【エイプリルフール企画】四月馬鹿版忍たま大正浪漫パロ【文次郎が主人公】

祥子さん(@syoukotohime)と、ツカノ(@tukano_2013)でエイプリルフール企画として忍たま大正浪漫設定で思いつくままゆるく連作をしました。 一応、文次郎が主人公らしいです。
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祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「ご不審は解りますけれど、おれには何ともお答えしかねます。何せ雇われの動物係なので」 見目に反して優美に頭を下げた男は、すっと地下道の先を指さした。 「ここを真っ直ぐ行くと、三月町に出ます。その先には係の者が。老婆心ながら、見失わないようお祈りします」

2015-04-01 20:19:27
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 聞き覚えのない町の名前だなと文次郎が訝しく思っていると、男が『そうそう』と思い出したように言う。 「つい先程も、貴方と同じ年頃の方が、三月町に向かわれましたよ」 その言葉で文次郎は思い出す。犬猿の仲であるライバルが、先に四月一日邸へ向かっていた事を。

2015-04-01 20:36:54
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 お気を付けて、という声に送られて、文次郎は駈け出した。行く手に見えてきたのは、どこか昔懐かしい風景の町である。低い屋根に、綺麗に揃った瓦、籬の美しさ。これではまるで、生家のある関西のどこかのようだ。 いや、それそのもの。

2015-04-01 20:46:32
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 何故、こんな風景がこんな所に広がっているのだろうか。もしや、自分は里心でもついているのだろうか。それでこんな風景がと考えて、文次郎は思考を追い払う為にぶんぶんと頭を振る。文次郎が三月町と書かれた電柱看板を通り過ぎると、彼を呼び止める二人分の声がした。

2015-04-01 20:53:33
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「お前らがいるならやはりここは帝都なのか」 安堵した文次郎の目の前で、二人組は首を傾げる。 「知った御仁か? 兵助」 「いいや?」 この先輩不孝者が! と、軍学校の後輩二人を怒鳴りつけたいのは山々だったが、恐らくは言うだけ無駄なのだろう。

2015-04-01 21:08:54
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 文次郎は狸にでも化かされているような気分に陥る。しかし、そうもしてはいられない。強迫観念のような声が、背後から行かねばならぬと言っているのだから。文次郎は恐らくこの二人がさっきの灰髪の男が言っていた係の者なのだろうと考え、四月一日邸への行き方を訊ねる。

2015-04-01 21:23:19
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「さてさて、おれたちも雇われでしてね」 童顔の男は笑い、美少年は細氷を散りばめた無表情で頷いた。 「おれたちに出来るのは、少しばかりお教えすることだけ」 「あなたがお持ちの荷物は何で、ここはどこで、誰に会いに行かれるのですか?」

2015-04-01 21:28:17
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 文次郎は地図と花椿の瓶を見せる。すると、二人はまるで悪巧みでもしているかのように鹿爪顔で頷き合った。何か厭な予感がすると文次郎の背筋に冷たいものが走る。 「それでしたら、このまま真っ直ぐ行くと四月一日さんのお屋敷があります。そこでその瓶を見せて下さい」

2015-04-01 21:35:30
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 それじゃなかったら「どう」だったのか、と、文次郎は聞かない。聞いてもろくな琴似は鳴らないと解っていたからだ。 後に彼は思い出す。 この時、金時計の存在をすっかり忘れていたことに。

2015-04-01 21:41:53
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 慌てて、文次郎は懐に入れたままの金時計を取り出して、二人に見せた。金時計を見た途端、二人の目がギラリと光る。次の瞬間、美少年が文次郎の手の中の金時計をかっさらうと童顔の男と一目散に走りだす。何たる不覚。文次郎は唇を噛みながら、二人の後を追ったのだった。

2015-04-01 21:49:58
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「お前らやっぱり久々知に尾浜だな!」 鍛練を重ねているこの足だと言うのに、到底追いつけそうもない。知った二人は駿足の男たちだが、あの男たちもまた足が速い。突いていくのに必死だ。土地鑑もないというのに!

2015-04-01 21:56:28
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 二人は文次郎の問いには、答えるつもりがないらしい。何も言わずに、疾風怒濤電光石火の勢いで走り続ける。まるで二人には目的地があるかのように。暫く追いかけっこを続けていると、大きな門が見えて来た。そのまま、二人はその大きな門を潜って行ってしまったのである。

2015-04-01 22:06:23
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 表札が出ていた。 『四月一日』 えええ、と、漏れた声の情けないこと! けれど誰が文次郎を責められようか。ここまでの仕儀を振り返るに――どう考えても罠だろう。誰が仕掛けている罠なのかは知れないが。 解っていても、踏み込まねばどうしようもない。

2015-04-01 22:09:02
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime ええい、南無三宝。 文次郎は心の中で唱えると、意を決して門を潜る。門を潜った先にあったのは、料亭のような和風の邸宅。開いたままの玄関口から中に入れば、長い廊下の先に久々知と尾浜の背中が見えたような気がした。あいつらめと文次郎は舌打ちをする。

2015-04-01 22:21:09
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 廊下を走り抜ける。こう言うところは足に棘が刺さりそうで嫌だな、と、律儀に靴を脱いだ文次郎は思った。足音は己の他に聞こえない。どこまで行った。 やあようこそ。 不意の声は、しかし、背後から。

2015-04-01 22:27:18
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 文次郎が振り返れば、そこにいたのは自分の部屋に残して来た筈の友人の姿。 「何をしているんだ」 文次郎が驚きながら言うと、仙蔵は柳眉を顰めて首を傾げる。久々知や尾浜のように、おれの事を知らないと言うつもりかと歯噛みすれば、仙蔵はにこりと笑ったのだった。

2015-04-01 22:36:54
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「何をしているもなにも、それはこちらの台詞だ。目は開いているか?」 目を凝らす。友がいる。窓があり、机があり――よく見慣れた。そう、疑いようもなく、文次郎は己の部屋にいるのだった。 いや、いや、それもまやかしかも知れない。

2015-04-01 22:43:54
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 文次郎が茫然としていると、仙蔵は訝し気に首を傾げる。 「どうしたんだ、熱でもあるのか」 「いや、熱などない。さっき見せた四月一日からの招待状を覚えているか」 額に手を伸ばしてくる仙蔵の手を振り払って、文次郎は訊ねた。 「何の話だ」

2015-04-01 22:55:40
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 仙蔵は冗句を解する性質ではあるが、今その白い面には文次郎を心配する色が去来している。まさか今までのものは全て夢。そんな馬鹿な。証拠はある。金時計は持って行かれてしまった。ポケットには――箱がある。取り出すと、先ほどとは少し色が変わっているようだった。

2015-04-01 23:02:18
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime 「資生堂の花椿なんぞ、どうしたんだ。さてはあげる女でも出来たか。お前の様子がおかしいのは、恋煩いだったんだな」 仙蔵はやれやれと言った表情を顔に浮かべる。まるで心配して損をしたと言いだけな顔を文次郎は軽く睨んだ後、少し色が変わった箱の蓋を開けた。

2015-04-01 23:07:19
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「あっ」 二人揃って声を上げた。箱の中には香水などなく、椿の生花と、こちこち音を刻む金時計が入っていた。ふわりと浮き上がる香りに人工の色はなく、時計はきちんと時を刻んでいる。

2015-04-01 23:12:28
ツカノ @tukano_2013

@syoukotohime チックタック、チックタック、チックタック。時計が時を刻む音が部屋に響く。赤い椿と金時計。文次郎と仙蔵は思わず顔を見合わせた。 「どういう趣向なんだ、これは」 「知るものか」 「確かにお前がこんな風情な事を思いつくとは思えんしな」 仙蔵はあっさりと頷く。

2015-04-01 23:17:23
祥子/琴 @syoukotohime

@tukano_2013 「さて気を取り直して、文次郎、喜べ。さきほどお前は四月一日がどうこうと言っていたがな。来るぞ。五、四、三、ニ、一」 チックタック、チックタック、規則的な時計が十二時を指した瞬間、これまでよりも一層華やかな香りが立ち上ったような気がした。

2015-04-01 23:21:53