夏恋(すばる)

すばるの長いやつ。
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全∞ @all_zen_bu

夏恋26 「先生…」 「渋谷くん!!」 言いかけた俺をさえぎるように、先生が名前を呼んだ。 「ごめん……離して。」 先生が俺から逃げるように一歩下がる。 「…俺…」 「駄目。……私……何も、出来ないよ?」 また遮られる。 悔しくて、俺は唇を噛んだ。

2014-08-18 18:21:10
全∞ @all_zen_bu

夏恋27 「なんや…?言うのもあかんのか??」 相手にされないのは、想定内。 思わずタメ口になる。 「伝えてもあかんのか??」 先生が下を向いて黙る。 そんなに欲張ってない。 「俺の気持ち、口にするのもあかん??俺はなんもいらん。それでもあかんのか??」 「やめて。」

2014-08-18 18:21:16
全∞ @all_zen_bu

夏恋28 泣き出しそうに小さな先生の声を聞いて我に返る。 「ごめん……」 子供っぽい我が儘や。自分の気持ちしか考えてへんやん、こんなの。 泣いてる先生に、何を押し付けようとしてるんや、俺は。 静かに指を離した。 「風邪…ひかんように、して下さい。学校休まんとってな?」

2014-08-18 18:21:19
全∞ @all_zen_bu

夏恋29 先生はそのあと1週間休んだ。風邪こじらせたんやろか。先生の姿を見ないまま、冬休みが始まってしもうた。 あのコンビニの近くへ行けば、会えるかもしれない。 何度もそう思ったけど、それだけはやったらアカンような気がして。 胸ん中のたった2文字を必死に飲み込んでた。

2014-08-18 18:21:23
全∞ @all_zen_bu

夏恋30 くすぶって、焦げ付いて離れない。 言いたかった。言えなかった。 『すき』 生徒じゃなければ言えたんやろか?? もう少し歳が近ければ?? そんなつまらない、ありえないことを思い浮かべながら、冬休みが1秒でも早く終わることだけを思った。 胸の奥の『すき』を数えながら。

2014-08-18 18:21:26
全∞ @all_zen_bu

夏恋31 3学期が始まって終わる。 先生はあの日から何も変わらなかった。 俺が保健室に行くこともないし、ときどきすれ違うときの口角の上がり方もいつも通りだった。 変わらない先生に、はじめはホッとしたけど、違う意味にも受け取れた。 まるであの時の全てが、『無かった』みたいで…。

2014-08-19 20:50:42
全∞ @all_zen_bu

夏恋32 どっちが良かったんやろ?? 何もなかったかのように振る舞われて、変わらない関係で有り続けるのと。 強引にでも気持ち伝えて、関係が壊れてしまうのと。 先生、俺は…このまま自分の気持ちを、胸の中にしまったままには出来そうもないねん。 きっと、溢れてしまう。

2014-08-19 20:51:03
全∞ @all_zen_bu

夏恋33 3年になって、教室が変わった。 中庭を挟んだ向こう側が、ちょうど保健室。しかも俺の席は一番中庭側の端で、保健室の出入りがよく見える。 見ないように、と思えば思うほど気になって…先生の姿を探してまう。 先生は俺が何組かも、どこの教室かも、きっと知らない。

2014-08-19 20:51:39
全∞ @all_zen_bu

夏恋34 進路を真剣に考えなきゃいけない学年になって、授業も真面目に受けるようになってた。 去年言われた、先生の言葉も影響しとって。 『意味がない』ってことを、俺はまだ、理解出来てへん。 まだ勉強するべきなんやろな。 そう思うと前より真面目に授業を受けられた。

2014-08-19 20:52:37
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夏恋35 進路希望に『普通科高校進学』と書いて、担任と面接した。 俺が受験出来そうな学校を相談したりして、 「渋谷、やる気になったんやな。」 なんて、担任に驚かれたり。 いつの間にか先生に影響されてた。 真剣に授業受けるうちに、中庭の向こうの保健室も、気にならなくなり始めてた。

2014-08-19 20:53:40
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夏恋36 6月の降りしきる雨の日。 数学の先生の都合で、2限目は教室で自主勉強をしとった。 半分くらい時間が過ぎたところで、ふと中庭に目を向ける。 窓には強く雨粒が当たってた。 (先生、濡れてへんかな…) あの日の冷たい雨を思い出した。 じっと雨の向こう側の保健室の扉を見つめる。

2014-08-19 20:54:49
全∞ @all_zen_bu

夏恋37 雨粒に隠れる窓の向こうを思う。 ふと、人影が動いたように見えた。 目を凝らすと白衣を着た先生が… (まさか、な…) こっち見とるような気がした。 俺は確かめるようにガラスの先を覗きこむ。 一瞬、雨粒の隙間から視線が合った。 その瞬間、俺は躊躇なく立ち上がってた。

2014-08-19 20:56:30
全∞ @all_zen_bu

夏恋38 「ちょっと、頭痛いから保健室行ってくるわ。」 隣の奴に小さくそう言って、具合悪そうに教室を出た。 胸が締め付けられるように痛い。 ドラマやマンガでよくある、ありきたりな表現しか自分の中で言葉が見当たらない。 保健室の扉に手を掛ける、震える自分の手が見えた。

2014-08-19 20:58:04
全∞ @all_zen_bu

夏恋39 その震える手で、扉を開けた。 先生は少しも驚きもせず、ゆっくりこっちを見た。 そのまま扉を後ろ手に閉める。 机に向かってる先生の後ろにある椅子に座った。 デスクの椅子を半回転させて、先生がこちらを振り向く。 「どうしたの、渋谷くん??」

2014-08-19 21:00:45
全∞ @all_zen_bu

夏恋40 「好きや。」 迷いは無かった。 振り返った先生も微動だにしない。 「何も、いらん。黙ってられんで、悪いと思うねんけど…好きやねん。」 先生がうなだれるように下を向く。 「渋谷くん…私は先生で、君は生徒。私は23才で君は17才。君より少し長く生きてて、経験もしてる。」

2014-08-21 16:14:46
全∞ @all_zen_bu

夏恋41 「でもね、私は完璧じゃない。君より少し大人だけど、答が分からないこともいっぱいあるの。先生だけど、人間だもん。だから……」 体のいい、断り文句やな。 歳の差??先生と生徒??だからなんやねん。 俺は頭を掻いた。 「これが正解かどうかも、分からないの。」

2014-08-21 16:14:50
全∞ @all_zen_bu

夏恋42 (え…?) その言葉の意味を考える暇もなく、静かに唇が触れた。 椅子に座ったまま、先生が俺の顔を覗き込むように見上げた。 何が起きたか分からなくて、間抜けな顔だった俺にもう一度柔らかくて熱い感触が訪れる。 理解より早く、先生の顔を引き寄せた。離さないように頬を包む。

2014-08-21 16:14:55
全∞ @all_zen_bu

夏恋43 AVやエロ本で見たコトなんて、全部頭から吹っ飛んだ。 ただ触れあうそこから伝わる熱を、残さず感じたくて、必死やった。 「っん…ん」 先生が苦しそうに声を漏らして、俺の腕にすがる。 「待っ…」 息を継ごうと離れようとする先生を、無理矢理抱き寄せる。

2014-08-21 16:14:59
全∞ @all_zen_bu

夏恋44 その拍子に、二人して前のめりに椅子から落ちた。 それでも俺は止めないで、確かめるように先生に触れる。 「っ…学校、…!!」 先生のその言葉に、ようやくブレーキが掛かる。 真っ赤な顔して、先生が床に座り込んでた。 「もぅ、っ信じらんない…」 「あかんか?」

2014-08-21 16:15:03
全∞ @all_zen_bu

夏恋45 へたりこんだままの先生の手をぎゅっと握る。 恥ずかしがる先生とは反対に、俺は不思議と照れもなくて。 好きな女に触れた。 それだけで、ただただ満たされるこの充足感は初めての感覚やった。 キスだけで、このまま溶けてひとつになれるんちゃうかって、錯覚するほどに。

2014-08-21 16:15:08
全∞ @all_zen_bu

夏恋46 それから何度か学校の外で会った。 デートらしいことはなんも出来んかったけど、あの公園でただ話すだけで十分で。 正直毎日エロいことばっか考えてた自分やけど、そんなこと何もできなくても信じられないほど幸せやった。

2014-08-21 16:15:12
全∞ @all_zen_bu

夏恋47 夏休みが始まるころ、保健室で先生がポツリと言った。 「花火、見たいな。」 「打ち上げ??」 「うん。」 「人、たくさんおるな。」 「難しいよね…。」 「遠くからなら、見られるんちゃう??」 「…あとは、部屋から。」 ドキッとして、一瞬言葉に詰まる。 「考えとこうや。」

2014-08-21 16:15:16
全∞ @all_zen_bu

夏恋48 夏期講習が始まって、俺もそれほど暇じゃなかった。 先生も女子バスケ部のコーチをしてたからそっちの忙しさもあって。 宿題して塾行っとったら花火のこと話す間もなくあっという間に夏休みも終盤になってた。 久しぶりに公園で待ち合わせる。 「来週の土曜、一番近い花火大会だよ??」

2014-08-21 16:15:27
全∞ @all_zen_bu

夏恋49 「もう、近くで行けそうな花火大会、それしかないかも。」 「そーか。どっか高いところとかから見えるか??場所探してみるか??」 「う、ん。あのね、部屋からなら、見えるよ??」 「………本気で言うてんの??」 「だって、一緒に見たいの。ダメかな??」 「ダメなわけあるか。」

2014-08-21 16:15:32
全∞ @all_zen_bu

夏恋50 「部屋、上がってもええんか??」 「狭いけどね。」 「そんなんちゃうで??」 俺が笑うと、先生が言い淀む。 「え、っと…」 「まぁええわ。約束な。」 8月最後の土曜日に、先生と花火を見ることになった。

2014-08-21 16:15:39