シンギング・イン・ザ・レイン♯4

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ひたちえぼ @EVO_Hitachi

シンギング・イン・ザ・レイン ♯4

2015-04-26 15:19:52
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

〈「日刊コレワ」の三面記事〉 1

2015-04-26 15:24:22
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

【神隠しか? 夜のネオサイタマで失踪事件】ブッダからの加護を受けた市民に降りかかった痛ましい事件! 某ブディスト・ヘルス・ワーカーとその子供を乗せたタクシーが炎上し、運転手が死亡、乗っていた親子のうち子供は行方不明となっている。 2

2015-04-26 15:25:53
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

親子はこのほど様々なメディアで取り上げられ、睦まじい姿は多くの人も知るところだ。なんたる悲劇! こんな痛ましい事態を引き起こさぬ為には政権交代だ。 3

2015-04-26 15:27:54
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

霧雨がけぶるハイウェイを、一台のタクシーが走る。『空気にアリガトー いたわりこれがイチバンー』ポップソングが流れる中、乗客ふたりは静かだった。ウスイとその母である。ウスイは母の隣で、話をする機会をうかがっている。 5

2015-04-26 15:32:00
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ザクロの発破から二週間経ったが、結局母と話はできていない。大事な話をしようとすると、母はいつもはぐらかす。仕方なく、ウスイはいつものようにぼんやり笑ってやり過ごすことにした。諦めるのは慣れている。それでも、ウスイには気がかりな事があった。 6

2015-04-26 15:36:15
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

学校だ。通わなければ単位が貰えずに留年してしまう。それに、母と一緒にいるより学校の方が楽な気がしていた。それを母に悟られないように告げるのに、ウスイは少々の勇気を要した。「おかあさん」ウスイは顔を上げた。「相談があるの」母は続きを促すように頷く。 7

2015-04-26 15:39:56
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「私、学校に行きたいんだけど、だめかな」恐る恐る提案したものの、母はそれをあっさりと了承した。「そうね。明日は学校へ行きなさい」しかし、母から聞いた「明日の予定」に、ウスイは数秒言葉を失った。「お母さん、それ……本当?」 8

2015-04-26 15:43:10
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

潜水服に悪戯したクラスメイトと和解する様をカメラに収める。母はこともなげに頷いた。「無理だよ」「学校へ連絡した後、お相手の親御さんから申し出がありました」なんたるメディアの影響力を鑑みた双方の親たちによる欺瞞ショー!ウスイは隣に座るのが、不気味な生き物に思えてきた。 9

2015-04-26 15:47:20
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

不如帰のネオン看板が窓の外を流れる。ウスイは意を決した。「私、いやだ」沈黙。カーラジオの音がうるさい。母が口を開く。「……ふざけないで」「ふざけてない」ウスイは母の方へ首を向ける。「お母さん、学校で私が何をされたか知ってて、言ってるの?」 10

2015-04-26 15:50:49
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

母はハイウェイを流れるダルマボンボリの軌跡を眺めるだけだった。「お母さん!」「……もう、カブキチョやニチョームに入り浸るのはよしなさい。印象が良くないでしょう」「知ってたの」しかし、今そんな話はしていない。ウスイが答えるより先に、母が続ける。 11

2015-04-26 15:54:04
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「あんなもの、もう直す必要ないでしょう?」 12

2015-04-26 15:55:58
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ウスイは、愕然と母のようなものを見た。古く、型落ちの潜水服は、あんなものでも、ウスイを守っていたのに。ウスイは目の前が暗くなるような感覚に襲われた。そして次の瞬間、ウスイの見る風景が一変した。土砂降りの、闇の地平。ウスイはかつてのように潜水服姿で、そこに立っていた。 13

2015-04-26 15:57:10
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

『分かったろう? 奴等はそなたをなんとも思っておらぬぞ』どこからか、聞き覚えのある少女の声。『ドーモ、ウスイ=サン』杯をひっくり返したような笠をかぶり、笠のふちから垂らした薄布で顔を隠している。「ドーモ」ウスイもオジギを返す。 14

2015-04-26 16:02:09
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ウスイは彼女を知っていた。それを今思い出した。ヨタモノに襲われた時、彼女は生まれた。そして、ウスイの中に溶けて消えたのだ。『思い出したかえ? あの女たちがしてきたことを』少女は、笠の下でクフフ、と笑った。 15

2015-04-26 16:05:46
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

少女の声は雨の中でも不思議とよく通る。『妾は忘れぬぞ。奴らの行った非道を。全ての悔しさを。怒りを』少女がマイめいて片手を差し上げる。『そなたにも、今ひとたび見せてくれようぞ』潜水服のフェイスカバーに、ソーマト・リコールめいて過去の光景が流れる。 16

2015-04-26 16:10:25
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ネオサイタマに来た日の夜、目覚めたら病院でアドレナリン注射と酸素吸入を受けていた。キョートには帰れない。残念ながら、ウスイの家に、家族が分散して暮らせる余裕はなかった。歓迎されぬ街で、マンションから出ない生活が始まった。 17

2015-04-26 16:12:31
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

恐る恐る父の買ってきた潜水服を装着し、やっと外に出られた。待っていたのはヘルメット越しのくすんだ色彩と、新しい玩具を見つけた顔のクラスメイトだった。父が見せた笑顔を思い出し、ウスイは学校へ通い続けた。両親には黙っていた。 18

2015-04-26 16:14:17
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

父の葬儀だった。母から参列を止められたウスイは、自分の部屋で潜水服を眺めていた。こういう日のために着るべきではなかったのかと思ったが、悲しむ母にこれ以上辛い思いをさせたくなかった。キョートに居た頃の家族写真を見て、少し泣いた。 19

2015-04-26 16:17:11
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

アークボンズに勧められて母が書いたウスイの闘病本は、思いの外売れた。講演会のオファーがたくさん舞い込んだ。母は帰ってこない代わりに、生活費のトークンを置いていった。たいして使い道のないトークンは貯まっていった。 20

2015-04-26 16:20:07
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

母にはいつも、テレビで会っていた。「我が子の病はブッダが遣わせた試練なのです。試練に迷った我が子を導くことが、私の終生の幸福であり--」用事がなくても、テンクサや絵馴染に通うようになった。父との思い出を大切に繕ってくれ、ウスイの淋しさを埋めてくれたのは、彼らだった。 21

2015-04-26 16:22:37
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ヨタモノに襲われたウスイの前に、ニンジャを名乗る女が現れた。「妾の力を振るうがいい、娘よ」そして女の言うがまま、ヨタモノに怒りをぶつけた。ヨタモノは乾麺めいて簡単に折れた。ウスイはニンジャと己の怒りを恐れ、それを押し込めた。 23

2015-04-26 16:25:41
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

『よくもまあ、耐えに耐えたものよの』少女は低い声で囁く。怒りが滲んでいる。「だって、私が我慢すれば収まったことだから」『その結果がこれだ! 誰が妾たちを顧みた! 答えろ!』ウスイは答えられなかった。少女は嘲笑した。 24

2015-04-26 16:27:56