【曇り日の折りたたみ】 福間健二 #2factory89
かわいい末っ子になにか買っていきたい人、そんなことない人。御岳のみやげもの屋通りを戻りながらそんな分類を思った。店のひとつからビートルズ。一時間前も鳴っていた。さっきはストロベリー・フィールズ・フォーエバー。いまはデイ・トリッパーだ。(曇り日の折りたたみ1)#2factory89
2015-05-05 10:49:51飴玉でいい。じゃなくて、飴玉がいいんだ。往復一一一〇円のケーブルカーでおりる。定番の、おばさんたちのグループが、そばに。たいてい、ひとりがとくにうるさい。コンニャクについての講釈。なるほどということもあって、歩いておりる人が見える。(曇り日の折りたたみ2)#2factory89
2015-05-06 10:26:06傘のこと、それは。心配はあっても、善悪とかの二項対立じゃないってこと。こうなったらそうなるだけだというような法則はないってこと。拘束条件の、砕けて到着する光の花の、イメージだけじゃんかという局所化。そんな折りたたみを引き受けて、熱だ。(曇り日の折りたたみ3)#2factory89
2015-05-07 07:45:24世界の限界じゃない。生活の谷におりてもかわいい人、前からかわいくない人のどっちかの、二人の限界だ。ぼくはきみが好きだ。きみはぼくが好きじゃない。きみはもう電話をくれない。ぼくも電話しないのがタオ・リンの詩。ちがう曇り方、空に要求する。(曇り日の折りたたみ4)#2factory89
2015-05-08 10:12:33悪玉でいい。じゃなくて、悪玉のほうに熱が入る。中身はなんでも、チューブに書かれた注意を読む人、読まない人という分類なら、読む人のきみが身につけるプレシャスストーンに目が眩む者たちの従属的羨望。そんなものゴミ箱行きだとうそぶかせる熱だ。(曇り日の折りたたみ5)#2factory89
2015-05-09 09:24:04八度五分。それで十分。きみは人生に退屈して、美しい姿のまま、魔女たちのお祭りの炎に入るだろう。いばるな。大盤振る舞いの、ヴァルプルギスの夜。このあとだよ。下界のベッドで生きのびるために汗をかき、起きて新宿方向の空を見るぼくとの勝負は。(曇り日の折りたたみ6)#2factory89
2015-05-10 09:06:36メーデー。新宿方向にいやな思い出がある。関係あるのかどうか、朝焼けと方向探知機が正常すぎる。熱もさがった。ここで動きすぎない。むしろ不正直な出口が見つかるまでの、デイ・トリッパー。自分を折りたたむのだ。体を少しでも柔らかくしておこう。(曇り日の折りたたみ7)#2factory89
2015-05-11 09:28:11きみへの出口。物事の、一側面。はりつけられた「もうどうなってもいい」の両義性。自分がそうなのか。世界がそうなのか。チューブの中身、蓋をあけて押し出さなければわからないか。自分で破って出てしまうこともある。この動物、じっとしていない。(曇り日の折りたたみ8)#2factory89
2015-05-12 07:31:42初夏。自分のことと冷たいビールとどこかで拾った情報。頭にあるのはそれだけ。道端の花たちにハッとする。白、黄色、ピンク、橙。台所では食器を洗って手を拭いた自分を叱る。きれいにして洗剤もちゃんと落としたよ。だれかのためにそうしていない。(曇り日の折りたたみ9)#2factory89
2015-05-13 10:44:14そして世界は。いい天気がつづいた。目を閉じると、だれかとだれかの、呼吸器系の「出会いの音」が、甘い香りになった。おやつ、ワッフル。半分でいい。この折りたたみは断念しない。きみのことなんかどうだっていいという詩を書いては没にしている。(曇り日の折りたたみ10)#2factory89
2015-05-14 06:42:17