ニンジャ・サルベイション #3
「出せ」シュモダは運転ヤクザに命じた。ヤクザリムジンはネオン看板や高速点滅するLED灯の中を加速する。「だいぶニュースにもなっています」「情けない事だ」ピーコックは鼻を鳴らした。シュモダは頷いた。「部長がケジメしました」「アビシナ社へのアサルト行為を企んだカイシャの目星は?」43
2015-03-28 23:19:26「競合他社のセンが強いですが、投機目的のアサルト行為の可能性も」「ウチのようにか」ピーコックのメンポには下向きの矢印に「天下」の漢字を組み合わせたエンブレムがある。「ハイ」厳かにシュモダは肯定した。「どちらにせよ、鉄砲玉をしばき上げて、何か出てくるか、別のルートを辿るか……」44
2015-03-28 23:24:33「破壊行動にはためらいがなく、残忍です」シュモダがファイルを確認しながら説明する。「サラリマン達も、焼かれる前にひどく損壊している。ニンジャ性を感じさせます」「確かにな。だが、愚かよ」ピーコックは呟いた。「どう思う?シュモダ=サン」「短絡的ですね」「慣れておらんな、こいつは」45
2015-03-28 23:30:52車載モニタにはアビシナ・アソシエイツ社の株価チャートが表示されている。「俺がニンジャになったのはな、シュモダ=サン」「ハイ」「晴れた夜だった。スモッグを通して、いくつかの星すら見えたのだ。それが啓示よ」「ハア……」「未熟者はまず己の力に酔い、己の力を試す。そして自信を深める」46
2015-03-28 23:34:19「今回もそのセンと?」「であれば、お前も俺も、あまり面白くない仕事となろう」ピーコックは目を閉じた。「ニンジャ・ディセンションで気を大きくしたバカな一個人を狩り殺し、それで終わりだ。何の芋蔓も無し」「ふむ……」「アバーッ!」ヤクザリムジンは道路に飛び出した酔漢を轢き殺した。 47
2015-03-28 23:39:46ドンツクドンツクブブンブーン、ドンツクドンツクブブンムーン、ウットコウットコウットコ……。巨大プレハブ建造物の中ではミラーボール光が乱舞し、積み上げられたドラム缶が重低音に表面を震わせていた。地べたに座り込んだヨタモノ達はビニール袋をパスし合い、中の気体を呼吸する。ガスだ! 49
2015-03-28 23:46:24「新鮮だぜ!」「ウルルル!」「直にいこうぜ」ヨタモノ達はささくれだった声で囁き合った。「それにしてもさァ、あいつら遅くねえ?」「楽しみすぎじゃねえ?」「やりすぎじゃねえ?」KRAAAASH!彼らの疑問に返答するかのようなタイミングで、入り口のショウジ戸を突き破りバイクが突入!50
2015-03-28 23:50:11「アバーッ!」「アバーッ?」「アバーッ!」暴走バイクの進行方向上のヨタモノ数人は撥ね飛ばされて死亡!KRAAAASH!暴走バイクの乗り手は車体に縛り付けられていたが、気づいた者は少なかった。その直後、赤いドラム缶に衝突して爆発したからだ。KABOOM!「アバーッ!」死亡!51
2015-03-28 23:52:32跳ね散った炎がガスに引火!KABOOOM!「アバーッ!」「アバーッ?」「アバーッ!」ヨタモノ数名が火だるまに!ナムアミダブツ!「何が……チェラッコラー!?」ヨタモノ達は手に手に鎌や鎌バットを構え、突然の襲撃に対応しようとした。ミラーボールの光が彼らの恐ろしい装いを照らす。 52
2015-03-28 23:57:18「ドーモ」破壊されたショウジ戸の下、大柄な影がアイサツした。「キャリバーです」ヨタモノ達はボンボリめいて火柱がチロチロと上がる危険空間の中で互いに顔を見合わせた。「……キャリバーだァ?」「何やらかしてンの?」「ネオサイタマの奴?」「ハァ?命あンの?」「命なくねェ?」53
2015-03-29 00:00:07「ああ。命はねェよ」キャリバーが答えた。「お前らの仲間が、俺らにくだらねェちょっかいかけてくれたからよ」「仲間?」ヨタモノ達は顔を見合わせた。「まさか今のバイク……」「そのまさかだよ!イヤーッ!」キャリバーが地を蹴った!そしてチョップ!「グワーッ!」ヨタモノ一人が首骨骨折死!54
2015-03-29 00:07:33「「「アイエエエ!?」」」薬物高揚下のヨタモノ達も、ここへ来てその衝撃と恐怖が閾値を超えた。彼らは失禁しながら後ずさった。その一人が撥ね飛び、天井近くの壁にめり込んだ。「アバーッ!」「ハハッ、弱えェ」キャリバーは蹴り足を戻しながらせせら笑った。 55
2015-03-29 00:09:16その目は憎悪と愉悦に燃え、煙と炎の中で魔物じみたシルエットを作り出していた。「許してください」ヨタモノの一人が鎌バットを取り落し、ドゲザした。「イヤーッ!」「アバーッ!」キャリバーはその頭を後頭部から踏み砕く。「ダメだね」キャリバーは言った。「仕返しに来るだろ。だからダメだ」56
2015-03-29 00:13:37「ア……」「アイエエエ……」ヨタモノ達が涙目で後ずさった。キャリバーはその数を数えた。「4……5。もうちょっとだ。お前ら」「アイエエエエ!」横をすり抜けようとしたヨタモノの額に、キャリバーのスリケンが突き刺さった。「アバーッ!」「ダメだダメ、工夫がねえ」キャリバーは嘲った。57
2015-03-29 00:18:34「もっとこう、独創的な……俺が感動するような詫びを入れてみろよ。許すかもしれねえ」「許してください!アバーッ!」「とにかく俺は相当腹を立ててるんだ。台無しにしやがってよ」「許してください!アバーッ!」「だから、結局どうやっても許しはしねえけどな」「許してください!アバーッ!」58
2015-03-29 00:20:48「許し……」「もう面倒くせえ!イヤーッ!」キャリバーは両手でスリケンを同時投擲した。「「アバーッ!」」ヨタモノ二人の額にスリケンが突き刺さり、即死せしめた。「雑魚は財布と思えッてのが、俺のモットーでよ」キャリバーはアジト奥にアタッシェケースを見つけ出し、ロックを壊した。万札!59
2015-03-29 00:23:26キャリバーはにんまりと笑い、炎の中を悠々と歩き進んで、夜空の下へ出た。「……」キャリバーは目を細めた。ユダカが立っていた。「ドーモ、ユダカ=サン」キャリバーは冗談めかしてアイサツした。彼は首を巡らせ、付近に止められているワゴン車を示した。「クズを殺して軍資金と足を調達したぜ」60
2015-03-29 00:26:16「何やってやがる」ユダカの声は震えていた。「やり過ぎだ」「やり過ぎ?」キャリバーは眉根を寄せた。「ナンデ」「なにもこんな……お前」「派手に燃えてるだろ。バッチリだ、抜かりはねえよ」「やり過ぎだ!」「さっきから何言ってんだ、ユダカ。お前、クールを思い出せよ」キャリバーは睨んだ。61
2015-03-29 00:30:20「……クールじゃない」ユダカは低く言った。「全然クールじゃねえよ」「待ってくれよ」キャリバーが近づいた。「一体どうした?さっきの奴らだぜ?どう考えても、あそこで手打ちにしたらやり返される。あのモーテル丸ごと燃やされたってマッポも来ねえよ、きっと。なら、先にやるしかねえだろ」62
2015-03-29 00:35:38「全員殺す事がか」「そうだよ」「なあ、昔の俺らは……」「昔の俺らには、そこまでの力が無かった。だろ?」キャリバーはユダカに言った。「だけど、今は、やれる。俺に任せとけよ。なあユダカ」差し出した手を避け、ユダカは後ずさった。キャリバーは行き場のない手で頭を掻いた。「仕方ねえな」63
2015-03-29 00:39:54「お前さ」ユダカは問うた。「ニンジャになってから、ずっと、こうか」「アア?」「暴れて、殺しまくってンのか?俺に会うまで……」「敵は倒す」キャリバーは言った。「じゃなきゃ、やられるだろ。ヤクザがチャカを向ける。お前、両手を広げて受け入れンのかユダカ?」「そういう事じゃねえよ!」64
2015-03-29 00:43:52「そういう事じゃねえって?どういう事だよ」「こんな事し続けてお前……続かねえよ!」ユダカは叫んだ。「無茶苦茶だ!続くわけがねえ!」「続くさ!俺はニンジャだ」「ニンジャ、クソ食らえ!」ユダカは吠えた。「俺は……クソッ!」ユダカはキャリバーの胸を突き飛ばした。「お前のせいで!」65
2015-03-29 00:48:17その瞬間、キャリバーの目に悲愴の影がよぎった。ユダカは言葉を切った。「……違う。お前のせいとかじゃ……ねえけど」「ああ」キャリバーは頷いた。何に頷いたのかはわからない。「ああ」「クソッ、とにかく!」ユダカは頭を掻きむしった。言葉が、思考が追い付かない。 66
2015-03-29 00:52:12その時!「アーッ!」クルマの陰からヨタモノが飛び出した!ユダカは息を呑んだ。キャリバーに殺されなかった生き残り?隠れていたのか?ヨタモノはキャリバーめがけ鎌を投げようと……BLAM!「アバーッ!」ヨタモノは膝を付き、崩れ落ちた。キャリバーがそれを振り返り、呟いた。「ユダカ」67
2015-03-29 00:54:51