ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「シェリフって何?」データ吸い出し完了まで600秒。ユンコが疑似頭痛めいてこめかみを押さえる。実際ニューロンへの負荷と過剰緊張だ。数十分前からニンジャソウル検知機能がひっきりなしに脅威を告げている。敵が区の上空を飛び交い、あるいは猟犬めいた目で駆け、火種を探し回っているのだ。21

2015-05-30 22:53:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こ、ここのソロ自警団員を呼んだ。いつも保安官バッジを付けて、何か新聞を切り抜いて調べてて……アッ!アッ!もしかしたら合衆国の潜伏エージェント」「合衆国?」ユンコはIRCログを丹念に掘った。事前情報ファイル。モナコ・チャン/女/軽度ケミカルジャンキー/メガロ妄想症。「ワオ」 22

2015-05-30 23:02:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マッチ・ジュンゴーは、何かが起こるのをずっと待っていた。彼はこの老朽マンションのシェリフと呼ばれ入居者から一目置かれる、少し面倒な男だった。貧相な体、無精髭、近所のピザ店勤務、色褪せたファイアパターンのジャケット、傾いたサングラス、胸にはスリケンめかした保安官バッジが輝く。 24

2015-05-30 23:08:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ついにその時が来た。彼は立ち上がり、オブツダンの前で胸の保安官バッジに義手を当てた。彼は元ニンジャハンターであり、ある老人をニンジャの暴虐から救おうとして片腕を失った。彼は世界がニンジャに支配されている事を知っていた。そしてほぼ誰ともその秘密を共有せず、今日まで生きてきた。 25

2015-05-30 23:18:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのニンジャはどうなったか?「忍」「殺」の鋼鉄メンポをつけた死神がジゴクへ連れて行った。あれは妄想の産物だったのか?だがその誇りに縋るように、彼は犬のような日々を生きてきた。そして今日、TV画面に一瞬映った「忍」「殺」が、彼のジゴクめいた記憶を鮮烈にフィードバックさせたのだ。26

2015-05-30 23:21:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

過去の衝動と爆発が甦った。彼は何かが起こる、そして自分の力が必要になると信じた。彼は仕事も休み、己の部屋で待機していたのだ。そして今……保安官SOS着信を受けた彼は立ち上がり、オブツダンに隠していた違法購入リボルバーとジュラルミンケースを持って、モナコの号室へと向かった。 27

2015-05-30 23:32:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モナコの号室は3階だ。老朽封鎖非常階段を歩みながら、彼はガンスピンとクイックドローの覚束ない確認動作を行う。駐車場側を見下ろし、装甲車両群を見て舌打ちする。彼はハイデッカーの背後にもニンジャがいると推測していた。すなわちニンジャの脅威が再びこのマンションに迫っているのだと。 28

2015-05-30 23:40:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

3階へ。既に端から何部屋かにハイデッカーが押し入っていた。鍵付フスマを外から蹴り壊された者もいる。混乱状態、廊下で狼狽える住民。ハイデッカーが拡声器で直ちに自分の号室に戻り待機するよう厳命する。誰もマッチに注意を払わなかった。誰がどう見ても、ただの取るに足らぬ狂人だからだ。 29

2015-05-30 23:52:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マッチ・ジュンゴーは逃げ惑う住民たちの流れに逆らってひとり進み、モナコの号室方面を見た。今まさにハイデッカー隊員が入ってゆくところだった。シェリフは小さく身震いしてから、意を決し、急行した。シェリフは勢いよくフスマを開け、懐からリボルバー銃を抜いて構えた。「ホールドアップ!」30

2015-05-30 23:57:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが汗で滑ったリボルバーは彼の手からこぼれ落ちた。「シマッタ!」シェリフは叫び、それを拾い上げてから、惨状に気付いた。「何だこりゃあ……」室内には、半裸のホットなベイブが2人。ハイデッカー隊員は既に、その1人、オイランドロイドめいた女のカラテで滅多打ちにされたところだった。 31

2015-05-31 00:05:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「誰!」UNIXと直結したままのサイバーゴスは、彼に腕を向けた。たちまち前腕部が上下に割れ、仕込みマシンガンが出現した。「あんた、ハイデッカーをノシちまったか?」シェリフは脂汗を垂らしながら、まだ銃を下げず、歯を食いしばった。「ま、ま、待って、大丈夫」モナコが2人に言った。 32

2015-05-31 00:14:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「か、彼が、シェリフ。困った事があったら言えって。それ以外話した事無かったけど」モナコが説明した。「そうだ」シェリフは頷いた。ユンコが武器を収め、険しい顔で言った。「…悪いけど帰ってもらった方がいいかも。ハイデッカー本隊が気付く前に」「待ってくれ、俺は本当に、本気なんだよ」 33

2015-05-31 00:21:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼はサングラスを外し、必死で説得を試みた。二人を救うために。「俺の言葉を信じてくれ。お願いだ。ニンジャが来る前に」その瞳は誇りと狂気と捨て鉢の正義感に輝いていた。ジュラルミンケースを開く。彼が考案した妖しげな器具が並ぶ。「俺は元ニンジャハンターだ。ニンジャを殺した事すらある」34

2015-05-31 00:29:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((なぜこの男がニンジャの事を?)))ユンコはケースの中身を一瞥した。スプーン、ペンチ、バイオアルコールランプ、特殊注射器、ピンセット、白い粉、謎の液体……まるで中世の吸血鬼狩りに使われたブードゥーか、あるいは薬物中毒者の七つ道具を連想させる。……信ずるべきか?それとも? 35

2015-05-31 00:39:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユンコは極限状況下での判断を迫られた。己一人ならばハイデッカーと多少の戦闘をこなし、データを持って逃げ切れるかもしれない。だがミスター・ハーフプライスとの契約には、モナコの生存条件が含まれている。置いていけばモナコは包囲網を脱せず捕まる。だが連れて逃げるには負担が重すぎる。 36

2015-05-31 00:44:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「彼、本気だわ」モナコが強く頷いた。「……解った、信じる」ユンコが言う。シェリフは笑みを作った。「でも、何をするの?ニンジャと戦う気?」「そうだ。ニンジャは無敵じゃない。不死身の怪物じゃない。銃で撃てば殺せる。俺は何年も何年も備え続けてきた。このためだけに生きてきたんだ」 37

2015-05-31 00:51:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それに、俺は秘密の脱出路すらも作った。ニンジャに襲われた時のために作ったんだ。そこは手製のシェルターに繋がってる。半年くらいは生き延びられる……」マッチ・ジュンゴーは思い出したように付け足した。「俺はそれを、マンションオーナーの爺さんと一緒に作ったんだ」 38

2015-05-31 00:56:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

輸送ヘリから降下した重モーターサイクルは、そのファットな防弾防スリケンタイヤを跨線橋のアスファルトに弾ませ、着地。直後、堅牢な足回りは驚異的な接地力を見せ、即座に加速!ゴアオオオオオオオン!そのままガレキを容易に走破しながら坂を下り、大交差点の中心に立つレッドハッグに迫る! 40

2015-05-31 01:07:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

レッドハッグはカタナを構えながら、左前方にも睨みを効かせた。同じ輸送ヘリから降下したアクシスの手練、細身の刺突剣を持つニンジャが、軽やかにビルとカンバンを蹴り渡り接近してくる。重モーターバイクの速度には及ばぬが、実際意図的だろう。敵は二段構えの連続攻撃を狙っているに相違無し。41

2015-05-31 01:12:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」レッドハッグはまず3枚のスリケンを刺突剣の進路に向かって予め投擲!その後、彼女を轢殺せんと突進してくる厳めしい重モーターバイクを限界まで引きつけると、身体を真横に傾けながら……回転跳躍!バイク突撃を紙一重で飛び越えながら、操縦ニンジャの頭へと斬撃を繰り出した! 42

2015-05-31 01:22:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アドレナリンが沸き出し、減速する。真下を通過する黒いフロントカウル。読み合い。「「イヤーッ!」」両者のシャウトが同時に響く。そして敵は、レッドハッグのカラテを見切った。首を傾け、斬撃を躱すと、ほぼ同時に、革グローブを嵌めた拳で、薙ぎ払うようなバックナックルを繰り出したのだ! 43

2015-05-31 01:30:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!……ウカツ!」レッドハッグは二本煙草を吐き捨てながら、弾き飛ばされていた!刺突剣の使い手、スワッシュバックラーが待ち構える方向へと!「イヤーッ!」彼は目にもとまらぬ剣さばきで三発のスリケンを既に串刺しにし、彼女を迎撃せんとしていた!「ごきげんよう、さようなら!」 44

2015-05-31 01:34:24