エンド・オブ・クッキー・ウォーズ #3(完結)

クッキー戦争、これにておしまい。 2:https://togetter.com/li/568520
0
劉度 @arther456

【エンド・オブ・クッキー・ウォーズ # 3】

2013-09-26 21:01:04
劉度 @arther456

今夜が山でございます。どうぞ、お楽しみくださいませ。感想は #ryudo_ss へどうぞ。

2013-09-26 21:01:37
劉度 @arther456

ひゅん、と耳元の空気が鳴った。直感で首を曲げていなければ、首を蹴り飛ばされ死んでいただろう。陸奥は拳を構え直し、相手の挙動、両手両足に注目する。金色のオーラを放つ戦艦タ級。主砲の威力もさることながら、変幻自在の格闘術は、陸奥ですら苦戦する強敵だ。1

2013-09-26 21:02:08
劉度 @arther456

装甲空母姫に一撃を加え、そのままとどめを刺そうとした陸奥と伊勢だったが、そこにこの戦艦タ級が立ちはだかった。中破した装甲空母姫は彼女を縦に後方に下がり、恐らく今頃陣の外に脱出しているだろう。2

2013-09-26 21:06:28
劉度 @arther456

動きを止めた陸奥に、重巡が横合いから殴りかかってくる。見もせずに裏拳を放つ。頭部が奇妙な形に凹み、重巡はその場に沈む。これだけの威力の拳を数発叩き込んでも、金色の要塞はなおも笑みを浮かべたままだ。頭部のガードを固めつつ、陸奥は再び間合いを詰めた。3

2013-09-26 21:10:05
劉度 @arther456

数発のジャブの応酬の後、左腕で容赦の無いボディーブローを放つ。しかしタ級は滑るように横に移動してそれを避ける。同時に彼女の衣装の裾がはためき、袖口から手刀が伸び、陸奥の首を狙う。屈んで避けるが、それはフェイク。左足の回し蹴りが陸奥の脇腹を捉えた。4

2013-09-26 21:14:06
劉度 @arther456

陸奥の体が吹き飛び、一回、二回と水面の上を跳ねるが、すぐに気を取り直して着地した。陸奥もまた戦艦である。一撃で沈みはしない。問題は、長期戦をする場ではないということだ。できるだけ早くこのタ級を沈め、装甲空母姫を追わなくては。5

2013-09-26 21:18:22
劉度 @arther456

「伊勢、ちょっと無茶するから、周りの敵を頼んでもいいかしら?」「何するの?」「死にはしないわ」「……程々にね。提督も見てるんだから」頷いた陸奥はタ級に向き直ると、腕をだらりと垂らした。構えはとらない。ノーガードだ。タ級が眉根を寄せる。6

2013-09-26 21:22:02
劉度 @arther456

陸奥が駆け出す。タ級に向けて一直線だ。タ級が牽制の砲を放つが、紙一重で避けた陸奥は止まらない。タ級のセーラー服の袖がはためく。一瞬遅れて手刀が袖口から伸びる。上半身を横に振って回避。続いて、脇腹を狙った回し蹴り。下げていた腕で防ぐ。これも、フェイク。7

2013-09-26 21:25:43
劉度 @arther456

その時、タ級がぐるりと宙を舞った。陸奥が受け止めた足を起点にして回転し、高く上がったもう一本の足が急降下して彼女の頭を襲う。これこそが本命。全体重と地球の引力を乗せた上段回し蹴りが、陸奥の頭を狙う。だが陸奥は、その必殺の一撃をまるで来るのを知っていたかのように避けた。8

2013-09-26 21:29:01
劉度 @arther456

頭部は人にとって急所の塊である。艦娘にとっても、深海棲艦にとってもそれは変わらない。だからこそガードを固める。逆に先ほどの陸奥のように頭の守りを解けば、無意識にそこに本命の一撃を向けてしまう。そして狙われる場所がわかっているなら、どんな一撃でも避けられる可能性はある。9

2013-09-26 21:32:36
劉度 @arther456

必殺の一撃を避けられ、バランスを崩したタ級の目の前に、陸奥が迫る。限界まで引かれた拳には彼女の艤装の一つ、『3基目の』41cm連装砲が握られていた。「そおーれっ!」躊躇なく、鉄塊の右ストレートをタ級の顔面に叩きこむ。同時に、ズドンと重低音が響き、砲塔が爆発した。10

2013-09-26 21:36:02
劉度 @arther456

タ級の体が空高く吹き飛ぶ。まとっていた金色のオーラは消え、代わりに焦げ臭い黒煙が彼女の体から吹き上がっていた。陸奥の右腕も同じように煙を吹いていたが、ブンと腕を振ってむりやり掻き消す。彼女が背中を向けると同時に、海に落ちたタ級がドォンと派手な爆発を起こした。11

2013-09-26 21:39:47
劉度 @arther456

「さて、と」最大の障害を排除した陸奥は、一息ついて辺りを見渡した。装甲空母姫の姿は無い。他の深海棲艦は混乱の中で逃げ出してしまったか、伊勢の重装甲に砲弾を弾き返されている。提督の見る海図は、作戦通りだ。「後は向こう次第ね」水平線の彼方に、クッキーポータルが赤く輝いていた。12

2013-09-26 21:44:03
劉度 @arther456

「くそっ……なんだこれは、こんなデタラメな……」混戦となったカスガダマ沖から抜け出す、一つの赤い影がある。言うまでもない、装甲空母姫だ。中破した彼女の艤装は火花を散らし、煙を吹いているものの、それでもまだ航行は可能だった。14

2013-09-26 21:47:22
劉度 @arther456

あらゆる海戦データを記憶している彼女だったが、陸戦に関しては全くの素人だった。そもそも動き続ける船が防御陣形を組み、そこに敵の船が浸透突撃を仕掛けるなど、普通の船同士の戦いではありえないのだ。自分たちを船としてしか見ていない、深海棲艦たちの弱点であった。15

2013-09-26 21:51:17
劉度 @arther456

「奴らがもっと遠くにいれば!勝てたのに!」中央の重巡の砲撃も、無数のクッキーと姫の艦載機による支援爆撃も、敵味方入り乱れては使えない。尤も、本当に勝つきであれば赤軍のように敵味方まとめて砲撃でなぎ払うべきだったのだが、彼女にその発想はできなかった。16

2013-09-26 21:54:17
劉度 @arther456

既の所で割って入ったのは、カスガダマ島から援軍に駆けつけた戦艦タ級たちである。彼女たちのお陰で姫はなんとか後方に下がることができた。だが彼女は撤退のために後退しているのではない。駆逐艦が一隻、カスガダマに向かっているという連絡が入っていた。17

2013-09-26 21:59:18
劉度 @arther456

どれだけ敵を沈めようとも、カスガダマのクッキーポータルを破壊されては意味が無い。駆逐艦なら、中破した彼女でも対処できる。念のため数隻の軽巡を連れた彼女は、出せる限りの全速力で進む。カスガダマに近づくにつれ、海が徐々に赤く明るくなる。クッキーポータルから漏れる光のせいだ。18

2013-09-26 22:03:41
劉度 @arther456

装甲空母姫の左目が、薄闇の中に影を捉えた。高速で海面を滑るのは、駆逐艦・島風。「左舷に敵駆逐艦を発見!なんとしてもここで食い止めろ!」彼女の檄とともに、軽巡たちが砲を撃ち始める。水柱が島風の周りに上がる。島風も深海棲艦の一団に気付き、反撃してくる。19

2013-09-26 22:07:14
劉度 @arther456

水上の超高速戦。気を逸らせば一瞬で落伍する。軽巡が一隻、連装砲ちゃんの直撃を受け大破。煙を吹き上げ減速し、一瞬で後方の闇に消えていった。装甲空母姫は顧みない。島まで距離はある。火力はこちらが上だ。「辿り着かせるものか……!」あの赤い光を守れば、勝ちだ。20

2013-09-26 22:14:41
劉度 @arther456

その時、ポータルの光が一際大きく光り、そして爆ぜた。「え?」姫が見つめるその先で、更に爆発が続き、クッキーポータルがぐにゃりと物理的にありえない歪み方を開始する。そして、一際大きく輝いたかと思うと、ドォンという重低音と衝撃を残して、消滅してしまった。21

2013-09-26 22:18:35
劉度 @arther456

カスガダマ島はもはや異界とのゲートではなく、ただの燃え盛る島だった。その、吹き上がる火炎を背景に、6隻目の黒い影が立ち塞がっている。「ミッドウェーではな」熱風になびくツインテール、腕を組み仁王立ちするシルエット。「雲の下に敵艦隊がいて、見つけられなかったのじゃ」22

2013-09-26 22:22:34