短髪の女の子が、落ち込んでいた。 学校で何か嫌なことがあったのだろうと、長髪の女の子は推測した。 「ねえねえ、おかーさんがね、冷蔵庫にケーキあるよって!言ってた!」 その手を引く。 短髪の女の子は、何も答えない。 ぐいぐい。ぐいぐい。 長髪の女の子は、ずんずん歩く。
2015-04-24 15:52:32「ほら、ケーキ!」 ラップをはがしながら、長髪の女の子が笑う。 「苺ショートとチョコがあるよ。どっちがいい?」 「……いちご」 じゃあ私がチョコね、とフォークをふたつ、握りしめ。 「いっしょに食べよっ」 「……うん」
2015-04-24 15:56:42「……美味しくない?」 長髪の女の子が首を傾げる。 「ううん、美味しいよ」 答える、短髪の女の子。 「そう? さっきからずっと怖い顔してるんだもん。ほら、笑って笑って!」 「…………」 「楽しくないときでもねえ、笑えば楽しくなってくるらしいよ。ほら、わっはっはー!」
2015-04-24 15:59:38「わっはっは!」 「…………」 「わっはっはー!」 「…………」 「……笑ってよー。どうして、そんなに悲しそうな顔するの?」 短髪の女の子は口を閉ざしている。 「誰かに、酷いこと言われた? 何かされた? 言ってよ、そんなやつ、私がみんなぶっ飛ばしてやるんだから!」
2015-04-24 16:03:35「父親がいないって、からかわれた」 ぽつりと、短髪の女の子が言う。 今にも泣きだしそうな、声だった。 「……お父さんはいないけど、でもお母さんはいるよ?」 長髪の女の子が、悲しそうに微笑む。 「それに、私もいる。そんな顔しないで、何も悪いことしてないんだから。ね?」
2015-04-24 16:08:23「でも、お父さん、欲しい……」 ぼろぼろと涙を零す短髪の女の子に、長髪の女の子は戸惑う。 どうして、私や、お母さんじゃ駄目なんだろう。 長髪の女の子は、頬を引きつらせる。 慰める方法など、これしか知らなかった。 「笑って。……笑ってよ、お姉ちゃん」 絞り出すように、ただ、笑う。
2015-04-24 16:27:34