エンド・オブ・クッキー・ウォーズ #3(完結)
重巡洋艦・利根は砲口を姫に突きつけて言った。「吾輩が鎮守府第一艦隊旗艦、利根である。深海棲艦よ、カスガダマは陥とした。覚悟せい」正面を向いた砲塔。勝ち誇った敵の笑み。燃え上がる本拠地。「キ、サ、マァァァ!」姫が吠え、利根に向かって突撃する。23
2013-09-26 22:27:25未だ残った砲が火を噴く。利根の周りに幾つもの砲弾が着弾するが、彼女は動じない。怒りと負傷でロクに照準の定まらない砲など、怯える必要はない。更に姫が近づいてくる。水しぶきが顔にかかる。あともう少し。動かない利根を狙おうとした軽巡の一隻が、島風の魚雷を受け沈んだ。24
2013-09-26 22:30:51「その艦、貰ったぁ!」20.3cm連装砲、斉射。装甲空母姫の艤装、肩、腕、そして胴体。全ての弾丸は目標に命中し、炸裂した。ガクン、と姫の体から力が抜ける。一歩、赤い裸足が水面を踏む。二歩、赤い裸足が海に沈む。ばしゃん、とあっけない音を立てて姫は海に倒れ、海に沈んでいった。25
2013-09-26 22:35:36「それでは戦争の終結を祝って!」「かんぱーい!」「なのです!」「プロージット!」数日後、彼女たちは誰一人欠けること無くリランカ島に帰ってきた。今日は泊地の庭で戦勝パーティーである。空から降り注ぐクッキーは無い。目が眩むほどの青空が、頭上に広がっていた。27
2013-09-26 22:41:12クッキー戦争は利根の砲撃によるポータルの破壊、それに伴うクッキーのオーバーフローによるクッキー界側の自滅により終わった。毎秒兆を超えるクッキーを降らせていたポータルが破壊され、全てのクッキーが送り主に逆流したのだ。28
2013-09-26 22:44:38大使がクッキー界に和平交渉のため時空を超えたが、もはや地球という星は存在せず、小麦粉とチョコレートの塊があっただけだという。そこにいた人々が、工場が、おばあちゃんがどうなったかは分からない。未だ巨大化を続けるクッキー星の詳細など、誰も知りたくないだろう。29
2013-09-26 22:48:45今日は酒保と提督の口座の一つが解放され、更に西方海域の物品が並び、極めて豪華なパーティーになった。特に人気なのは本物のインドカレーで、ナンにつけて食べるカレーを艦娘たちは物珍しがって次々とお代わりしていた。金剛が憤慨していたが、気にする者はいない。30
2013-09-26 22:55:07「のう、龍田よ。提督はどこに行った?」罰ゲームでメイド服姿にされた天龍をつついて遊ぶ龍田に声をかけたのは、この戦いの立役者、利根だった。もう一人の立役者である提督を探していた。別に立役者じゃなくても祭りと聞けば飛んでくる人間なのだが、今日はどこにも見当たらない。31
2013-09-26 22:59:46「ああ、提督なら、医務室で休んでますよ~?」「医務室?」「はい。やっぱり6隻同時ドリフトは大変だったみたいです~。腕が、腕がって騒いでましたよ~」「あの馬鹿者め。危なくなったらすぐにシステムを切れと言ったのに……祝杯が寂しくなるではないか」32
2013-09-26 23:03:13生きて帰ってきたとはいえ、夜戦を経ての中破3大破1、しかも陸奥は第三砲塔と右腕を吹き飛ばすという大損害でもあった。幸い、高速修復材の在庫はあったので艦娘たちはすぐに治ったが、生身の人間である提督はショックから回復するまでまだまだ時間はかかるだろう。33
2013-09-26 23:07:36「……まったく、しょうのない奴じゃのう」それだけの痛みを抱えて、逃げずに指揮を執っていた提督に、利根は心の中で感謝した。実際には赤軍よろしく椅子に縛り付けられて逃げられなかったのだが、それは彼女の知るところではない。「後で一等旨い酒を持って、見舞いにいってやるとしようか」34
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