中原中也賞候補、大江麻衣さんの詩集『道の絵』より「夜の水」

中原中也賞選考委員の高橋源一郎氏が、感銘を受けた作品として、大江麻衣さんの「夜の水」を紹介している。
4
高橋源一郎 @takagengen

さっき、3週間前の中原中也賞のことを書いてて、ツイートし忘れていたことを思い出した。中也賞を受賞したのは高校3年の文月悠光さんの『適切な世界の適切ならざる私』だったが、決まった後、選考委員の荒川洋治さんと「文月さんがいなかったら、大江麻衣さんだったかもね」と話したのだ。

2010-03-06 02:51:02
高橋源一郎 @takagengen

文月さんの『適切な世界の適切ならざる私』は、綿矢りささんが詩を書いていたら、こうだったかもと思わせるけど、大江麻衣さんは川上未映子さんや津村記久子さんを彷彿とさせる。本邦初のガールズトーク詩(?)だったかも。惜しいのは、私家版なので、本屋でも手に入りにくいこと。

2010-03-06 02:55:04
高橋源一郎 @takagengen

詩集のタイトルは『道の絵』(地味!)。ほんとにいい詩が多いけど、中でも「夜の水」は、ここ数年読んだ詩の中で、№1の面白さだと思う。というわけで、長い詩だけど、全文、呟いて(引用して)みる価値があるこの詩をひとつ。んじゃ。

2010-03-06 02:58:22
高橋源一郎 @takagengen

「花に感動できません。乳首舐められても感動できません。どちらも自分は困らないけど、他人が困る。わたしは、おんなのひととして、色んなものが欠けているのだと、おもわれるのだけが困る。 最近の女子高生はふとい脚にも痣みたいな唇のあとをつける、」

2010-03-06 03:04:46
高橋源一郎 @takagengen

「それが短い制服のスカートの裾から見えると吐きそうになる。男子の唇の痕は汚い。男はなぜこの女子の、今まで他の男が触れていないところを探さなかったのだろう、こんな太い脚の、ほんのちょっとに、汚い痕を、蚊のように、他の男が吸っただろう場所の上に、」

2010-03-06 03:06:56
高橋源一郎 @takagengen

「情けない、他のものが触れていない場所に興味がないなんて、全てに唇を触れようとすればこの女子の体はもう全部赤褐色になって本当に醜いのだけれども、そんな姿だったらわたしは感動して話しかけたい。いやあもう本当醜いけどなんて素晴らしいこと!だけどまあ男子女子はそんなんで満足する」

2010-03-06 03:10:01
高橋源一郎 @takagengen

「のだった。そんなものでそんなもので、だから恋愛はだめだ、昭和以降に恋愛はない、街はいつでもばかみたいにセックスにしかみえない男子女子が連れ立って歩く、みんな死なないといけない。 そんな今の世の中でも海鼠はすてきだ、ただ、砂の上でじっとしていて、手で持つだけなら、」

2010-03-06 03:12:09
高橋源一郎 @takagengen

「それでもじってしている。感動はしない。神様、アダムは土からうまれた、土とは砂のことで、まずは性器から作ったのでしょう。粘土で作りやすいかたちをしているものね、てきとうに丸めたり伸ばしたり、そこから発生したのでしょうね、人間は。なので、海鼠はほんとうのほんとうに、」

2010-03-06 03:14:28
高橋源一郎 @takagengen

「最初の生きものなのかもしれませんね。『そうだね、海鼠は手で握ってみて、振るとだんだん硬くなってくるよ、中から白いのがびゅっと出てくるから、ね、海鼠。形質と質量がね。あんたさ、海鼠ばっかり触ってないで、自分が乳首で感じられないことについて、もっと真剣に悩んだほうがいいんじゃない

2010-03-06 03:16:23
高橋源一郎 @takagengen

「『かな。ただでさえ汚いんだから』 君の考えからすれば、海鼠なんか人間の出来損ないだ(といって私の胸をさわる)、わたしはおんなだから、海鼠を料理せずにそのまま口に入れたり、さわったりしたいと思うのは、当たり前だということ。おんなも、たどっていけば海鼠から生まれた。」

2010-03-06 03:18:35
高橋源一郎 @takagengen

「人間が粘土に戻る時、人間は砂に還れても海鼠にはもどれない。海鼠はただ海鼠としてじっとしていて、振られることもないから硬くなることもない、ただ何にもならずにずっと、海鼠だけがみたいな、そんなことをしていても、置いていかれないような、生きていられるような、感動はせず、ただじっと、」

2010-03-06 03:20:42
高橋源一郎 @takagengen

「海鼠を、みつめる。」 (胸と)腰以外を好きになってくれる男でもいたらいいな、だいたいがみんなそれを必死でこねる、発達しない。女子はひとりの夜いつも自分で自分をおしまいにする、自分でこねているとこの奇妙な形の性器一帯は粘土みたいに思えてくる必死でこねている、いやになる、作業。」

2010-03-06 03:22:59
高橋源一郎 @takagengen

「粘土ややわらかくするには水がいる。女子の水は体内から外へそっと出る、 夜に。」

2010-03-06 03:26:02
高橋源一郎 @takagengen

以上! やっぱりいい詩だなあ。「女の子」じゃなく「女子(じょし)」が、これだけはっきりと、詩の形になったのは史上初だと思う。大江麻衣、おそるべし。

2010-03-06 03:29:49