山本七平botまとめ/【十五年周期仮説でみる昭和史/戦後のパイロット・プラント、大正①】終戦と大正自由主義

山本七平『1990年代の日本』/十五年周期仮説でみる昭和史/戦後のパイロット・プラント、大正/終戦と大正自由主義/168頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【十五年同期仮説でみる昭和史/戦後のパイロット・プラント、大正/終戦と大正自由主義】民放のロケで海外に行った時、昭和生まれのディレクターのハリマさんが言った。<『1990年代の日本』

2015-06-17 18:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

②【終戦の時はショックでしたなあ。 いや、確かに終戦もショックでしたが、大正生まれの兵隊が 『あ、これで昭和五年以前に帰るんだな』 と平気で言った時は、もっとショックでしたな。 我々はそういう時代があったことを全然知りませんでしたから】と。

2015-06-17 18:39:02
山本七平bot @yamamoto7hei

③いわば当時の彼は日本は神武天皇以来、天皇絶対の超国家主義的な国だったと思い込んでいたのである。 無理もない。 私の記憶によれば大正自由主義的な教育が国粋主義・超国家主義的教育に変わるのは満州事変の翌年か翌々年、即ち昭和七、八年からである。 昭和生まれはこの頃小学校に入る。

2015-06-17 19:08:55
山本七平bot @yamamoto7hei

④そしてこれがさらに軍国主義へと加速されるのが日華事変のはじまる昭和12年、八紘一宇・神州不滅的狂信となっていくのが太平洋戦争勃発の昭和16年である。

2015-06-17 19:38:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤ということは、この12、3年間がハリマさんの世代の教育期間だから、物心のつく頃から青年期にかけてこれを徹底的に叩き込まれ、皇国史観に基づいてこれが肇国の精神で、日本は国が始まって以来これで一貫していたように思い込まされれば、前記の大正生まれの兵隊の言葉はショックに違いない。

2015-06-17 20:09:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥この点、多少なりとも大正自由主義的教育を経験した者とそれを全く経験しなかった者との間に、意識の断層といえるものがあって不思議ではない。 簡単にいえば戦後とは、一方にとっては「つまり昭和五年以前に帰る事だな」であり、一方にとっては「日本国始まって以来の大変革」なのである。

2015-06-17 20:39:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そこですべてを「今までなかった新しいこと」と思い込む。 それに対して、 「いや、そんなことはわれわれも小学校時代にやったよ」 と言えば、不思議そうな顔をする。 上智大学学長の柳瀬神父は私の小学校の同級生である。 あるとき、二人で何気なく思い出話をした。

2015-06-17 21:09:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧「今やっている事はたいていあの時代にもやったね」 柳瀬神父は言った。 「今でいう学級自治会のようなものが小学校にもあってね。そうそう山本君が議長で僕が書記だった事があったな。議案を出して、議事を進めて、採決し記録して、実行に移す。何だか今よりうまく運営されてたみたいだな」

2015-06-17 21:38:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨そう言われて、私も…思い出した。 私が議長席に座り、皆が活発に発言し討論し、議事は悠々と進められていた。 思い出の光景は今の暴力教室よりよっぽど民主的であった。 だが…昭和戦前生まれや戦後生まれは「本当にそんな事があったんですか」といった怪訝な顔をするのが普通である。

2015-06-17 22:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩昭和になり、軍部の発言力が強くなっても、教育はなかなか変わらなかった。 これは戦前の文部省が実質的には枢密院の下にあり、内閣の交替で教育の方針が絶えず変わるという事態を防ぐようになっていたためだという話を聞いた。

2015-06-17 22:39:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪そしてこの枢密院は、軍部からある程度超然としていたので、これが、「何事も前例を踏襲する」という日本的伝統に守られて、大正時代というものを小学校の中にも温存しつづけた結果なのかも知れない。 ではその温存し続けた大正自由主義時代とは、どんな風潮の時代だったのか。

2015-06-17 23:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫一言でいえば戦後同様、「天皇制民主主義」を標榜した時代だったわけである。 これがおそらく、大正の兵隊が、戦争が終って民主主義になると聞いた瞬間に、昭和五年以前を連想した理由の一つであろう。

2015-06-17 23:38:56