浜風、初めの一歩

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次創作です。 今回は落ちぬい浜風初登場時のお話。(http://togetter.com/li/688187) 筆者もそういえばこういう話だったなあ、と懐かしみながら見ておりました。 お楽しみください。 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

新人の実力を見物するために演習場に集まっていたんだろう。そして大事な標的機を三機も破壊して、那珂教官にカミナリを落とされる自分の姿をはっきり見られてしまった。名前はまだ覚えられていないから誰かはわからないけれど、はっきり指をさして笑っていた艦娘もいた。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:42:30
竹村京 @kyou_takemura

思い切って磯風に相談しようか。しかし、着任早々大失敗したなんて愚痴を聞かされたら、日本から遠く離れた南方に行った彼女はどう思うだろう。むしろ愚痴を言いたいのは磯風の方じゃないか、と思って結局メールは出せなかった。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:45:27
竹村京 @kyou_takemura

既に夕食の時間も終わりに近づいていたが、くぅくぅ鳴るお腹をさすりながら布団にくるまっている浜風が部屋を出る事はなかった。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:47:11
竹村京 @kyou_takemura

翌々日、一通りの性能確認を終えた浜風は慣熟のため哨戒任務に出撃した。 編成は凄腕として名を馳せる球磨を旗艦に、不知火と浜風を含む軽量級の水雷戦隊である。秘書艦業務に時間を取られてあまり実戦には出ないという不知火が自ら出撃したのは、直接浜風の行動を確認するためだろう。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:50:13
竹村京 @kyou_takemura

哨戒海域に進出するまで何度も繰り返し陣形を組む訓練をした。その後数時間の哨戒を経て、帰途では対潜・対水上・対空戦闘の訓練を実施した。 球磨が旗艦を務めるだけに往復ともに非常に実戦的で実のある訓練だったが、それだけに浜風は痛いほど弱点をさらけ出す事になった。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:51:42
竹村京 @kyou_takemura

それは連携の遅れである。 連携ができないというわけではないが、どうしても僚艦の動きを見てからそれに合わせるので動きに少し遅れが生じる。戦闘訓練でも同じだ。目標の重複を避けるのは当然であるが、それにしても僚艦が狙うのを見てから他の目標を狙う。だから遅れる。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:54:47
竹村京 @kyou_takemura

つまり、僚艦と呼吸を合わせることが出来ていないのだ。 慣れ親しんだ第十七駆逐隊ではない、というのは言い訳にはならない。艦隊編成は状況に応じて時々刻々と変化するのが当たり前だからだ。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:57:01
竹村京 @kyou_takemura

「まあ組むのが初めてのやつらばかりだし、追い追い慣れていけばいいクマ」 球磨はそう言って慰めてくれたが、自分が足を引っ張っていたという事実は否定できない。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:58:19
竹村京 @kyou_takemura

人見知りで引っ込み思案な性格が、連携が命の艦娘には致命的な弱点だということは頭では理解していた。しかし、いつも第十七駆逐隊で磯風らと行動を共にしていたことでその弱点が表立って問題になる事はなかった。 一人になった途端、その弱点が浜風を苦しめていた。#落ちぬい二次

2015-05-27 16:59:59
竹村京 @kyou_takemura

不知火は同行した時はもちろん、しなかった時も報告書を基に容赦なく浜風の欠点を指摘してきた。少しはオブラートに包むという事をしてほしかったが、言っている事は正しいだけに言い返す事が出来ない。 それに不知火は秘書艦なのだから、提督に何と報告されるか想像するのも怖かった。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:03:55
竹村京 @kyou_takemura

――私、本当にみんなに甘えてたんだ…… 浜風は暴走しがちな三人のブレーキ役だったが、同時に三人は引っ込み思案な浜風のアクセル役でもあったのだ。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:05:50
竹村京 @kyou_takemura

浜風はその夜もまた、食堂には行かなかった。着任初日に標的機を壊し、三日目にはベテランの足を引っ張ったうえ秘書艦直々にダメ出しをされた。そんな自分が食堂に行ったら、きっと空気が悪くなると思ったからだ。いや、素直に言えば怖かった。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:06:56
竹村京 @kyou_takemura

だから、基地内の売店で買ったパンと牛乳でもそもそと夕食を済ませると、浴場が閉まるぎりぎりの時間を狙って入浴し、消灯を待たずさっさと寝てしまった。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:08:45
竹村京 @kyou_takemura

それ以降、浜風は朝かなり早く起き出しては走り込みなどの自主トレをし、売店で買ったパンで食事を済ませ、昼間は課された訓練や出撃を淡々とこなして、人の少ない時間を狙って入浴し、自室で夕食を済ませるという味気ない生活パターンが決まってしまった。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:10:26
竹村京 @kyou_takemura

さすがに数日もすると売店でパンを買うより基地の外のスーパーで買った方が安くあがるとわかり、非番の日に食品を大量に買い込むようになった。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:11:33
竹村京 @kyou_takemura

IH調理器と小さな冷蔵庫も買って、いよいよ食堂とは縁遠くなってしまったのだが、浜風は大勢の前で陰口を言われたり後ろ指を指されたりするよりはこの方がずっといいと思っている。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:12:48
竹村京 @kyou_takemura

訓練や哨戒では正確に欠点を指摘する不知火に対して、ついかっとなって言い返したこともある。 「そんな言い方しなくたっていいじゃないですか!」 「不知火の指摘に何か誤りでも?」#落ちぬい二次

2015-05-27 17:14:28
竹村京 @kyou_takemura

しかし悪口ではなく事実を淡々と述べている不知火に対して口下手な浜風は感情が爆発しているだけなので、結局言い負かされるのが常だ。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:15:57
竹村京 @kyou_takemura

だからミスをしないように旗艦の指示を確実に実行しようとするのだが、それが指示待ちに繋がり、結局連携の遅れを解消できないという悪循環に陥っていた。その悪循環は私生活にも及び、陰口を怖がる浜風はさらに孤立を深めていった。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:17:30
竹村京 @kyou_takemura

そんな浜風が唯一気を抜けるのが、基地内の空き地でぼうっと星を見ている時間だった。 気にしている蔭口はなく、ミスを恐れる必要もなく、夜風にあたりながら第十七駆逐隊の仲間たちと同じ夜空を見上げる。この時だけは気を張っていなくて済むので、星見もいつしか日課になっていた。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:19:16
竹村京 @kyou_takemura

そんなある夜、闖入者が現れた。 「ん。よ、浜風。夜更けに奇遇だな」 「──提督!?」 まさかこの時間に人と出くわすなんて思ってもみなかった。しかも相手は基地司令の兵頭大佐である。慌てて姿勢を正そうとするが、機先を制して言われる。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:21:24
竹村京 @kyou_takemura

「敬礼はいいぞ。ご覧の通り今は休憩中だ」 見れば、軍服をだらしなく着崩してその中の派手なアロハシャツが覗いている。確かに休憩中、というよりプライベートな感じだ。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:22:46
竹村京 @kyou_takemura

「で、こんなところで何してたんだ?」 「星を……見てました」 兵頭は浜風の横にどすんと腰を下ろす。 「お前は確かデータじゃ対空性能が高かったんだっけか。さぞよく見えるんだろ?」 「はい。七等星までなら普通に」#落ちぬい二次

2015-05-27 17:24:17
竹村京 @kyou_takemura

少しだけ見栄を張った。普通に見えるのは六等星までで、七等星は日によって見えたり見えなかったりなのだ。 しかし提督はそれには食いつかず、微妙な沈黙が流れた。 「提督、お邪魔しました。私はこれで──」#落ちぬい二次

2015-05-27 17:27:07
竹村京 @kyou_takemura

上官と二人きりという状況と沈黙に耐えられず浜風が立ち上がろうとすると、兵頭が止める。 「ああ、待て待て。お前とは着任以降ほとんど話してない。ちょっとそこでどうだ、一杯」 ――一杯って、お酒? 浜風が逡巡していると、すぐそばの自販機で買った何かをぽんと投げて渡された。#落ちぬい二次

2015-05-27 17:28:29