即興童話・黒い猫と火花のお話

深夜に即興で書いたやつです。
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さささ @sasasa3397

昔々のお話です。ある時、お日様がいつものようにお空に上ろうとしたところ、ふとつまずいて、おでこを空にぶつけてしまう、ということがありました。それはほんの一時のことで、すぐにお日様は何もなかったかのように、天空を一巡するいつもの行程を進めていきました。

2015-03-29 04:17:25
さささ @sasasa3397

ただ、お日様がおでこをぶつけた時に、ちかりと一瞬散った火花が地上に落ちていきました。それは小さく凝って形を持ち、流星のように尾を引いては、ある街に住む人の家の裏庭に落ちて、地面に突き刺さったのです。人が誰も見つけなかったのは幸いで、代わりにそれを発見したのは小さな猫でした。

2015-03-29 04:19:47
さささ @sasasa3397

びろうどのような毛皮を持ったその小さな猫は、すっかり冷めた火花を見つけるとふんふんとにおいを嗅ぎ、これはとても良いものだと判断し、小さな口でそれをくわえて、庭の隅っこの大事なものの置き場に運んでゆきました。火花は、しばらくビー玉やら木屑やらと一緒の場所に置かれておりました。

2015-03-29 04:22:28
さささ @sasasa3397

猫は、鈍く赤に光るその火花がことのほか気に入っており、毎日のパトロールから帰るたびにそれがなくなってやしないかと確かめるほどでした。庭の隅っこは秘密の場所ですから、火花は誰にも盗まれずに、いつでもひっそりとそこにありました。猫はそれを見て金色の目を細めるのでした。

2015-03-29 04:24:49
さささ @sasasa3397

さて、ある日のことです。しっぽを立ててパトロールから帰ってきた猫は、庭の隅っこに一人の紳士が立っているのに気がつきました。上品な雰囲気ですが、笑い方がどこか影があって、変な感じ。猫は気づきませんでしたが、その紳士は悪魔が化けたものだったのです。

2015-03-29 04:27:10
さささ @sasasa3397

「こんにちは、猫さん。ひとつ売ってもらいたいものがあるんだが」にゃあ、と猫は鳴きました。僕の宝物は、誰にも売らないよ、という意味です。「そう言わずに、どうだい。どれだけ飲んでもミルクがなくならないお皿と交換だ」猫は首を振りました。ミルクなら、台所でにゃあと鳴けば手に入りますから。

2015-03-29 04:29:35
さささ @sasasa3397

「それなら、紫水晶の目をしたねずみはどうかね。何度捕まえても、起き上がって走り出すやつだ」猫はちょっと考え、やっぱり首を振りました。ねずみは生きている本物が一番追いかけていて楽しいからです。悪魔は他にも、ひとりでに動く猫じゃらしやら、世界一おいしい魚のしっぽやらを取り出しました。

2015-03-29 04:32:53
さささ @sasasa3397

猫はそのたびに首を振りました。悪魔がどの宝物を欲しいのかは知りませんが、どれも自分の中の大切さには釣り合わないと思ったからです。悪魔は、徐々に焦り始めました。焦ったせいか、大きな山羊の角が頭からにょっきり生えてきています。猫はははあ、と思いましたが素知らぬふりをしていました。

2015-03-29 04:35:04
さささ @sasasa3397

「ええい、もういい、こうなったら力づくだ」悪魔はついに本性を現し、手袋をはめた手を伸ばしました。目は血走り、背中には大きな蝙蝠の翼。猫は背中の毛を逆立てると、悪魔の手をめがけ、精一杯の力で爪を立て、引っ掻いてやりました。白い手袋が破れます。

2015-03-29 04:38:07
さささ @sasasa3397

「あっちっち!」火花に触れていた悪魔は、途端に大きな悲鳴を上げて飛び上がりました。そう、いかに冷えていても、元はと言えばお日様の一部。悪魔は特別な手袋をはめていないと、触ることすらできないのです。そこを、猫が破いて、台無しにしてやったというわけです。

2015-03-29 04:40:08
さささ @sasasa3397

「お、おのれ。覚えていろよ!」悪魔はしっぽを巻いて(たとえではありませんよ。本当に細いしっぽをくるくると巻いていたのです!)逃げていきました。猫は鼻を鳴らしてその背中を見送りました。火花は、ちゃんと庭の隅っこで、汚れもせずに鈍く輝いておりました。

2015-03-29 04:42:27
さささ @sasasa3397

それから、火花はずっと猫の大事なものとして、庭の隅っこにありました。空から天使が降りてきて、それは大変なものだから渡すようにと言った時も、猫はその手に噛みついてやったものです。猫は火花の立派な守護者でした。ずっと、ずっと。いつも変わりなく。

2015-03-29 04:44:25
さささ @sasasa3397

ずっと? そう、今でもです。今でもその家の庭の隅っこに行き、猫に気に入られれば(ここが難関です)、あなたもあの火花を目にすることができますよ。昔々とはいっても、それは猫にとってのこと。まだまだ猫は元気に、ねずみやすずめを追っかけています。

2015-03-29 04:46:48
さささ @sasasa3397

黒い猫は、今日も元気です。上手くすれば、丸くなって、お昼寝をしている様が見られるかもしれませんよ。

2015-03-29 04:47:47