- kinnkoumori1
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幸い、あの後も以前の部下達はついてきてくれている。ストリートの管理にはやや持て余すほどの面子であった。彼らの給与も支払えている。ただ、腕が鈍っていくことに危機感を覚えていた。(とはいえこの先、活かすことがあるだろうか)紫煙を空に放っていると、ふと頭上に影が差した。 20
2015-05-27 17:03:00見上げた先には、葉巻を咥えた男がやや訝しげな目でこちらを見ている。ハーフウェイは先んじてアイサツした。「ドーモ、ブラックヘイズ=サン。ハーフウェイです」「ドーモ。ブラックヘイズです」ブラックヘイズと呼ばれた男の眉間の皺が深くなる。「アンタの知ってる男だよ……色々あってな」21
2015-05-27 17:04:10ブラックヘイズはソウカイヤ時代に何度かミッションを共にした相手だ。丁度手の空いたソウカイニンジャがいない時に依頼をしたことがある。シンジケートの資金があればこそ雇えたのだが。ハーフウェイは傭兵をベンチに促し、現状を手短に話した。 22
2015-05-27 17:05:57「なんとも、判断に困る扱いだな。……やるかね?」ブラックヘイズは葉巻を差しだした。「爆薬入りは勘弁してくれよ」「殺りに来たのならとっくに仕掛けているさ。そして、もう終わっている」「違いない」葉巻を受け取り、苦笑しつつ火をつける。 23
2015-05-27 17:06:55「フゥー……。いいもの吸ってるな。そっちの商売は順調か?」「そうでもない……が、こればかりはケチれぬよ」矜持を保つのも高くつくものだ。「ところで」ハーフウェイは葉巻を味わいながら問う。「あの死神の噂、どこまで事実だ?」 24
2015-05-27 17:08:03「どこまで、とは」「ラオモト=サンをやったというのは」「……俺は直接見てはおらんのだがな。あの時他に出来る奴がいたとは思えん」「そうか」ハーフウェイはしばし瞑目した。この傭兵が言うのだ、事実であろう。帝王がどこまで突き進むのか。ハーフウェイは見届けたかった。葉巻の灰が落ちた。25
2015-05-27 17:09:19重ねてハーフウェイは問う。「冗談めいた強さはどうだ?」「噂のほうがまだ大人しいほうだ、あれは。出会ったら逃げることを薦めるぞ、ハーフウェイ=サン。今の貴様ではイクサにならん」「忠告、ありがたく受け取っておこう」 26
2015-05-27 17:10:56「こちらも聞かせてもらおうか。セクトはどうかね?」「温度が低い……な」シンジケートは組織に忠実であれば個人の野心は見逃されていた。活気があった。だが、セクトは……セクトはどうであろう。 27
2015-05-27 17:11:48確かにラオモト・カンの遺児たるチバを首領とし、ソウカイヤの後継組織としてネオサイタマを支配する……。それは間違いない。ただ、セクトの支配の拡がり方はあまりにも、機械的で、予定調和で、冷徹であった。 28
2015-05-27 17:12:48「なあ、ブラックヘイズ=サン。いつまで傭兵を続けるつもりだ?」「スカウトかね?」「いや」ハーフウェイは考えてしまう。カネや権力を極めた先のことを。「例えば目標の金額でもあるのかと」 29
2015-05-27 17:13:41「ふむ……」ブラックヘイズは顎に手をやって思案する。「身体が動くうちは続けるだろうさ。ニンジャに寿命があるのかは知らんが……まあ、イクサの中で死ぬだろう」「……」「無駄な悩みだぞ、それは。いずれイクサのほうからやってこよう。精々後悔せぬように鍛えておくことだ」 30
2015-05-27 17:15:10「そう……だな。その通りだ」ハーフウェイは長大息する。ブラックヘイズは立ち上がった。「さて、そろそろ俺は行くとしよう。方々回っている所でね」フリーランス故、常に万全のバックアップが得られるとは限らぬ。土地勘を養っておくことは傭兵にとって疎かには出来ない。31
2015-05-27 17:16:18ブラックヘイズは懐から紙切れを取り出しハーフウェイに渡す。「連絡先か」「将来の優良顧客への営業だな、これは」「もらっておく。じゃあな」ハーフウェイは片手を上げて見送る。ブラックヘイズが踵を返し、歩きだそうとする。……その時だ! 32
2015-05-27 17:17:19「アイエエエエエエ!」遠くから悲鳴が響き渡った。「ヨタモノか?」平静に呟くブラックヘイズ。対してハーフウェイにはやや焦りが浮かんだ。あの声は、町会長の娘の声だ。赤の他人がいくら死のうと興味は無いが、彼女に死なれると今後の統治に少しばかり困難が生じる。 33
2015-05-27 17:18:30「貧乏になると実際忙しい」思わず、口を衝いてコトワザが出た。立ち上がる。「こちらも急ぎの用事が出来た。お先に失礼しよう」「オタッシャデー」駆けだすハーフウェイをブラックヘイズが見送った。走りながらサラリマンスーツの内側にブレーサーと脛当てが、そして顔にメンポが生まれた。 34
2015-05-27 17:19:43路地裏では、まさにスキンヘッドの男がハイスクールの制服を着た女学生に暴行を加えんとしていた。男の顔はサイバー・ガスマスクで覆われている。ニンジャだ。ハーフウェイが到着した。「ドーモ、ハーフウェイです」「あァ?」男が振り返った。「ドーモ、ディクテイターです。なんだ貴様は?」 35
2015-05-27 17:20:40「ここの管理者です。見たところそちらもセクトのニンジャのようですが」ディクテイターは鼻を鳴らした「やかましいぞ。このガキはな、こともあろうに往来で古代ローマカラテを侮辱しておったのよ。やれ型ばかり立派で役に立たぬなどと!許せぬなァー。ンン?むしろ貴様の失態ではないかな?」 36
2015-05-27 17:22:51まくしたてるディクテイターの声を聴きながら、対応を考える。どれほどの地位の者かは分からぬが、所属が分からぬまま始末するわけにもいかぬ。「確かに私の落ち度かもしれません」ハーフウェイは頭を下げる。「その娘には私から言っておきますので、どうか、この場は」 37
2015-05-27 17:24:14「バカ!木端の構成員が私に意見しようなどと。貴様にもケジメが必要か?」下部組織の構成員ではなさそうだ。「ですが、ここの管理もラオモト=サンから直々に賜った任務。事務所には正式な命令書もあります」今の彼が唯一使える権威である。「ムム……。」わずかにディクテイターが躊躇を見せた。38
2015-05-27 17:25:56「借り一つで。どうか」再度ハーフウェイは頭を下げる。我慢のしどころだ。「……よかろう。高くつくぞ、ハーフウェイ=サン」ディクテイターが女学生を離す。尻餅をついて、女学生が失禁した。「アリガトゴザイマス」「日を改めて訪ねさせてもらう。歓待の準備をしておけ!」「ハイ」 39
2015-05-27 17:26:44肩を怒らせながらディクテイターはその場を去った。後にはハーフウェイと、無事を悟り緊張の糸が切れたのか、すすり泣き始めた女学生が残された。「アー……どうしたものかな、これは」こちらのほうが、難しい仕事だった。 40
2015-05-27 17:27:16