社会学者・岸政彦さんによるヤン・ヨンヒ(梁英姫)監督、映画『かぞくのくに』についての感想。

(省略)
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岸政彦 @sociologbook

にゃー。すみません、ちょっと連投してよろしいでしょうか。

2015-06-20 22:00:30
岸政彦 @sociologbook

ヤンヨンヒさん監督の映画『かぞくのくに』についてです。

2015-06-20 22:00:53
岸政彦 @sociologbook

この映画の舞台は1997年の東京の下町です。画面に小さくうつる電柱の住所表示などを見ると、足立区の千住とか、あのあたりのようです。主人公は在日コリアンの若い女性、リエ。喫茶店を経営する実家に両親と暮らしています。父親は「同胞委員会」の幹部です。

2015-06-20 22:02:10
岸政彦 @sociologbook

リエの兄ソンホは、16歳で北朝鮮に帰国しています。現在は平壌で暮らし、むこうに妻子もいます。まだ小さな息子は、サッカーが好きらしい。

2015-06-20 22:03:26
岸政彦 @sociologbook

ソンホは5年前に脳に腫瘍が見つかります。そして、手術のために、25年ぶりに日本へ帰ってくるのです。腫瘍が見つかってから帰国許可がおりるのに、5年もかかったことが、劇中で語られます。

2015-06-20 22:04:24
岸政彦 @sociologbook

手持ちの、ブレがちなカメラで、物語はゆっくりと進みます。25年ぶりに日本へ帰ってきたソンホを、父と叔父とリエが迎えにいきます。画面は、車窓から見える、ごくごく普通の、ありきたりの風景を写します。街並み、踏切、神社、公園……。そして、ソンホは家のすこし前で車を止めると、

2015-06-20 22:06:14
岸政彦 @sociologbook

そこからはひとりで、ゆっくりと歩いて、家に向かいます。途中で小さな小さな商店街を通ります。その商店街の真ん中で、ソンホは、胸に付けていた小さな北朝鮮のバッジを外します。ソンホは、まるで舐め回すように、街の光景を眺め回しながら、ゆっくりと実家に歩いていきます。

2015-06-20 22:07:32
岸政彦 @sociologbook

実家の前には、母親が立って、ソンホを待っています。そこで、家族がみんな、25年ぶりに揃います。実家の建物は、一面ツタに覆われた、昭和な、古い家です。喫茶店も、ほんとうにカフェではなく「喫茶店」な感じの店構えです。

2015-06-20 22:08:38
岸政彦 @sociologbook

こういう、これぐらいのゆっくりしたテンポで、静かに物語は進みます。ほとんどモノクロに近い色調の画面も、少ない会話も、すこしさみしい音楽も、物語の一部です。

2015-06-20 22:10:01
岸政彦 @sociologbook

主人公のリエの実家の部屋は、これはもともと和風の座敷だったのを、洋間に改築したのでしょうか。小さな小道具までこだわって、「がんばってフランフランあたりで買いそろえてなんとかオシャレにしようとしてるけど、しょせん実家」な、女子の部屋を見事に再現しています

2015-06-20 22:11:05
岸政彦 @sociologbook

この映画は、そのタイトルがしめすように、日本や北朝鮮という国家の歴史のなかで翻弄されてきた在日コリアンの物語ですが、ここには大きな政治や民族の物語は出てきません。北朝鮮の「監視役」までもが、ここでは「個人」として描かれています。

2015-06-20 22:12:25
岸政彦 @sociologbook

私は、この映画に、日本人がほとんどまったく出てこないのはなぜだろう、と不思議に思います。出てくる人たちだけではなく、出てこなかった人たちもまた、それによって何かを表現されているのです。この映画はちょうど、あの「幸福な出会い」を描いた『パッチギ』の、正反対の鏡像のようです。

2015-06-20 22:14:04
岸政彦 @sociologbook

明日、私は、監督のヤンヨンヒさんとお会いして、お話をします。まず最初に、この映画で、「個人」というものを描くためにどのような「技術」を用いたか、ということについて、そして、この映画になぜ日本人が出てこなかったのかについて、聞きたいと思います。

2015-06-20 22:15:46
岸政彦 @sociologbook

私がこの映画でもっとも感銘を受けたのは、おそらくこの映画のなかではもっともささいな、断片的なシーンですが、北朝鮮の「監視役」の男性が、ビジネスホテルで寝転がっているシーンです。

2015-06-20 22:17:08
岸政彦 @sociologbook

彼は、暇そうに、不機嫌そうに、タバコをくわえて、狭くて寂しいビジネスホテルの暗い一室で、備え付けの小さなテレビで、アダルトビデオを見ています。

2015-06-20 22:18:41
岸政彦 @sociologbook

このシーンを見て、私は、知らない街の狭いビジネスホテルで、いまこの瞬間にもたくさんの男性が、特にのめり込むでもなく、ぼんやりとアダルトビデオを見ているところを想像しました。そして、その部屋のエアコンの音や、小さく絞ったテレビの音声、外を過ぎてゆく車の音などが、

2015-06-20 22:19:38
岸政彦 @sociologbook

聞こえてくるような気がしました。

2015-06-20 22:19:52
岸政彦 @sociologbook

長々とすみません(笑)明日、私は東京に行って、ヤンヨンヒさんとお会いして、お話をします。この素晴らしい作品に描かれた「個人」について、いろいろ聞いてみようと、楽しみにしています。もし明日、お暇なら、ぜひおいでください。予約はかなり埋まっていますが、まだすこしなら大丈夫です。

2015-06-20 22:21:25
岸政彦 @sociologbook

『断片的なものの社会学』刊行記念/岸政彦 × ヤンヨンヒ対談/「交差する人生、行き交う物語」/6月21日(日)14時〜池袋コミュニティ・カレッジ/ご予約はリブロ池袋本店にて。予約なしでも大丈夫だと思います(多分)/ asahi2nd.blogspot.jp/2015/05/event.…

2015-06-20 22:23:06
岸政彦 @sociologbook

みなさまにお会いできるのを、楽しみにしております。あした、池袋でお会いしましょう。libro.jp/blog/ikebukuro…

2015-06-20 22:23:45