ゲドウ話。

創作のおはなしまとめ
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旨味まづ @maduzu

カクレがゆっくりと目を覚ますと、そこには真っ赤な刀身を持つ剣を誇らしげに掲げたグキッドがいた。すぐそばには、ボロ雑巾のように痛みつけられぴくりとも動かないゲドウが横たわっている。 ゲドウくん 呼びかけにも、反応しなかった。

2015-06-03 02:27:16
旨味まづ @maduzu

「無駄無駄ァ、もうこの子、死んじゃったから」 軋む体にムチをうって、カクレは体を起こす。這うようにゲドウに近づけば、彼の胸は確かに上下していた。そのことに安堵するが、何か様子がおかしい。何か、そう昔のように――― 「心が死んじゃった♥」

2015-06-03 02:27:20
旨味まづ @maduzu

――ゲドウくん コイツの親がさ、僕の家の大事な大事な家宝を盗みやがったんだよ。"滅びの剣"という、神様の剣なのさ。どんなものにでも、滅びを齎すことができる最強の剣。 ――ゲドウくん でもこの力、心を具現化するものだろ?どうして神様の"心"が他人の中にあったのか、気にならないかな?

2015-06-03 02:40:41
旨味まづ @maduzu

――ゲドウくん ――ねぇ 僕のご先祖様が、この剣を神様から盗んだのさ。でも、何かに入れておかないとすぐにみつかっちゃう。その時、こう思ったんだよね。”入れ物がなければつくればいいじゃん”って! ――ゲドウくん!!

2015-06-03 02:40:44
旨味まづ @maduzu

カクレの叫び虚しく、ゲドウは死んだような、放心した顔をしてぼーっと座わらされている。 「無駄無駄、この男の心はね、今死んじゃったの」 グキッドの手が、ゲドウの頬を這う。抵抗はしない。 「この剣に金をまとわりつかせて、心があるふりをしてただけなのさ。コイツはただの"入れ物"」

2015-06-03 02:40:49
旨味まづ @maduzu

「なんで入れ物なんかと駆け落ちするかねぇ…コイツの親は」 心底哀れんだような顔をするグキッド 「でも入れ物に心がない、っていう先入観からミスリードさせたんだ。まんまと騙されちゃったなぁ…。まさか、子供に隠すなんて思わなかったんだもん」

2015-06-03 02:49:52
旨味まづ @maduzu

「さて、コイツは連れて帰らせてもらうよ。一生僕の鞘として、奴隷にしてあげようと思ってるから♥」 ゲドウの髪を掴みその表情を見せつけながら、満足げに話すグキッド。カクレは最後の力を振り絞り、立ち上がった。私が守らなければ、ゲドウくんを守らなければいけない。

2015-06-03 02:49:56
旨味まづ @maduzu

カクレ…。 カクレはグキッドに向かっていくも、何度も何度も倒される。それでも諦めずに向かっていく様をみて、今や無になったゲドウの心に一つの石が投げ入れられたが、すぐにそれも収まっていく。 なにもない。 ゲドウの心は完全に死んでいた。

2015-06-03 02:50:00
旨味まづ @maduzu

目の前を映す事象も、全てがなんの信号も受け取らず通り過ぎていく。 あぁ…心がないとは、こういうことなのだ。入れ物。器。体の中に魂がなければ、人間はただの肉でしかない。剣をいれる鞘という目的もなくしてしまえば、死んでるのとからわない。そんなものもう―――人間ではない。

2015-06-03 02:58:09
旨味まづ @maduzu

そんな思考をしたかしないかわからない。理解することも、目視することも、考えることも、受容することも、なにもできなかった。 そんなゲドウの無の空間に、呼びかける声が一つ。 どこか懐かしい声が、頭の中にこだました。 「君は、自分が本当に心がないと思ってるのかな?」

2015-06-03 02:58:10
旨味まづ @maduzu

幼い顔をした白髪の男が、確かに心に存在していた。この声は、オレに能力を売りつけたやつだ…。ゲドウは戸惑い―――否なにも感じなかった。 男が感情があるような、ないようなゆったりとした口調でゲドウに呼びかける。 「君は、器に魂が宿るのか、魂を元に器が出来るのか…どちらだと思う?」

2015-06-03 02:58:13
旨味まづ @maduzu

「僕の考えは、どちらもありえるってことだ」 浮遊するように、幽玄に佇む男。いるようで、そこにいないような、不思議な存在だった。するりと流れるような男の言葉が、なにもないはずのゲドウの心にすっと吸収されていく。 「君は生まれてこの方、偽の心であっても、それを持っていたんだろう」

2015-06-03 03:10:39
旨味まづ @maduzu

「君はどんな人間だったんだい?」 ゲドウにとって、生きるとは金が全てだった。金さえあれば生きていけた、なければ生きていけなかった…。 「そうだね。君はお金がとても大事だった。それ以外の生き方を教えてもらえなかったから。」

2015-06-03 03:10:45
旨味まづ @maduzu

なぜなら両親が借金の末に自殺してから、金だけを頼りに生きてきたから―― 「そうだ、君の両親が、君に授けた唯一の感情だ。お金に執着させることで、グキッドくんから隠そうとした。でも、それだけかな?君は本当にそれだけを感じていたのかな?」

2015-06-03 03:10:51
旨味まづ @maduzu

ゲドウは徐々に、じんわりと、水に一滴だけ墨汁を垂らすように、思い出す。 カクレ――― 黒い液体が一滴、また一滴とゲドウに降り落ちる。 忍者修行をして失敗するゲドウを助けるカクレ、ご飯の誘いをしに家に勝手に入ってくる姿、辛くて泣いてる所を見てしまい咄嗟に隠れてしまった――

2015-06-03 03:10:57
旨味まづ @maduzu

カクレ――― 一緒にあそぼ?そう言って手を差し伸べたのは、カクレだけだった。その手をとって引いてくれたのは大きな背中だった。その背中もいずれか小さくなっていって、ちょっと距離は離れたけど。 カクレと一緒にいる時は、ゲドウは確かに幸せだった。

2015-06-03 03:11:01
旨味まづ @maduzu

@home 「さあ思い出したね――ゲドウ」 「…あぁ!」 確かな意思が、そこには芽生えていた。なにもないと思っていた隙間には、いつの間にかゲドウ唯一の心がしっかりと芽生えていた。カクレと触れ合った日々が、偽の心であったゲドウの心を、本物にした。

2015-06-03 03:22:53
旨味まづ @maduzu

@home 「オレ様はゲドウ。金がないと生きていけないようなクズだ。でもな…それがオレだ。俺なんだ」 ゲドウの目に、光が宿る。フェードアウトしていく無の空間から、投げかけるような声が最後に聞こえた。 「僕はラフマー。どこにでもいて、どこにもいないんだ。だからまた会えるさ」

2015-06-03 03:22:59
旨味まづ @maduzu

@home 一瞬だった。決着はグキッドにもカクレにも、わからないほどの速さで。グキッドの胸をまっすぐに貫く白い刃だった。剣の形もしていない、ただの尖った塊。驚愕に目を見開くグキッドに、ゲドウにやと笑った。 しかしそれはキラキラと、どんな武器より輝いて美しい、ゲドウの心だった。

2015-06-03 03:23:02
旨味まづ @maduzu

@home おかしいなぁ…ただの…鞘のくせに…血を吐いて倒れるグキッドが、そんなことをいう。その姿を見下ろしながら、恐ろしく悪い顔でゲドウはいった。 「ケッ。なにもオカシクねぇよ。誰が心が新しく作れねぇなんて決めたんだっつーの。バーカ」 いつもとなにも変わらないゲドウだった。

2015-06-03 03:25:38
旨味まづ @maduzu

@home その後、大会はカクレが倒れたことによりゲドウが優勝し幕を閉じた。全治2ヶ月の傷を負ったカクレは、しばし休学だ。 最近随分とおとなしくなったと噂されているのを聞きながら、身支度を整え帰り道を歩く。途中にある分かれ道で少し迷ってから、病院の方へ歩き出した。

2015-06-03 03:28:06
旨味まづ @maduzu

@home 「ハロー、カクレさん。元気にしておりますかね?」 「ゲドウくん、気持ちわるいよ」 クスと笑われたので入ってよしと見たゲドウは、置いてあった椅子に着地する。カクレは全治2ヶ月の割には元気そうだった。この全てがゲドウのために受けた傷だと思うと良い気持ちにはならなかったが

2015-06-03 03:29:34
旨味まづ @maduzu

@home 「あのね」 ふいに真剣な顔をしたカクレが、ゲドウを見据えながらぽつりぽつりとしゃべりだした。 「ゲドウくんが表情をなくしたとき、私すごく怖かったの」 「………」 「ゲドウくんが、遠くへ行っちゃうって。守れなかったって…」

2015-06-03 03:33:43
旨味まづ @maduzu

@home それはとても静かだった。静かだったからこそ、ゲドウの胸を打つ。ゲドウの数少ない感情に揺さぶりをかけてくる。雫が一滴二滴と落ちる度に、それを全て掬い上げたくなる。 「戻ってきたんだから、いいだろ…」 「………」 「ごめん」 泣かせたくなんかなかった。

2015-06-03 03:38:38
旨味まづ @maduzu

@home 「それでゲドウくん、それでなにをお願いしたの?」 「秘密」 「………どうせ、金儲けの話でしょ?」 「カーーッバレちまったなァ!!ガッハッハ」 「もー結局変わってないんじゃない!」

2015-06-03 03:39:09