狭間】相手がこちらを見ていないと、いつしか気を抜いて真顔になっている。ジャズミュージックが静かに流れていて、再び戻ってくる姿をみとめてぱちんと瞬く。
2015-05-31 14:34:40@c_yu_n 「…はい」じっと佇んでいた少年の目の前に手に持っていた容器を差し出す。「エサやり。そろそろ時間だから……。してくれる?」
2015-05-31 14:35:12@aima0022 狭間】「あ、はい、」受けとる。手伝ってほしい、というより、気を遣ってもらったのかな、と考える。そっとまた口元に笑みを戻す。「…どの水槽に、とか、ありますか? ぜんぶです?」どのくらいの量か、というのは、筒に書いてある表示を読めば分かるかな、と考えながら訊く。
2015-05-31 14:37:43@aima0022 狭間】「わかりました、任せてください」にへ、と笑ってみせてから、くるりと踵を返して、指示された水槽の列の端に向かう。
2015-05-31 14:48:39狭間】昼下がりで、お客は他にいないようす。こぽり、こぽりと水の巡る音と、水流で波立つガラスの向こうの水の表面を見ながら、指示された通りにひとさじずつ、蓋を開けてはえさをふりまいてゆく。泳ぐちいさな魚の腹が、きらきら、ちらちら光る。
2015-05-31 14:50:12狭間】よく手入れされた水草が揺らぐ中に、ひらり、ひらりと魚が泳いでいる。普段なら、このサカナなんですか、などと訊いただろうか。ただ今はうるさく訊く気分でもなくて、師匠でもある青年に背を向けたまま、黙々とえさを与えては水をみている。
2015-05-31 14:54:07@aima0022 狭間】気配だけを背に感じている。居心地が悪いとは思わない。かこん、かこんと、蓋を外してはえさを振り入れ、またかこん、かこんと硝子の蓋を戻してゆき、
2015-05-31 14:56:02@aima0022 狭間】やがて端までえさをやり終わって、筒にきゅぽ、と蓋をする。一瞬じっと水槽を見てから、「……終わりましたー、」筒を抱えたまま振り返って、また笑った顔でてくてくと、レジの方へ歩いてゆく。特に急ぐわけではない。
2015-05-31 14:57:38@c_yu_n レジの上に広げてあった図鑑に肘を下しながら眺める背中はどことなく、普段とは違った静寂を保っているように感じる。ゆっくり瞬きをし、レジに向かってきた彼の笑顔を見てから「…ありがと」とエサの容器を受け取った。
2015-05-31 15:02:48@aima0022 狭間】「今日は、間さんだけですか?」他の店員さんはいないのだろうか、と訊きながら、エサの筒をカウンターの相手に返して、近くにあった小さなアルミの踏み台をレジ前にひっぱってこよう。平日のこの時間はそんなに客足もないだろう、せっかくなら居心地いい場所をとろう、と。
2015-05-31 15:01:55@c_yu_n 「…うん。店長と、あともう一人従業員いるけど、今日は俺だけ。」…小さな店だからね。と呟いて、踏み台をひきずってきた彼がそれに座る様子を見る。
2015-05-31 15:08:06@aima0022 狭間】「………、」空気をどこか、不思議に感じて、かすかにちいさく首を傾げる。けれどそれは、反射光のようにちらちらとして、うまく掴めない。その感覚を追いかけてみたくなって、「…ですか。」問いに返ってきた答えに頷いて、そのままふと黙り込み、
2015-05-31 15:09:06@aima0022 狭間】「………、………。」レジカウンターのふちの空きスペースに両手の指を引っかけて、傍らの小さな水槽に目を向けて、結局ジャズが一曲終わってゆくほどの時間、黙っている。数秒の沈黙にエアーの音が挟まれたあと、次のピアノのイントロがはじまる。
2015-05-31 15:18:55@aima0022 狭間】「…、」耳に心地のいい、なめらかな声に呼ばれて目を、図鑑に目を落とす青年の横顔に向ける。ずっとぼんやり眺めていた硝子越しの透明な水の、揺れる水草と沈む砂利から、人間の肌と髪の質感に目が移動してちょっと驚く。「……はい?」相手を見、ちいさく首を傾げる。
2015-05-31 15:30:17狭間】なんでこんな色彩になるんだろうなあ、と思う。さらさらした髪だ、と思う。(…やっぱ、宝石、)みたいだなあ、とぼんやり考える。綺麗な紫と群青で、べつに生っ白いわけでもないはずなのに、肌が白く見える。マスクのかさりとした質感を、見るともなく見る。
2015-05-31 15:34:28狭間】(…このヒトくらい、力があったらな、)一瞬、はじけるようにフッと、考えが浮かぶ。あわてて追いやるわけでもなく、持続して考えるわけでもなく、ふと浮かんで、すう、と消えてゆく。鍵盤と鍵盤が連なる、バラードの曲調。
2015-05-31 15:37:26