狭間】日の射す場所を歩くと、もう暑く感じる。陽射しは、なんだかだんだん、年ごとに強くなってゆく気がする。カラン、とドアベルが涼しげな音をたてる扉をあける。そっと踏み入れて、しずかな空気に一瞬ひたる。
2015-05-31 13:44:34いつもと変わらず、仕事場であるアクアリウムショップで水草の手入れをしている。……外で夜遊びをしているときは派手な出来事を好み、騒がしい街中を歩くのが好きだが、 この場所は、とても静かだ。静かで、のどかで、それがどことなく気に入っている。
2015-05-31 13:42:15入口のドアが開くベルの音が耳に入る。顔をあげればそこに立っていたのは日の光に照らされた白髪に、金の瞳を携えた少年。見知った顔だ。店内では奥に置かれているCDプレイヤーから流れるジャズピアノの曲と、水槽の水の落ちる音が静かに響いている。
2015-05-31 13:50:30@aima0022 狭間】「 、」こんにちは、と口を開けかけて、店内の静かな空気に飲まれたように、声は出さずにぺこりと頭をさげる。ちらちらと、水槽のきらめきが空気に星のように散っているように思う。
2015-05-31 13:56:17狭間】水槽の手入れをしているのだろう、水のなかにひたる腕の、ひとの肌のいろを見ながら、紫水晶の鉱石をふうっと連想する。照明に照らされて、水の表面がちらちらと砕けたように光っている。
2015-05-31 13:59:37@c_yu_n @c_yu_n 頭をさげた少年を見て「…いらっしゃい」と静かに口を開いた。いくつか切り取った水草を掴み、水から腕を引き上げる。水の波打つ音とともに、ひんやりとした水の温度。長くのびる指にその感覚が残っている。「…今日はどうしたの…?」
2015-05-31 14:03:24@aima0022 狭間】「…こんにちは、」ゆったりとした、雰囲気によく似合った声がこちらを向いたので、ふたたびぺこりと頭を下げる。こぽぽ、こぽ、とエアーのはじける音。「…近くまで、来たんで。」適当なことをいいながら、二歩、三歩、こちらに目を向けた相手の方に歩みを進めてみる。
2015-05-31 14:09:20狭間】通りに面したディスプレイケースのガラスを通して、日の光がそそいでいる。けれどそれが、ガラスに満ちる水を通しただけで、濾過されて穏やかな、どこか夜のような気配に変わっている、気がする。喧騒や排気ガスや塵芥の気配がなんだか遠い。静かなジャズミュージックの音色。はじけるあぶく。
2015-05-31 14:18:27@aima0022 狭間】「なにか俺、手伝います?」数歩の距離まで近づいて、背の高い、整った青年の顔を見上げる。へら、と笑ってみせる。
2015-05-31 14:20:17狭間】腕の中ほどから、つい今まで彼が手を浸していた水槽の、水のしずくがまとわっている。なんとなく、不可思議な気分になる。爪の先で小さく揺れる雫に、ぼんやり意識を惹き付けられる。
2015-05-31 14:23:23狭間】ただ、彼の長い指先が水に浸っていた光景には、漠然とした…なんだろうか、羨ましさのようなものを感じた。その感覚は、なんだろうなあ、と、口元に笑みをたたえたまま考える。指先の雫から、ふたたび相手の瞳に目をうつす。水の循環する音。
2015-05-31 14:27:40@c_yu_n 「ん、別に大丈夫だよ」尻すぼみになった少年の言葉にふ、と笑いかける。「ちょっと待ってて、」と傍にある洗い場に足を運び、先ほど切り取った水草をビニールに入れてから銀の蛇口をひねった。
2015-05-31 14:28:31@aima0022 狭間】「………、」その動作を、その場に立ったままじっと眺める。きらり、きらり。この店にいると、ちいさく切り取られた光のかけらが、ちらちらとちりばめられているように思う。蛇口の銀の反射。ほとばしる水の反射。じい、っと、意識しないまま青年の背を見ている。
2015-05-31 14:32:28