指定された場所に行けばまだ待ち合わせの時間には15分も早いというのに既に男の姿が見えた。「…、」やっぱり行くべきじゃない気もする。二人きりで船の上なんて場違いだもの。何を話せばいいのかもわからない。慣れないことはするべきじゃない。今からでも予定を変えて街に戻ってしまえばいい。
2015-02-19 23:51:09@applex002 「…へぇ♡」視線をあげた先に見えた少女の姿にほっと息を吐くと笑みを浮かべて早足に駆け寄る。いつもの白い、お姫さまのような服から一変して真っ黒なマーメイドシルエットのドレス姿の少女は幼いながらに女性の美しさを併せ持った酷く危うい妖艶さを放っていた。
2015-02-19 23:57:13@applex004 遠目から男と視線が合ってしまうといよいよどうしていいものかわからずに曖昧に微笑みを返した。駆け寄ってくる男になにを言っていいものかと悩むものの決して態度には出さないように細心の注意を払ってゆっくりと自身も男の元へと歩を進める。
2015-02-20 00:01:16@applex004 髪型は変じゃないだろうか。服装はちゃんと似合っている?ぐるぐると巡るいろんな不安ごとを他所に、急に足を止めた相手に不思議そうに首を傾げた。「な、に?どうしたの?」
2015-02-20 00:09:45@applex002 「…あんまりキレイだかラうっかり落としちゃっタ。ボクのハート」トントンと胸を叩きながら困ったように笑う。「キミが拾っテくれル、シャオ?」
2015-02-20 00:12:50@applex004 「……、ぷっ」なにを言い出すのかと思えば、臭すぎて突っ込む気も起こらない歯の浮いたセリフに思わず堪えきれずに吹き出してしまった。「あはは、なによそれ。ヒールでしゃがむのは大変なの。自分で拾ってくださる?」
2015-02-20 00:16:50@applex002 「エー、それじゃあボク今日中にあと何回落とすコトになるんダろう。キミに持ってテ、って言おうと思ったノに」態とらしく頬を膨らませるも声色は楽しそうだ。固くなっていた少女が笑ってくれたのだからそれだけで充分だった。
2015-02-20 00:23:23『それじゃ行こっカ。お手を拝借だヨ、レディ』人好きの良い笑みはいつものままにどこか改まった様子で男は手を差し出した。男の軽いおふざけの所為ですっかり緊張を解された少女は見惚れるような美しい動作でその手に腕を絡める。
2015-05-13 22:47:07「今日はよろしくお願いしますわ」社交界で何度もやったように、ほんの少し瞼を細めて上品に微笑む。そこまでは良かったものの、どうもこの人が相手では面映ゆい。うっかりくすくすと余計に笑ったのだけど男はその方が楽しそうにするのだからもうどうでも良いような気がした。
2015-05-13 22:56:42なにをそんなに固くなっていたんだろうか。まぁ、元々はこの人が言い残した意味深なセリフが原因なのだけど。この人が誘ってくれたから来ても良いと思ったのだ。来てみたいと思ったのだ。いつも笑みを絶やさなくて、イタズラな子供のようで、ロルフさまとは全然違うこの人だから
2015-05-13 23:02:35セレブでも手に入れにくい豪華客船のチケットと言うだけあって船の中はどこもかしこも細やかな細工が施された装飾に彩られて煌びやかな様子だった。けれど落ち着いた雰囲気を失わないのは客層が一重に上流階級と呼ばれる人に絞られているからだろう。
2015-05-13 23:08:54「わー、ボクこんな豪華なヨット初めテ」隣にだけ聞こえる位の小声でそんなことを呟くのだから細やかな感動も何処へやらである。「ヨットじゃないわ。流石に船員さんに失礼よ」「なんでも良いヨ、氷山に当たって沈まないならネ」縁起でもない、ウィンクを飛ばして言うようなジョークじゃない。
2015-05-13 23:12:52内観に見惚れるのも程々に予約の席へと足を向ける途中、「あ、」反射的に溢れた声は小さかったけれど、その相手が気付くのには充分だったようだ。少し離れたところで壮年の紳士と会話をしていた女性がこちらを振り向くと、わたしの隣を見てぱっと笑みを浮かべた。
2015-05-13 23:22:49『ヴィゴ!』お相手に軽くお辞儀をしてこちらに向かってきた女性には見覚えがあった。確か、いつかの日に広場でアイスを売っていた女性である。そのときでさえ庶民的な格好だったものの華やかで美しい女性だとは思った。それが今日は一段と粧し込んでいるのだから、見違えるほどに美しく見える。
2015-05-13 23:28:29『アイリーン?アハ、奇遇だネ』そっと隣を見上げれば、男は一度驚いたように目を見開いてにこりと挨拶を返した。驚いたように、ではなく実際驚いているのだろう。こんなところで会うとは思ってもみない相手だったようだ。名前を呼ばれた呼ばれた女性はあからさまに嬉しそうに頬を緩めた。
2015-05-13 23:44:19『一昨日はどうもありがとうね、ヴィゴ。あら…ふふ、今日はまたいつかの小さなお姫さまとデートだったのかしら?お邪魔しちゃったわね』くすくすと愛想よく笑っているもののトゲがあるように感じるのは気の所為ではないだろう。前回も感じたけど、この女性はヴィゴが好きなのだ。
2015-05-13 23:53:21隣にいるべきは自分だと思っているのだろう。そしてそれはわたしも同意見だ。年が近そうで、仲も良さげな二人は背伸びをした小さな女の子よりはずっと自然だろう。だからと言って別に今更である。
2015-05-13 23:56:19一人のときなら叩き売られた喧嘩は片っ端から買い占める主義だけど一緒にいるヴィゴにこんな場所で恥をかかせるつもりはない。前のときのように当たり障りなく相手を立ててあげればそれで済む話なのだから。
2015-05-13 23:56:29そう思って口を開こうとした時だった。『ウン、邪魔。すっごく邪魔。前にも言ったよネ、シャオはボクの大切なヒトだヨ』「っ、わ」突然腕を解かれると、代わりに肩を抱き寄せられた。『大切なヒトとの時間、邪魔しないデ』
2015-05-14 00:08:07『え?あ…そんなつもりじゃ……』『じゃあどんなつもり?』『わたしはただ挨拶をと思って……』『それじゃもう用は済んだよネ。行こっか』こちらに視線を向けたヴィゴは優しく微笑んでいたけれど肩を抱き寄せる腕は有無を言わせない力を感じる。『あの、』『またネ♡アイリーン』
2015-05-14 00:18:00なにかを言いかけた相手の言葉を遮るように手を振るともう振り向きもしないでヴィゴは歩き始めた。そのままの流れでなんとなく、短い沈黙を保ったまま食器が用意された席に着いた。
2015-05-14 00:20:45『あのネ、一昨日は彼女が前から行きたがっテた社交界に招待してあげたんダ。いつも広場で一生懸命働いてるから、華やかなパーティに参加してみたいってお願い聞いてあげたくテ。だからどうっテ訳でもないんだケド……一応』
2015-05-14 00:26:44