【第四部-六】雲龍の好きの表し方 #見つめる時雨

雲龍 扶桑
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扶桑視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

温かい湯気を感じながら、お気に入りの湯呑みに入ったお茶を口にする。これを熱いと感じるようになってきた辺り、そろそろ冬も終わりかしらね。 「…熱い」 雲龍が隣で舌を出しながらお茶と睨めっこをしている。…猫舌だったのかしら?

2015-04-02 00:34:07
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

ふー、ふーとお茶に向かって息を吹きかける雲龍。そして頃合いを見て、恐る恐るお茶に口をつけた。…今度は大丈夫だったみたい。でもまだ少し熱かったようで、少量飲んだだけでその湯呑みを膝の上に置いた。

2015-04-02 00:38:01
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…扶桑、私は少し…軽率なのかしら」 「どうして?」 …私は雲龍が悩む理由について察しはついていた。このコは、相手への好意を彼女なりにとても素直に表現できる。だからこそ、悩んでいるのだと思う。

2015-04-02 00:43:37
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

軽率に見える行動も彼女に取っては真面目で。何より彼女の抱える記憶がそうさせているのだと思う。最も色んな好意の区別があまりついていないようだけれど。 「皆、キスは嫌?」 「突然されたら驚くコが多いかもしれないわね」 「嫌じゃない…?」 「相手が貴女をどう思っているかによると思うわ」

2015-04-02 00:49:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…雲龍は、何故そうするの?」 「…好きだから」 「貴女は、相手への好意を素直に行動にできるのね。…どうして?」 「…私はかつて何もできずに沈んでしまったから。今度は、後悔したくないの」 …雲龍が、窓の外に咲く桜を見つめる。

2015-04-02 00:52:49
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「またいつか、沈んでしまう日が来るかもしれない。その日までに私は、私の中にある想いを全て伝えておきたい。私が消えてしまっても、その想いはきっと、ここに留まってくれるから」 「…そんなことを考えていたのね」

2015-04-02 00:57:03
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…でも、好きな相手に嫌な思いをさせるのは好きじゃない。…私はやめた方がいいのかしら」 「…する前に、ちゃんと貴女の気持ちを伝えて、その上でキスしてもいいか聞いたらいいんじゃないかしら。断られても、相手は貴女の気持ちを知ることができる。貴女の想いは、相手の心に留まってくれるわ」

2015-04-02 01:02:10
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…私の気持ち…。それは好きって言うだけじゃ駄目かしら?」 「…うーん、ちょっと説明が足りないかもしれないわね」 「そう…。難しい」 雲龍が両手で自分の頬をふにふにしている。私はその不思議な仕草に興味を惹かれ、しばらく見ていた。

2015-04-02 01:05:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…色々、考えてみるわね。ありがとう、扶桑。相談にのってくれて」 「いえ、お安い御用よ」 お茶を啜り、私は小さく息を吐いた。…? 雲龍が、私の事をじっと見ていた。 「何かしら?」 「扶桑、私ね、好きよ。扶桑の事」 「…そう。ふふ、ありがとう」

2015-04-02 01:09:33
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ねぇ、キスしてもいいかしら?」 「…そういえば、貴女はどこにキスをしたいの?」 「え、口よ」 「…そ、そうだったのね」 …てっきり頬や額かと思っていたわ…。それはされたコはとても驚いたことでしょうね…。

2015-04-02 01:14:51
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

きっと雲龍の"好き"は、親愛。もしかしたらその中にもっと深いものがあるかもしれないけれど、彼女自身気づいてないんじゃないかしら。 「雲龍。キスにはね、色んな意味があるのよ。キスをする場所にも。貴女が私に抱いた"好き"は、きっと頬にするものだと思うわ」 「…ほっぺた?」 「ええ」

2015-04-02 01:21:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「頬って、触れるだけ?」 「そう…ね」 それ以上も考えているのかしら…?口にキスって、もしかして結構深いのをしてたんじゃ…。 「それで、気持ちよくさせてあげられる?」 「…えっと」 …彼女は、私が想像していたよりもずっとすごいことをしてきたみたいね…。

2015-04-02 01:31:30
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…大丈夫よ。それだけで十分だと思うわ」 「そう…なのね。…ねぇ、扶桑にしてみてもいい?頬に、キス」 …これは、断れないわね。でも、頬になら。 「わかったわ。いいわよ、しても」

2015-04-02 01:36:41
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…雲龍がゆっくりと身体を寄せてくる。私は目を閉じ、彼女に身を任せた。…そして、しっとりとして優しい感触が、頬に触れた。それはまるで、彼女のふんわりとした柔かな心を現しているかのようで。 「…どう?」 「ええ、貴女の温かい好意を感じたわ。…気持ち良かったわよ」 「…そう。よかった」

2015-04-02 01:43:38
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「もし、雲龍がもっと貴女の"好き"を伝えたい相手がいたら、その時は貴女が好きをあげたいところにすればいいと思うわ。ただし、相手の気持ちはちゃんと考えてあげてね。いい?」 「…ええ、わかったわ。ありがとう、扶桑」 …私は雲龍の柔らかい笑顔を見て、少し安堵を覚えた。

2015-04-02 01:54:02
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…さぁ、そろそろ部屋に戻りましょう。おやすみなさい、雲龍」 「扶桑」 「はい?」 …去り際に、私の頬にもう一度しっとりした感触が触れた。 「…好きよ」 頬を赤く染めて微笑む雲龍は、まるで恋をしている少女のよう。でも、同時に幼い女の子のようにも見えた。彼女は…どっちかしら…?――

2015-04-02 01:58:43