ジ・アイランド・オブ・ドクター・ベップ　＃３

劉度 @arther456

その監視塔が、突如として爆発した。鉄の骨組みが軋んでゆっくりと地面に倒れ、運の悪い怪物が下敷きになる。爆発音を聞きつけて、研究所の中から怪物たち慌てた様子で飛び出してくる。そこに砲弾が降り注いだ。為す術もなく怪物たちは吹き飛ばされる。 21

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森の中から、赤く輝く女性が歩いてきた。装甲空母姫だ。「他愛もない！鎧袖一触とはこのことか！」建物の影から現れた双頭の犬が装甲空母姫に飛びかかり、噛み付く。当然、怪物の歯のほうが砕けた。彼女の肌は軍艦の装甲なのだ。装甲空母姫は怪物を殴り飛ばす。 22

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空母姫が肩の副砲を構えた。陸上であるが故、主砲を撃てば反動が来る。撃ちたいのは山々だったが、今は作戦のために我慢するしかなかった。「さて」誤差修正完了。空母姫は吼えた。「帰ってきたぞ、ドクター・ベェェェップ！」艤装の副砲が火を噴き、建物の一角を吹き飛ばした。 23

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「どけどけどけぇぇぇ！」機銃を全門展開し、空母姫はそこら中を撃ちまくる。彼女は怒っていた。仲間たちが反吐の出るような実験に使われていること。船である自分が陸上で人間のように戦っていること。そして、本調子ではなかったとは言え、ここにいる艦娘に負けたことに。 24

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視線を感じ、装甲空母姫は飛び退った。肩を砲弾がかすめ、後ろにいた怪物の一団が吹き飛ぶ。「お客様」「ご自重下さい」２つの声が、硝煙の向こうから響く。「来たか」装甲空母姫は艤装を構え直す。硝煙の向こうから、まず一人分の足が見えた。それから二人分の顔が見えた。 25

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煙が晴れる。歩いてきたのは、腰から先が一人分の下半身に繋ぎ合わされた少女だった。「枝分かれ女め」シャム双生児、という言葉を空母姫は知らない。「チカと申します」「コウと申します」彼女たちは恭しく一礼する。その身には、給仕服の他に鋼鉄の装甲を身に纏っていた。艤装だ。 26

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「枝分かれなどと」「呼ばないで下さいませ」不服そうな彼女たちに、装甲空母姫はフン、と鼻を鳴らす。「これから死ぬ貴様など、枝分かれ女で十分だ！」空母姫の全ての砲が、彼女たちに狙いを定める。主砲をとっておいたのはこのためだ。「吹き飛べぇっ！」 27

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16inch三連装砲が火を噴いた。チカとコウは魔法シールドを展開、防御！反撃の砲を展開、空母姫に釣瓶撃ちを浴びせる！姫はこの砲撃を躱し、主砲を撃ち続ける。互いに有効打は無い。研究所を脱出する時に一度戦った空母姫は、彼女たちの装甲の厚さを知っていた。 28

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それ故、今日の姫は本気だった。「ここだっ！」姫は背中から多数の艦載機を射出、チカとコウに向け急降下爆撃を仕掛ける！戦艦の主砲を持つが、装甲空母姫はその名の通り空母である。前回は見せられなかったこの三次元攻撃を決め手にするつもりだった。 29

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しかし、爆撃機隊は爆弾を切り離す前に、全てが撃墜されてしまった。「何ィ！？」空母姫は目を剥いた。上空に見知らぬ艦載機の一群が現れていた。「直上防衛、完了」「直掩機、損害ありません」いつの間にか、近江は主砲を持たない残り２本の腕で、長弓を構えていた。 30

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「貴様、航空戦艦かっ！？」叫びながら、違う、と装甲空母姫は確信していた。自分の爆撃隊を撃墜した艦載機の動きは、水上機のものではない。二の矢を継いだ彼女たちは、にっこり笑った。「申し遅れました」「私達たち、艦娘としての名は」「「双胴航空戦艦・『近江』と申します」」 31

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長弓が、ひゅう、と鳴る。放たれた矢に式神が宿り、戦闘機の一群へと変化する。零戦や流星などではない。深海棲艦が使う艦載機と同じものだ。「チィッ！」空母姫も機体を発艦、敵の爆撃機の迎撃に当たらせる。砲撃能力だけでなく、空戦能力もまた互角。 32

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それよりも空母姫は、敵の名乗った艦名が信じられなかった。「『近江』だと？ありえん……」島の海岸に放置されていた戦艦の名前ではないか。あの船は沈んでから１０年も経っていない。そんな若い船が、艦霊を持つなどあり得ない。姫たちでさえ、深海棲艦になるには百年かかったのだ。 33

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だが、目の前の敵の強さは現実だ。『近江』には百年の歳月を踏み越える執念が宿っていたのか。それとも、この艦娘自身の魔力が、『近江』の意志を艦霊にむりやり引き上げているのか。どちらにせよ、双胴航空戦艦を相手にするのなら、そう簡単に勝てる勝負ではない。 34

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長期戦自体は問題ない。敵の目を惹きつけるなら、その方が都合がいい。しかし、もう一度この艦娘の前から逃げることになるかもしれないのは、屈辱だった。「集中せねばな」そうなる前に、借りを返す。決意を新たに、装甲空母姫は次なる航空機部隊を発艦させた。 35

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【ジ・アイランド・オブ・ドクター・ベップ】＃３おわり　＃４へ続く