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高峯みやび @sukamelancholy

……悪い。手間、かけさせた。 身を挺して提督の意識に飛び込み、戦ってくれた秘書艦たちに、出来るだけ笑顔を作ってみせる。こうしてまた生きて会えたとはいえ、その代償は大きかった。秘書艦たちの前では倒れるまいと、踏ん張る。血液を燃料として使ったのが原因である。 #変態不知火さん

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「当然の事よ。私を誰だと思っているのかしら？」 自慢げに髪をなびかせて胸を張るビスマルクを撫でる。すると誇らしげなその顔は柔らかな笑みに変わる。心から信頼し、愛している者から撫でられたのが嬉しいのだ。 「あっ、私も、誠士郎さん、私もっ」 同じようにねだる龍鳳。 #変態不知火さん

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勿論それにも応えて、撫でてやる。と、不知火が漸く抱擁を解き、提督を見上げる。 「司令、何か……少々雰囲気が変わったような気がします」 ――。こればかりは流石だと言わざるを得ない。不知火は彼の身体の事で何かを察したらしい。苦笑しつつも提督は不知火を撫でる。 #変態不知火さん

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それよりも。先に皆は戻ってくれ。 「しかし」 いいから。こんな所にずっと居ても仕方がないだろう。 「……、はい。では、あとで必ず」 ――とは言ったものの、自身の意識の中に入ってきた者たちをどうやって送り返せばいいのか。その方法を考えていると、三人は一瞬で消えた。 #変態不知火さん

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…………、消えた。 大丈夫、だろうか。確かに戻ってくれと願いはしたが、それが本当に無事戻れたのだろうか。まさか白血球のように排除した、とかでは……。 いや、信じよう。彼女達は無事に戻った。それでいい。 ならば、今はやるべき事をしなければ。 #変態不知火さん

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体内に寄生し、意識まで乗っ取ろうとした怪物は消えた。これで一件落着ではあるが……、それでも心残りはあった。怪物によって演じさせられてきた物語の登場人物を、一人ぼっちにしてしまっていたからだ。いくら現実のものではないとはいえ、自分の意識の中で起こった事だ。 #変態不知火さん

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ならば、やる事はひとつ。改変され惨劇に終わった物語をしっかりと元に戻すのだ。一人ぼっちの天津風を、無事に家に帰さなければ。 #変態不知火さん

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◆◆◆ #変態不知火さん

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良い子の縺ｮ螟峨〓縺・ｸ九ロ繧ｿ遶･隧ｱ繧ｷ繝ｪ繝ｼ繧ｺ―――― もう御託は良い。この世界を、自分の中の意識を支配しているのは自分だ。もうおかしな物語なんて、作らせない。 #変態不知火さん

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目の前で、誠士郎うさぎは死んでしまいました。剣を大きく振ったかと思ったら、その首がごろんと落ちたのですから。知らない世界で親切にしてくれた人が、目の前で死んだ絶望。天津風はその場で力なく座る事しか出来ませんでした。 #変態不知火さん

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先ほどまで居た筈のチェシャ猫の不知火も、トランプの兵の陸奥や阿賀野も。まるで天津風なんて存在していなかったかのように去り、王国内を歩いている者達も天津風を無視しています。 とうとう本当に孤独となってしまった天津風は、膝を抱いて静かに泣きました。 #変態不知火さん

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不思議の世界で、天津風は一人ぼっち。元の世界にも戻れません。誰も手を差し伸べません。 「――お嬢さん、お嬢さん。泣かないでおくれ」 一人だけを除いて。 「私は大丈夫。この通り生きていますから」 その声にはっとなり、顔を上げればそこには死んだはずの誠士郎うさぎ。 #変態不知火さん

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その、筈だったのですが。よく見ればタキシードの姿ではなく、頭にうさぎの耳も生えていません。ですが、その顔は誠士郎うさぎそのもの。 「あなた……、本物なの……？」 そう天津風が尋ねると、彼はにっこりと笑いました。 「ええ。『本物』ですとも」 #変態不知火さん

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「ほ、本当に死んじゃったと思ったわ……」 彼の手を握り、天津風は涙を拭います。 「いいえ、この通り私は生きています。ですから安心してください」 「……うん」 「さぁ、もうここには用はありません。お嬢さん、貴女をお家に返してあげましょう」 #変態不知火さん

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こうして二人は手を握り王国の外へと向かいます。道を行く人々は二人を無視し、そして避けていきます。 「なんだか、気持ち悪いわ」 「お気になさる事はありません。皆、役目を終えたのですから」 「……え？」 不思議な事を話す彼に首を傾げます。 #変態不知火さん

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「お話を読んだ事はありますか？ 絵本や、小説などです」 「ええ、あるけれど……」 「それと同じです。この人々は物語が終わってしまったから役目を終え、こうしているのです」 「……ど、どういう意味……？」 「そのままの意味です、お嬢さん。貴女もまた、その中の一人」 #変態不知火さん

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「そ、そんな……だって、でも」 天津風は言葉に詰まりました。 「お父さんやお母さんが居る、と。ええ、確かにそうでしょう。けれどそういう設定なのです」 奇妙な事を言う彼に、思わず天津風は手を離します。 「そんなの、そんなのおかしいわ。だって私は――」 #変態不知火さん

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しかし彼は首を振ります。 「じゃあ、じゃあ私って……私って何なの……！？」 声を荒げる天津風に、彼はそっと手を握ります。 「貴女は物語の登場人物。私の中で生まれた、二次的な存在」 「……そんな」 「そして私は物語を正しい方向へ導かなければなりません」 #変態不知火さん

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「でも、私が役目を果たしたら――」 「物語は終わりを迎え、本は閉じられるでしょう」 「……」 「ですが。私の住んでいる本当の世界では本当の貴女も居る」 「本当の、私……」 「えぇ」 「その私は、貴方とどんな関係なの……？」 「……大切な、方です」 「……そう」 #変態不知火さん

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「……一つだけ、聞かせて」 「はい、何でしょう」 彼の手をしっかりと握り、目を見る天津風。 「私は、無意味な存在？」 すると彼は首を振りました。 「いいえ。無意味などではありません。それに、貴女をあそこで一人ぼっちにするわけにはいきません。だから、来たのです」 #変態不知火さん

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「……そう」 「はい」 「…………それなら、いいの。ねえ、あなた」 「はい」 「本当の私の事、大切にしてよね」 「勿論で御座います。これまでも、これからも」 「それを聞いて安心したわ。さぁ、行きましょう。終わりにしなきゃ……よね」 #変態不知火さん

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そうして二人は王国の外へ出て、元の世界へと戻れる穴へと到達しました。その穴は木の根が作った穴で、そこをくぐれば戻れるというのです。 「……疑うなんて事、しないわ。送ってくれて、ありがとう」 「当然のことをしたまでです」 天津風は穴を通る前に、彼に飛びつきました。 #変態不知火さん

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「んッ……」 物語の登場人物だと言われても、この抱いた心はきっと……。そう思った天津風は彼の頬にそっと口づけました。 「……大好きよ」 そう言って、天津風は元の世界へと戻っていきました。 #変態不知火さん

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「……。全く、物語の中でも天津風はこういう子なのか。忠実だな……」 そう呟いて、天津風の唇が触れた場所を手でそっと撫で、微笑みました。 #変態不知火さん

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穴を通り抜けた先で、光に包まれたかと思うと、天津風はいつの間にかお母さんの膝の上で眠っていました。 「あら、おはよう。天津風」 そこに居たのは天津風の母親、陸奥。そういう設定であると聞かされても、天津風はにっこりと笑って答えました。 「おはよう、お母さん」 #変態不知火さん