ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ #3
四人目のアクシス、レジオネールは素早かった。レッドハッグがカタナを抜く前に、彼女の懐へと飛びこんだ。イアイも繰り出せぬワンインチ距離。蓄積された戦闘データをもとに、最も危険と目される武器のアドバンテージを封じたのだ。 1
2015-05-29 23:14:44だがレッドハッグにとって、それは少しも不便ではなかった。首を狙ってレジオネールが繰り出したカマの一撃を、彼女はブリッジ回避した。同時に、左手の親指でカタナの鍔をハジくように押し、その力を右手で受け継ぎ、数インチだけ抜いたカタナの柄をレジオネールの鳩尾にめりこませた。 2
2015-05-29 23:19:04「グワーッ!」レジオネールが目を剥き、カラテを崩した。さらに一撃、柄頭がアッパーカットめいて叩き込まれ、顎を砕く。レッドハッグはカタナを抜いた。「イヤーッ!」彼女の黒髪がショドー筆めいて空中に躍ると同時に、敵は斬り捨てられ、ハイデッカー死体の上に倒れ爆発四散した。「サヨナラ!」3
2015-05-29 23:25:13「ウェーゲホゲホ!」周囲にはハイデッカーが撃ち込んできたロケットランチャーの爆煙がまだ漂っている。レッドハッグは痰を吐いて捨てる。オナタカミ社最新兵器のショウめいて、包囲ハイデッカーの装備は徐々にエスカレートしていた。「アタシもひとつ、指名手配犯にでもなってみようかねェ……」 4
2015-05-29 23:39:03レッドハッグはまた二本煙草に火をつけた。「ウェーゲホゲホ。昔の方が骨があったね、あンたらさ……」レッドハッグは空を見上げ、群れ集うヘリを睨みながら、小さく身震いした。蟲を見るような生理的な怖気をおぼえた。「でもなんだい、いつの間にかアクシスってのは、えらい増えたもんだね……」5
2015-05-29 23:41:48同様の驚きと空恐ろしさを、この日、上空に展開したアクシス新兵らも感じていた。アマクダリ・アクシスの隊員はテリトリーを持たぬ即時対応戦力であり、常に待機状態にある精鋭部隊。だが互いに顔が見えぬ体制の中で、ごく一部の古参を除き、彼らはセクトの全貌を知らなかった。知る必要もなかった。6
2015-05-29 23:46:42誰も知らぬうちに、無形の怪物めいてセクトは巨大化していた。総員出撃の規模は、一年前とは比べ物にならぬほどだった。この間、セクト内の下部組織テリトリーは何ひとつ増えず、むしろ減少の一途をたどり、新たなニンジャは皆アクシスの隊員としてリクルートされていたことを知る者は極めて少ない。7
2015-05-29 23:53:38だが僅かな恐れの後、アクシスは己の属する組織の強大さに酔いしれ、感嘆する。何も恐れる必要などない。自分はその一部だからだ。そして末端は思考を止める。標的を狩る事だけを重点する。アクシスという組織の意味合いは、いつの間にか上書きされていた。本来、アガメムノンが目指していた形へと。8
2015-05-30 00:04:11「嘆かわしや、あの女ヤクザひとりに随分やられたものだ」スワッシュバックラーが笑い、ヘリ側面に身を乗り出した。「どんどん死ねばいい。淘汰というやつだ」カタフラクトは輸送ヘリの中央部に吊られた黒い重モーターサイクルに跨がってハンドルを握った。2人のアクシスは降下体勢に入った。 9
2015-05-30 00:13:40レッドハッグは煙の向こうに、ジグラットから一直線に飛来するその中型輸送ヘリを睨んだ。周囲のアトモスフィアが張りつめ、カラテが漲った。彼女は眉根を寄せた。「ハハア。そろそろ、一筋縄じゃ行かないかねェ」 10
2015-05-30 00:19:13「あ、あ、合言葉を言え!」モナコは虚勢を張って言った。何年も前……予め決めていた秘密の合言葉が何種類かある。結局ナボリはデカいヤマを何一つモノにできず、使う機会も無かったが、彼女はまだそれを覚えていた。「ハーフプライスは」ユンコはIRCログを辿りながら答えた。「とても涼しい」12
2015-05-30 00:32:41「入って」モナコは解錠した。「よく解らないけど、彼は、やったのね。いつかやると思ってた。どれくらい儲かるの?」「その話は後で。取り分については凄く合意済」ユンコは足を踏み入れ、室内の様子や貧相な旧式UNIXデッキを見て、思わず眉をひそめた。これが本当に堅牢なるセーフハウス?13
2015-05-30 00:38:33「デッキは本当にこれ?時間無い。データを移す、OK?」ユンコはLAN端子と頭を指した。モナコが頷きパスを通すやいなや、ユンコはスゴイテック社製ケーブルを直結し、データを吸い出し始める。「遅い……」ユンコはじれったそうにコートを脱ぎ、背中の排熱フィンを開いて己に負荷をかけた。 14
2015-05-30 00:50:24「わ、私は何をすれば?」モナコは護身用拳銃を握り、UNIXの前に正座して問う。「信じてくれただけで十分。あとは何とかしてみる」オイランドロイド全身義体のサイバーゴスガールは目を閉じ、歯を食いしばりながら、精神をタイピングとデータ転送に集中した。「早く逃げて。奴らが来る前に」 15
2015-05-30 00:58:18「奴ら?」モナコが問う。「解ってるよね?ハイデッカーと、それに、ニンジャ。奴ら包囲網をどんどん狭めて……」ユンコはデータ転送と展開を同時に行いながら返す。「ニ……ニンジャ……!」モナコが息を呑む。次の瞬間、マンション駐車場に威圧的サイレン音が鳴った。ハイデッカー武装車両だ。 16
2015-05-30 01:04:47『この地区にテロリスト潜伏との情報!ストリートの全戸に対し抜き打ちUNIX通信データ調査を行います!安心してください!』拡声器が唸る!「「「ザッケンナコラー市民!」」」「アイエエエエエエ暗黒管理社会!」データ強制閲覧に抵抗したャー都会カルチの住民が早速逮捕されている!非道! 17
2015-05-30 01:20:37「ファック……!」ユンコはカーテン隙間から階下を睨んだ。吸い出しきれるか?どう彼女を逃がせばいい?「ニ……ニンジャ……つ、つ、ついに来た……」モナコは圧し潰されそうなほどの恐怖と不安感に震えていた。かつて彼女とナボリは、ニンジャの暴虐に襲われ、幸運にもその理不尽から脱した。 18
2015-05-30 01:31:05モナコはあの出来事を薬物幻覚の産物と自分に信じ込ませていた。そうでなければ狂っていただろう。だがこの極限状況が、全てをフィードバックさせたのだ。ニンジャの暴威を。「も、も、も、もうダメだ……」モナコはチャブの下に隠れて痙攣し、打ち上げられたマグロめいて口をパクパクさせた。 19
2015-05-30 01:38:54それでも必死に考えた。そして何かを思い出した。「……シェリフに、伝えなきゃ」「エッ?」ユンコが振り向くと、ピンク髪のジャンキー・ベイブは不意に立ち上がり、どこかの号室にマンション内線をかけていた。 20
2015-05-30 01:40:19(親愛なる読者のみなさんへ:本日の更新において1パラグラフ訳しもれがあったと担当ほんやく者から申告があり、彼はすばやくこれを削除し分割修正した。言わなければ露見しなかったかもしれない。しかし彼は申告した。これは賞讃に値しますがミスはミスなのでケジメされました。ごあんしんください)
2015-05-30 01:46:35それでも必死に考えた。そして何かを思い出した。「……シェリフに、伝えなきゃ」「エッ?」ユンコが振り向くと、ピンク髪のジャンキー・ベイブは不意に立ち上がり、どこかの号室にマンション内線をかけていた。 20
2015-05-30 22:49:51