【life goes on】 福間健二 #2factory86
遠い島へと旅立つ人の手をにぎる。温かくならない。雨をよけた場所。すぐそばで、娘と二人の孫を見送る男が着ているきみどりを濡らしていた。バスが見えなくなるとトイレをさがした。我慢していたのだ。おじいちゃんとぼく。ならんで用を足した。(life goes on1)#2factory86
2015-04-05 07:07:58まだ夜が明けない。彼は奥さんの運転する車に乗って去った。見えないところにいた奥さん、しゃんとしているおばあちゃんだ。彼女のアノラックもきみどりだった気がする。ぼくはJR立川駅で始発の東京行きを待った。3番線、おおぜい待っていた。(life goes on2)#2factory86
2015-04-06 11:20:04おじいちゃん、おばあちゃん、二人のけんかは最高だね。めちゃくちゃ議論でおばあちゃんが勝って「冬の野原を夏の風が行く」。おばあちゃんはクール。歯がきれいで化粧っけなしで滅多に笑わない。おじいちゃん、「取れない」って何が取れないの?(life goes on3)#2factory86
2015-04-07 11:14:04ゆうべからの二発、三発。どうして遅いドロップになるのか。胸で感じてるパンクが「お値段との相談」に殺される。資本主義。かわいい。人をだませなくて自分をだましているマスクが取れないんだ。もちろん乳房にハリあるけど、ともちんの場合は。(life goes on4)#2factory86
2015-04-08 10:16:06人も、社会も、もうだめだ。高級ぶったつもりのつぶつぶ焼きになって速度を落とし、まちがえてる。天候と関係なく機能する「かわいい」の置き場所。文法を破る、谷底への降り方。ここじゃないったら。何度言ったらわかるのとおばあちゃんは怒る。(life goes on5)#2factory86
2015-04-09 06:46:54午前四時四十分。国立に着いた。たまには吉野家の朝ごはんを食べたいが、お腹はすいていない。サトウトシキの映画の徹夜撮影につきあい、プロデューサーの岩田さんと吉野家の朝ごはんを食べた。二十年前のこと。もういない岩田さん。雨がやんだ。(life goes on6)#2factory86
2015-04-10 07:31:14諸情勢、諸症状。できあいの心配顔の、パワーない、ふりした、ハラスメント。靴と目の問題。どこを歩いてもどの背を追ってもいいけど、紐を結びなおして顔をあげたら何を睨めばいいのか。岩田さんだけじゃない、上野も伊藤もいないこの夜明けに。(life goes on7)#2factory86
2015-04-11 08:58:37わからないことをわかったことにしない。それが大事とわかって、ベーコンとキャベツの炒め方は天才的。でもまだマスクをしているともちんの、弟。おさむです。おじいちゃんの目の奥の、眠る火薬。取れないんやなくて、熱が届かんで爆発せんのや。(life goes on8)#2factory86
2015-04-12 10:17:44そうだ、雑巾だ。爆発したいのに爆発できずに腐っていく果実にかぶされたおまえを睨むのだ。どけよ。どかない。かわいそうなのはボケリンゴじゃない。使われて汚れを吸って雑に洗われて黒くなってるわたしたちだ。雨に濡れる勝負なら負けないよ。(life goes on9)#2factory86
2015-04-13 07:47:07体弱ってからもぼくの映画を見に来てくれた。オールナイトまでつきあってくれた。寒いと岩田さんのことを思い出す。そう、こっちはずっと寒かった。どうですか、春のテルセイラ。あの横丁の食堂のおばさんたちと大西洋は自信たっぷりだろうね。(life goes on10)#2factory86
2015-04-14 09:31:54