ケインズ 苦労しらずのエリートから偉大な経済学者へ 追加あり

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イヌノオー@ @inunohibi

中公クラシックスのケインズ「貨幣改革論 若き日の信条」。ジョン・メイナード・ケインズの主著といえば、言わずと知れた「雇用・利子および貨幣についての一般理論」だが、これは経済学者に向けて書いた理論書なので、難解である。

2015-04-23 06:52:22
イヌノオー@ @inunohibi

一方「貨幣改革論」のほうは、政治家と一般向けに書いた文章を集めているので読みやすい。話題は主にその時々の経済問題なので、現在の経済を考える上であまり役に立たないように見えるかもしれない。

2015-04-23 06:52:54
イヌノオー@ @inunohibi

しかし彼は経済学の体系的な理論書より、政策提言のパンフレットのほうがやるべき仕事だ、というこだわりがあった。

2015-04-23 06:53:12
イヌノオー@ @inunohibi

「経済学の体系書には大きな教育上の価値があるかもしれない。(・・・)けれども経済的事実の一時的な性格や、それだけ切り離された場合の経済学原理の無内容さなどを考えると、経済科学の進歩と日常の有用性とは、

2015-04-23 06:53:43
イヌノオー@ @inunohibi

先駆者や革新者が体系書を避けてパンフレットやモノグラフのほうを選ぶことを要求するのではないだろうか」と述べている。

2015-04-23 06:54:04
イヌノオー@ @inunohibi

彼の前半生は、非常に恵まれていた。ケインズはイギリス、ケンブリッジの「どっしりした広大なヴィクトリア王朝風の家で生まれた」。父はケンブリッジ大学で経済学と倫理学を教えており、後にケンブリッジ市長にもなる。母は文筆家だった。

2015-04-23 06:55:20
イヌノオー@ @inunohibi

パブリック・スクールの名門イートン・スクールを優秀な成績で卒業し、イギリス最高峰の大学ケンブリッジ大学に進む。卒業後に高級官僚として就職したインド省は、1年半でやめており、「一頭の血統正しい牡牛をボンベイへ船積みさせたこと」以外に成功した仕事はなかったと述べている。

2015-04-23 06:55:50
イヌノオー@ @inunohibi

第一次世界大戦後のヴェルサイユ講和会議で、イギリス大蔵省の代表として出席するが、ドイツへの過酷で過大な賠償金に反対する自分の主張が全く通らなかったため、代表を辞任したことは有名である。その後も経済問題への提言が採用されることはなかった。

2015-04-23 06:56:35
イヌノオー@ @inunohibi

彼が「一般理論」を書いたのはこのような政治的挫折を味わった後であり、孔子が現実の政治で理想を実現できなかったため、晩年を弟子の教育と執筆活動に注いだのと似たような経緯をたどったのである。

2015-04-23 06:56:58
イヌノオー@ @inunohibi

彼は学生生活の中で、旧来の非合理な慣習や伝統を否定し、合理性に基礎を置いた思想に染まっていた。しかしやがて、「我々は人間の性格というものを、完全に誤解していた」と話すようになった。

2015-04-23 06:57:27
イヌノオー@ @inunohibi

人間は完全に合理的になることはなく、ある程度非合理で、経済というものも不確実性に満ちている(ケインズは一度、株式投資で破産しかけている)。政治家や経済学者たちも、知らず知らずのうちに過去の思想の「奴隷」だったりする。

2015-04-23 06:58:18
イヌノオー@ @inunohibi

だから人間が合理的になるのではなく、「非合理な人間をいかにコントロールするか」が彼の思想的課題になった。私が見るに、苦労しらずのエリートだったケインズが現実の壁にぶつかることによって、人間の非合理性も考慮に入れた偉大な経済学者に成長したのではないかと思う。

2015-04-23 06:58:41

追記

イヌノオー@ @inunohibi

「貨幣改革論 若き日の信条」に収録されている「繁栄への道」は、「雇用・利子および貨幣についての一般理論」に先駆けて、有名な公共投資の「乗数効果」が説かれている。

2015-04-23 11:45:27
イヌノオー@ @inunohibi

ざっくりいうと、公共投資や公共事業で数人の仕事を生み出せば、かれらは増えた所得を消費に回すため、さらに仕事が生み出される、という理論である。

2015-04-23 11:46:02
イヌノオー@ @inunohibi

「そんなにうまくいくの?」と思われるだろうし、ケインズも環境によって仮定が変わることを認めている。重要なのは、増税についても「負の乗数効果」が働くという指摘だ。不況下で増税すれば、増税された分所得が減少するだけでなく、「使わずに取っておくお金」も確実に増える。

2015-04-23 11:46:24
イヌノオー@ @inunohibi

それが売り上げの低下、失業を招き、回りまわって税収の低下をもたらすであろう。不況下における増税の愚を、ケインズは、損失が出たので価格の引き上げを実施する業者にたとえる。冷静に考えれば、そうすればますます売れなくなるだけだ。しかし税金論議では、この手の奇妙な計算がまかり通っている。

2015-04-23 11:46:45
イヌノオー@ @inunohibi

増税論者は、何より「増税しか道はないんだ」というイデオロギーに固く忠誠を誓っている。

2015-04-23 11:48:09
イヌノオー@ @inunohibi

「しかしいろいろの創意に疑いを持ち、それらの効用を本能的に疑ってかかる人が多くいる。抜け出す道は、重労働、忍耐、節約、経営法法の改善、より注意深い銀行業、そして、とりわけ創意を回避することの中にしか見出せないと信じている人々が、依然としているのである」(292ページ)

2015-04-23 11:48:27
イヌノオー@ @inunohibi

それはあたかも向かい合わせの自動車が進めないのを、もっと真面目な運転手を雇い、新しいエンジンを取り付け、道幅を広くして解決するようなものである。しかし、相手の運転手と一緒にお互いが、同時に少し左側に寄るという創意を働かせるだけで解決できる、とケインズは言う。

2015-04-23 11:49:13