【エイプリルフール企画】四月馬鹿版忍たま大正浪漫パロ【文次郎が主人公】

祥子さん(@syoukotohime)と、ツカノ(@tukano_2013)でエイプリルフール企画として忍たま大正浪漫設定で思いつくままゆるく連作をしました。 一応、文次郎が主人公らしいです。
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ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 時は大正、場所は昼間は煌びやかだか、夜となれば魑魅魍魎が跋扈する東洋の魔都帝都。その日、幾つかの帝都某所には四月一日と名乗る差出人から封書が送られてきたのだった。中身は、四月一日に当家に是非おいでくださいと書かれた招待状と地図。はてさて四月一日とは誰。

2015-04-01 00:50:55
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 招待状には黒方が焚き染められている。和風の招待状かといえばさにあらず、横書きに西欧風の唐草模様の縁取りだ。金と暇を持て余した野郎だな、と、潮江文次郎は招待状を床に放り出す。しかし、彼の左右異なる形の目はひらひら待った文を追った。行かねばならぬと何かが囁く

2015-04-01 01:00:23
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 行かねばならぬ、行かねばならぬ。潮江文次郎は何かに取り憑かれたかのように呟く。そこへ現れたのは、彼の友人。学生服姿の涼やか顔をした友人は床に放置された招待状を拾い上げると、柳眉を歪める。「行かねばならぬとお前がお題目のように呟いているのは、ここへかね」

2015-04-01 01:06:01
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「そうだ。何か文句でも?」 「あったとして、帝国軍人殿をたかだか帝大生か止めることは出来まい?」 だが断然気に入らない、と、学生服の男――仙蔵は吐き捨てた。 「さっき留三郎が似たような紙を持って銀座の方へゆくのを見かけたばかりでな」

2015-04-01 01:14:21
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 「あの巻き込まれ不運がか」仙蔵の言葉に反応して、文次郎は怒鳴るように言う。何故なら、文次郎にとって留三郎は犬猿の仲のライバル。決して、彼に遅れを取る訳にはいかないのである。文次郎はすっくと立ち上がると、部屋に仙蔵を残して一目散に外へ出て行ったのだった。

2015-04-01 01:23:16
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 銀座銀座、銀座の真中。五感が鈍い訳でもない癖に、雅ごとにとんと興味を示さぬ文次郎は、行き交う高雅な人々の間をカアキの軍服で通るのも厭わず、地図に示された場所へと向かった。和光と三越の間を折れ、そこから細い路地へと二つ、三つ、ゆく。 少年が待っていた。

2015-04-01 01:40:58
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 「お待ちしてました」と、錐のような顔見知りの震災孤児の少年は文次郎に話しかけて来た。「何がお待ちしていましたなんだ」文次郎が訝しげに言うと、少年は勿体ぶった様子で咳払いをする。「四月一日さんに招待されているのでしょう」少年の言葉に文次郎が頷く。

2015-04-01 01:46:25
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 少年は文次郎に小さな箱と紙を手渡した。 「何だこれは」 「資生堂の花椿と地図です」 高いんですよ、何せ初めての国産香水ですからと、少年は惜しそうに言う。吝嗇な彼は預かり物でも高価品を手放すのをよしとしない。 「四月一日さんの所に行くのに役立ちますよ」

2015-04-01 02:03:00
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 「役に立つ?」文次郎は困惑の色を深めた。「勿論、香水をつけて女装するんすよ。それ以外に何があるんですか」と、少年はチシャ猫のようなニヤニヤ笑いを顔に浮かべる。次の瞬間、カクンと文次郎の顎が落ちる音がした。そんな展開になるとは、誰が思っていただろうか。

2015-04-01 07:23:03
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 おれはそんなことせんぞ、と、言いかけた目の前でぴしゃりと扉が閉まる。こんな所に扉があったかと思うも、既に場所は銀座の裏通り。手元の箱と地図を見て、またぞろ、行かねばならぬという思いがむくむく湧いた。 女装せねばならぬ、とならなくて幸いだと彼は思った。

2015-04-01 11:51:31
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 入手した地図に目を向ければ、右上に『扉ヲ開クベシ。サレバ新タナ道ガ開カレルダロウ』と書かれていた。文次郎が閉まったばかりの扉を開ければ、そこには少年はおらず、どこかの邸宅の廊下に繋がっていた。どうやら、新たな地図はこの邸宅の内部構造を示しているらしい。

2015-04-01 13:12:58
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 美しい洋館だ。銀座のどこかにある洋館にも思えるが、先ほどまで確かにこんな建物ではなかったのだ。うかうかはしていられない。ごくりと唾を飲み、文次郎は進む。血の気の多い彼らしく、館の主のいそうな書斎へと。館全体に甘い薫りがする。まるでおんなの香水のような。

2015-04-01 14:00:36
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 香水かと文次郎は口の中で呟いて、手の中にある香水を見下ろす。軽く蓋を開けると、館の中に漂う香りと同じ物が漂う。そういえば、これを渡されたのはいいが、どうすれば良いのだろうか。女装をしろと言うのは冗談としても、何故自分にこれを渡したのか理由が解らぬ。

2015-04-01 14:50:22
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 紫檀か何か、深い色をした階段を上りながら、文次郎は溜息を吐く。まあ、四月一日さんとやらに会えば解るだろうか。とそこに、上階から少年が駆け下りてきた。金時計を見ながら香水、香水、と呟いている。 「団蔵!?」 顔見知りに見えたので思わず名を呼んだ。

2015-04-01 15:26:20
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 文次郎の声に団蔵が反応して、金時計から目線を外して顔を上げる。 「ここで、何をしている」 文次郎が訊くのと同時に、団蔵が素っ頓狂な声を出す。彼の目は、文次郎に釘づけになっていた。正確に言えば、文次郎が持っている香水の瓶にである。 「駄目じゃないですか」

2015-04-01 15:41:58
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 迫力に押されて黙った文次郎に、団蔵は続ける。 「香水を持ったまま書斎に行っても仕方ないでしょう。香水は女性のものですよ。礼を払うなら」 まるで言葉遊びのように少年は黙り、階段の下を指さした。 「礼儀知らずな振る舞いをすると四月一日さんに会えませんよ?」

2015-04-01 16:10:33
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime どうやら、四月一日さんとやらは女性であるらしい。この香水は彼女への贈り物かと文次郎は独りごちた。 「四月一日さんは、下にいるのか」 「それ以外に、どこにいると言うんですか」 文次郎に対する団蔵の言葉は辛辣極まりない。まるで偽物のようだと、文次郎は思う。

2015-04-01 16:18:41
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 今更ながらに薄気味悪さを覚えて階段の下を覗き込み、はっと振り返ると団蔵の姿はどこにもなかった。ただ、金時計が階段の上でかちかち音を立てている。おおい、と呼びかけてみるが答えはない。今度会ったら返してやろうと拾い上げる。 時計は、逆向きに動いていた。

2015-04-01 18:06:01
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime これでは時計の役に立たんではないかと文次郎は首を傾げながら、金時計を懐の中に入れる。一体、団蔵はこれで何を確認していたのだろうか。そして、金時計が懐の中で動く音に追い立てられるように、文次郎が階下に下りようとした、その時。足元の階段が消えたのだった。

2015-04-01 18:32:02
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 おいおいおい、と、我ながら情けない悲鳴を上げながらの真っ逆さま。ああこれは死んだな、と、頭の中でナニカが囁く。 どん、と、落ちた先は何かもこもこしている。獣の匂いがした。ああ、頭が砕けるのではなく砕かれる死に様か、と、覚悟を決めた。

2015-04-01 18:51:12
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime かくなる上は、適わぬまでも一太刀と思い文次郎が体勢を立て直そうとすると、足元のもこもこしている謎の生き物が動き出す。どうやら、もこもこした白い生き物は、文次郎をどこかに連れて行こうとしているらしい。これも、四月一日氏の所へ辿り着く為の試練の一つか。

2015-04-01 19:10:05
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「珍妙なやつだ」 「ヘム」 「鳴き声まで珍妙だ」 のっしのっしと歩く獣は、犬に似ていなくもないがよくわからない。なんだか得意げな顔をしてるいるので、儘よとばかり横になっている。天井には、数多の顔が張り付いていた。仮面だろう、と、呟く声がじわりと震えた。

2015-04-01 19:15:16
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime もしや、四月一日氏は若い男の顔を剥いで収集しているのだろうか。文次郎は、自分に未だ顔があるのか確かめるように思わず触る。良かった、いつもと変わらない。落ちついて、よくよく見れば天井の顔は白髪におかっぱ頭をした老人の物である事に気が付く。幾つもの同じ顔。

2015-04-01 19:20:07
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 不気味に思っても良いところなのについうっかり爆笑した。つられたように獣も一緒に笑う。人間くさいやつだ。 「お客さん、ヘムヘムに懐かれるとは中々やりますね。おれでもだいぶ掛かったのに」 獣が足を止める。いつの間にかすぐ脇に、灰髪の男が立っていた。

2015-04-01 19:48:50
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime へーむへむへむと、獣が男に向かって笑う。獣は文次郎を男の前に下ろすと、普通の飼い犬のサイズに戻る。妖術でも使っているのか。怪しい輩めと、文次郎が胡乱な目を灰髪の男に向ければ、彼は困ったように頭を掻く。見た目は好青年に見えるが、彼は何者なのだろうか。

2015-04-01 19:56:51