チェリーおーくらの初めて日記 ーすずりさん篇ー

hikari∞短めのお話 @love_suzume

1. 「おーくらおーくら！ちょー見て見て見て！！」 おんなじクラスのヤスが背中をバンバン叩くから、カフェオレ吹きそうんなった。 見ると、もうすでに二階の渡り廊下から落っこちそうなくらい下を眺めて手を振ってる。

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2. ヤスが今、絶賛猛アピールしてるとなりのクラスの女の子が下にいるらしい。 「ばいばーい！また明日！あ、来週か！」 絶対脈なしやって分かってんのにそのテンション、すごいよなぁ...。 「はーあー、めっちゃかわいかったぁ」 ヤスは壁に背中を付けたまま、ズルズル座り込む。

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3. 「なー、あの子彼氏おるやんか。なんでそんながんばれんの？」 「お前には分からんやろ。産まれたときからモテ街道のメインストリート歩いてるお前には」 まあ...。 そんな街道があるなら、俺は間違いなくそこを歩いてる。

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4. 初めて女の子に告白されたのは、幼稚園のはとぽっぽ組のお誕生会の日。 その日を皮切りに、俺のモテまくり人生が幕を開けた。 なーんて。 でも、人間五歳にもなれば自分の顔面がどの程度のレベルなんか分かるやんか。

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5. 目を見てにこーっとするだけで、女の子はみーんな俺のことを好きになってくれたし、小学校の卒業式には「一緒に写真撮って」って子が他の学校からも押し寄せた。 中学の運動会じゃあ、俺のハチマキを巡って争奪戦が起きて、苦肉の策でハチマキを16等分にしたっけなぁ...。

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6. でも、そんなかから彼女つくるって感じでもなくって。 だってみんなのたぁくんやもん。 ってのは冗談やけど。 モテてんのは確かに気分いいけど、彼女つくるより男友達とつるんでる方が楽しいし。 それに、初めて付き合う子は自分からちゃんと好きになった子がええなって。

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7. 真面目でしょ。 なんて余裕ぶっこいてられたのも中学生まで。 高校入ってから俺を悩ましてんのは...。 ヤりたい。 ただただエロいことしたい。 もうそんだけ。 最近鉛筆一本でもエロい妄想できるくらいになってきてんもん。

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8. 相手だったら選び放題なはずの俺が、近づいてくる女の子たちに迂闊に手ぇ出されへんのには理由がある。 「あーあ。お前はえぇなぁー。えっちなお姉さんと今日は何回すんの？」 「そんなん...向こう次第やろ」 うひょーゼツリン！ヘンタイ！ ......。

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9. なぜかわからん。 気づいたときには、俺は24歳のOＬと付き合ってることんなってて。 なんかめっちゃ経験豊富で女慣れしてるヤツやってみんなに思われてんの。 そりゃあ入学式の日にファンクラブが結成されたし、去年の文化祭じゃ一年の分際でミスターに選ばれたけど...。

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10. 今さら違うって言われへんし、彼女持ちってことにしといた方がいろいろめんどくさくないってことにも気づいて、ウソにウソを重ね...今に至る。 ほんまは童貞やし、女の子と付き合ったことないし、手ぇ握ったことすらないなんて...。 誰にも言われへん。 絶対。

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11. そんな悩める俺の悩ましい高校生活は、傍目にはそんなことわからんまま順調に続いてた。 ５月のある日。 朝の電車が人身事故で遅れてて、めっちゃ混んでて。 脂ぎったおっさんの頭を避けてなんとか体の向きを変えると、ふわっと甘い香りがした。

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12. 「...ご、ごめんなさい...」 ちっちゃい声が聞こえて、電車がガタッて揺れて...。 胸の中に女の子がいた。 あれ...。 わわ...この子...。 もしかして...。 めっちゃかわいい...？ ちっこくて色が白くて、てゆーか全体的になんか色素薄い感じ？

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13. そんでこの制服は...。 となりの駅の女子校のやつやんな？ 1年生かなぁ...。 制服がぴしっと新しい感じやし、ネクタイきっちり締めてるし。 観察はそこまで。 次の駅でずいずい押されて...。 ドアにおもっきし押し付けられる。

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14. 「...すみません...」 女の子は、もう俺の胸にしがみついてるみたいで。 ............。 はわぁ...女の子とこんな密着したん生まれて初めてやわ...。 ...らっきー...。 って思ったのは一瞬で。

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15. だって...彼女の身体ががっつり俺の足の間に入ってて、柔らかいお腹のあたりがちょーど...。 当たる...。 あ...。 あれ...。 あ...これ、もしかして、ちょーっとヤバい、かも...？ 電車が揺れる度にいい感じのとこに柔らかい身体が擦れる。

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16. もう、あっという間に熱を帯びてくる。 うわうわうわ、どーしよ。 こんなとこでそうなったら、もう完全にチカンさんやんけ...。 電車がまた揺れて、ぎゅーって押し付けられて、とうとう完全に直立する俺の...。

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17. ヤバいヤバいヤバい...。 あかんて！俺！ 今朝、朝飯パスして抜いたばっかやし、もっと言うと昨日の夜も...。 とどまることを知らんな、16才のリビドーは！ って言うてる場合か！！

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18. そーっと見ると、女の子は俺の胸に頭を預けて、中吊りの方を向いてる。 気づいてない...わけないよな。 がっつりカッチンカチンになってもーてるし...。 ここで「この人チカンです！」 とか言われたら...。

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19. 次の駅で緊急停車して、現行犯として鉄道警察隊に連行されて補導されて、学校にもバレて退学になって、俺はニートになって親のすねをかじりながら親戚一族郎党の、いや、日本社会の厄介もんとして一生生きていくんや...。 マジか...。 どーする！？ どーなる！？ 俺っ！！

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20. ごそっと胸の上で頭が動いて、一瞬、目が合う。 彼女は耳を真っ赤にして、恥ずかしそうに目を伏せた。 はぁ...。 かわいい...。 ............。 いやいや、何を言うてんの俺。

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21. とにかく、早く！ 鎮めなければ！ そっから頭ん中で必死でだんご三兄弟歌いながら窓の外眺めたりして...。 その間も電車が揺れる度に絶妙な加減で擦られる。 あぁもう、だんご三兄弟がエロい歌に聞こえてきた...。 俺のアホ！ドすけべ！ヘンタイ！

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22. ぷしゅーって音がして、一気に人が流れて、彼女が慌てて俺から離れて...。 怯えた顔で降りてった。 はぁ...。 むっちゃかわいかったぁ...。 でも...。 絶対嫌われたよな...。 いや、それ以前の問題か。 あんなかわいい子、めったにお目にかかれへんのに。

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23. やっとの思いで教室にたどり着いて、窓際の自分の席に直行する。 「おーくらおーくら。俺、決めた」 おはようも言わずヤスが近寄ってきた。 「今月中に告白するわ」 いやいや...。 どー考えても完全なる負け戦やでそれ...。

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24. 「...勝率あんの？」 「んー、まぁ、五分やな」 ポジティブやなぁ...。 「万が一、フられたら...」 五分なのに万が一って、もう計算どないなっとんねん。 「お願い、しようと思う」

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25. お願い？ 何それ？ って聞こうとして。 ヤスの視線が窓ん外の部室棟に向いてんのを見て、思い出した。