あるサッカークラブはボロボロだった 選手は抜け落ち、順位は見る見る下がっていった 実際のところ問題のチームは、国内ではそこそこ 歴史と伝統に彩られたクラブだったのだ
2015-04-19 09:14:40けれども地元の人々は、その弱体化に伴い 次第に愛着を失っていった チームは次第に地域の「恥」と化していった 「消えてなくなれよ」 郷土愛の強い中年管理職は酒場で喚いた
2015-04-19 09:15:10「あんなものが存在すると我が県自体が愚か者のピエロに見える 毎日テレビや新聞でさらし者にされるのは見るに耐えない。 消えてなくなれよ。そして二度とリーグにその間抜けな面をさらすな」
2015-04-19 09:15:48そのチームの監督は人のよさげな好々爺の顔をしていた そして娘を案ずる父親そのものの顔で 毎節毎節悲しげにチームを見つめていた
2015-04-19 09:17:17「消えてなくなれよ」 スタンドから中年管理職の罵声がとんだ 「目障りだから消えてなくなれよ」 その日チームはホームで9-0の惨敗を喫し 試合後監督は辞任を表明した
2015-04-19 09:17:40サッカー少年に父親はいなかった だから彼にとってその監督は父親代わりだったのだ 監督はもともと垂れ気味だった眉をさらにすまなさそうにへし曲げながら 氷雨に打たれた柴犬の如く頼りなさげにぶるぶると振るえ 何度も何度も謝罪の言葉を紡いだ
2015-04-19 09:18:30子供はみな強いものにあこがれ 勝ち続けられる主人公に己を投影し だから目の前の惨めな弱者は、自分達の夢や希望をかきくらす汚物でしかなかったのだ
2015-04-19 09:19:23サッカー少年はチーム事情を一人高らかに吹聴した つとめて明るく吹聴した 彼は生まれてこのかた何にも恵まれず 郷土チームに自身を仮託する方法でしか 集団内で自己主張する術を持ち得なかった
2015-04-19 09:21:07すべてのクラスメイトが彼を避け、休み時間には不良グループに袋叩きにされた 自らの行為が自身を苦境に陥れることをサッカー少年は自覚していた
2015-04-19 09:22:06それでなお笑顔で続けることが 逆に彼の生に活路を与えるのかもしれないと その「あえて」にすがるうちに退路も絶たれ 彼は殉教を演じる道化に変貌した
2015-04-19 09:22:47ある日少年は同リーグ最強チームの監督のもとへ 自分が応援するチームを救ってくださいと手紙を送った 監督と一緒に 最強チームのエースストライカーを引き連れて 地元チームに入団し 地元チームを救ってくださいと懇願した
2015-04-19 09:25:47一週間後そのエピソードは同国メディアでとんだ愚かな負け犬の小僧がいるとの笑い話として伝播され サッカー少年が応援するチームは成す術もなく下位のリーグに落ちた 翌日サッカー少年は「モササウルス」のフィギュアを抱えて自殺した
2015-04-19 09:28:24