。

2015-03-12 00:24:07
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「あーーーーもううるさい! 鎮守府を隠してないなら別の物でも隠してるんじゃないんですかねぇ? そんなもの、自分で探してくださいよ! 青葉は今忙しいんですよ!」  青葉の剣幕におされて、衣笠は小指をおさえて丸まりながら黙って何度も頷いた。

2015-03-12 00:26:26
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コルク弾の25㎜機銃で背中を撃たれながら、衣笠は部屋の外へと追い出されてしまった。時刻はお昼を少しすぎたくらい。窓の外を覗くと、一面に海が広がっていた。

2015-03-12 00:35:21
跡地 @kkkkkkmnb

ここが、三階の艦娘の私室が立ち並ぶエリアだからだろうか、それとも壁が分厚いからだろうか、衣笠の歩く音すらも、絨毯に吸い込まれて、全く音がしなかった。

2015-03-12 00:42:13
跡地 @kkkkkkmnb

しばらく進むと、扉が開けっ放しの会議室から漏れ出る声が聞こえ始めた。あの声は、おそらく不知火と霞。どうやらまたあの二人がいがみ合っているらしい。陽炎や初風の声もするので、どうやら第二艦隊全員で兵棋演習を行っているらしい。

2015-03-12 00:51:05
跡地 @kkkkkkmnb

カッ! 地面を棒か何かで叩く音がしたかと思うと、矢矧のいさめる声が聞こえてきた。どうやら今日の統率官は矢矧が勤めているらしい。しばらく聞き耳を立てていると、陽炎の悲鳴と、長波の歓声が聞こえてきた。

2015-03-12 00:58:45
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衣笠はしばらく立ち聞きをしていたが、それに飽きるとそのまま一階にへと降りて行った。

2015-03-12 01:07:54
跡地 @kkkkkkmnb

一階は工廠などの艦娘の為の設備と、水上機関車の為の駅舎が整備されてある。コンクリートで出来たホームに置かれた、ベンチでは、川内が割り箸を咥えてピコピコしていた。あのベンチはすわり心地が良いのだが、往来が激しい場所に置いてあるので落ち着かないと評判のベンチだ。

2015-03-12 01:16:05
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川内の足元にはカップ麺が置いてあって、割り箸の川内の咥えていない方の端っこは、もう既にボロボロになっている。衣笠が近づくと川内はこちらに気が付いて、軽く手をあげて挨拶とした。 「やぁ、末っ子。元気かな?」 「ええ、元気よ。川内姉さんはうかない顔をしてるわね」

2015-03-12 01:20:33
跡地 @kkkkkkmnb

川内の事を川内姉さんと呼ぶことには今でも抵抗があるが、加古も古鷹も、青葉までもが川内の事を姉として扱っているので、仕方なく衣笠も川内の事を川内姉さんと呼んでいた。ちなみに那珂ちゃんの事は、那珂ちゃんである。

2015-03-12 01:22:34
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「末っ子はどうしたの? 整備?」 「いいえ、行くあてもなくぶーらぶら……と」  衣笠が苦笑しながら川内の横にこしかける。このプラットホームには時刻表も、券売機もおいてなかった。ただ、ベンチが一列置いてあるだけ。

2015-03-12 13:10:04
跡地 @kkkkkkmnb

川内は特に興味を示さなかった。その後は他愛もない話が続く。トラック泊地の方はどうだ、この鎮守府での噂話、戦闘、資材……どれもこれも、お互いにそんなにいい反応が返ってくるわけではなかったが、話題はとぎれなかった。

2015-03-12 13:15:44
跡地 @kkkkkkmnb

「まぁ、そうなるわね……悪いわね、そろそろ行くわ」  そう言って、川内は突然立ち上がった。そして、カップ麺を指さして 「それ、捨てといて」  そう言って、ニヤリと笑うと衣笠の返事を待たずに行ってしまった。

2015-03-12 13:19:42
跡地 @kkkkkkmnb

川内が工廠の方へと走り去っていくのを見送りながら、衣笠はカップ麺の容器の端っこをつまんで、二階にある食堂へと向かった。近くにあるゴミ箱がそこしか思いつかなかったからだ。川内は汁まで平らげていた。

2015-03-12 13:22:35
跡地 @kkkkkkmnb

そして、なんで川内が衣笠に容器を捨てるのを押しつけたのかが分かった。彼女は食堂に行きたくなかったのだ。

2015-03-12 13:25:35
跡地 @kkkkkkmnb

食堂には、瑞鶴がいた。列車に乗っている間は護衛船団長として大胆不敵で、好き勝手振る舞う川内だが、青葉島の瑞鶴だけには滅法弱かった。おまけに護衛船団所属の卯月や長月たちも遅めのお昼を取りに来ている。つまり、部下の前で恥をかきたくなかったのだろう。衣笠は呆れて声も出なかった。

2015-03-12 13:34:27
跡地 @kkkkkkmnb

衣笠は、容器をゴミ箱にポイすると、さっさと食堂を出た。  相変わらず、廊下の人通りは少なくて、妖精と何匹かすれ違ったくらいだ。そういえば、ここの絨毯。結構フカフカなのにこの小さな妖精たちが足をとられているのを見たことがなかった。

2015-03-12 13:50:50
跡地 @kkkkkkmnb

それからしばらく衣笠が当てもなくぶらぶらしていると館内放送が流れて、第一艦隊と護衛船団が会議室に呼び出された。衣笠にはその声が、どこか震えているような気がした。

2015-03-12 13:57:58