魂命を継ぐ幽朧の境界:二日目夜

* ──揺らいで尚、 *
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【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

ーー時の魔王は、その揺らぎを、『ラプラスの改竄式』と、称したという。

2015-06-22 08:43:13
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

人の身には観測することの出来ない、遥かな時空での、新たな世界の誕生。 その衝撃による『運命の変動』。 それは、古より繰り返された、『自然現象』。

2015-06-22 08:43:15
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

ーーそして訪れる、『夜』。 気づけば、賢者の着いていた食卓は、暗い色の、慣れ親しんだ、冬樫(フガシ)材の重いテーブルに、変化していて。 「馬鹿な……ここは……『結界塔』か?」 驚き、見開いた眼差しをぐるりと巡らせれば、取り囲む壁の全てを埋め尽くす『写本』の数々ーー。

2015-06-22 08:43:17
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

色とりどりの革の背表紙。骨によって綴じられた古書。本とも呼べぬ紙の断片や、果ては石板のヒエログリフにいたるまで……そのどれもに、見覚えがある。 「……ふん、なるほどな。今夜は『儂の番』ということか」 昨晩の『ヤツメの世界』と同様、此れは、賢者自身の記憶であった。

2015-06-22 08:43:19
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

ーー自らに起こった『運命の変動』を観測することは、人の身には『不可能』。 ーー森羅万象の意思に触れることの出来る、大賢者と称されたその男にすら。 ーー彼には、『観測(きづ)』くことは出来ない。 ーーその頂きに乗せた『虚飾』のデザインが、ロングに変わっているという『事実』に。

2015-06-22 08:43:21
【刃】ペンデ @pende_AO

揺らいだ。 揺らいだ…? 一瞬の眩暈。 目元を手で覆ってテーブルに手をつき崩れるのを耐えた。 空気が変わるのを感じる。 昨日とは違うけれど同じ、昼とは違う夜の空気。 触ったテーブルの感覚が違う。

2015-06-22 09:36:30
【刃】ペンデ @pende_AO

この1日で聞きなれた、年月を重ねた声が聞こえる。 瞼を開き、ゆっくりと目元を覆う手をどかせば、膨大な、紙、紙、紙。 なじみのない光景。

2015-06-22 09:36:45
【刃】ペンデ @pende_AO

自分がいた世界では、紙は高級品で、本は高級品で。 そぉ、っと、本に触れないような場所を探して逃げようと、動いた。 「ここ、じーちゃんち?」 儂の番、って聞こえたし。

2015-06-22 09:36:53
【刃】ペンデ @pende_AO

そして、声の方向に視線を向けた。 向けた。 向けた。 止まって。 首を傾いだ。 「……じーちゃんイメチェン?」 ショートじゃなかったっけ、じーちゃん。

2015-06-22 09:42:51
【刃】ズィオ @Obtener_Dio

一瞬の瞬きの内に、しかし何にも逆らわせぬ力を持った波が、ーー過ぎ去って。 結果としてそれは、 「わ」 男の目には、真白であったはずの目の前の風景に、瞬く間に色が付いた、と認識された。

2015-06-22 12:21:05
【刃】ズィオ @Obtener_Dio

黒の中に飴じみた艶を持つ木のテーブル、壁を埋め尽くさんばかりに並べられた本棚、その中から溢れ出すほどの様々な種類の本、あるいはその範疇に収まらぬ記録物。 不思議と未知に目を輝かすその裏側で、男は僅かな困惑を覚えてもいた。 (……おれ、誰かと約束したんじゃなかったっけ)

2015-06-22 12:21:34
【刃】ズィオ @Obtener_Dio

その相手は、この場の主ではなかった。その感覚だけがある。今ここにいる事実に反して。 そのひとはここにいるのか、ぐるり見渡す途中で。 動きが止まる。 「……おじいちゃん?」 その姿への違和感に、数度瞬き。

2015-06-22 12:21:39
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

「ふん、オドオドするでない、どうせ此れらは全て、『境界』の揺らぎが儂の記憶から作り上げた幻影のようなものじゃ。汚そうが破ろうが燃やそうが、気に病むことはない」 もちろん、現実世界の『写本』に不用意な扱いは許さんがな、と脅すように、これは、本から身体を離そうとするペンデへ向けて。

2015-06-23 08:19:18
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

「その通り。ここは、儂の暮らす『結界塔』の書庫じゃな」 今いる場所を一階と数えるならば、ゆうに50階を越す、吹き抜けの『書庫』。壁際を、細い螺旋階段が、上へ上へと続いている。 書庫は、『塔』の殆どを占める空間だ。

2015-06-23 08:19:20
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

「ここには、儂の世界の『全ての書物』が、写本として存在しておる。太古の占術師の残した予言から、はたまた、稚児が戯れに書いた落書きに至るまでーー」 そんな風に、自慢げな様子でコレクションを紹介しはじめた賢者は、ふと、自分へ向けられた、何とも言えない視線に気づき。

2015-06-23 08:19:22
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

きょとん、とした顔で。 「……なんじゃ?うぬら。儂の顔に何かついておるか?」 何かついてるのは、正確には頭なのだが。

2015-06-23 08:19:24
【刃】ペンデ @pende_AO

「やー、いや、うん。馴染みがないって言うか、金持ちの持ち物って怖くて。」 本物じゃないとしても。本の少ないところに、避難をするまま。 説明をしてくれているけれど、視線は大賢者の頭に向けられたままで。

2015-06-23 08:43:11
【刃】ペンデ @pende_AO

自分の頭に触れる。 髪を撫でるようにスーッと下げて見る。 はいどうぞ、とやってごらんというように促した。

2015-06-23 08:43:13
【刃】ズィオ @Obtener_Dio

「何もついてないけど、髪の毛が」 そうじゃなかった気がする、と首を傾げて。 返してから改めて見回せば、この場には三人以外ひとつたりとも人影など見あたらなかった。視界のすべてを埋め尽くすような書物の壁がうずたかく。 (……ヌシにあとで謝らなきゃな)

2015-06-23 12:11:59
【刃】ズィオ @Obtener_Dio

どうして山に行けなかったのかはわからないが、来てしまった以上、そしてこの場に彼がいない以上、仕方がない。男はそう結論づけて。 ありとあらゆる書物を集めた、というその場の、首が痛くなりそうな吹き抜けを一度見上げてから。 「その、集めたり、分けて並べたりが、おじいちゃんのお仕事?」

2015-06-23 12:12:04
【刃】ペンデ @pende_AO

は、と気付いた。今は夜。っていうことは髪に気を取られてる場合じゃない。 すごく気になるけど。 「ズィオは昨日も賢者様と一緒だったっけ。詳しい話とか聞いた?」 聞いたなら二重に聞かせるのも悪いかと、首を傾いだ。 「ここに世界中の本とか、凄いよねぇ。」

2015-06-23 14:43:57
【刃】ズィオ @Obtener_Dio

「ううん、昨日はずっとヤツメの学校にいたから」 と、首を振って。 「だからおれも聞きたいんだ、おじいちゃんのこと」 そう屈託なく笑う。 凄いよね、と彼の言えば、 「うん。誰が集めてきたんだろうとか、誰がしまってるんだろうとか。何を考えても、すごいなって思う」

2015-06-23 17:57:08
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

「???……はて、儂の髪がどうかしたか?」 訝しげな顔でそう言って、ゴールドブラウンの長い髪を、ファサァ、と流す仕草をして見せる。 『運命の変動』は、その過去、記憶までをも、改竄する。 故に、改竄された本人に、それを観測する術は無いのだ。

2015-06-23 19:35:47
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

そして、ズィオが興味深げに問いを投げるなら。 「うむ、半分は正解じゃな。此れらを並べ、管理するのは儂の仕事じゃ。集めるのはうちのバカ神……もとい、世界の守護神・ネリウメの、趣味じゃよ」 眉間に皺を寄せながら、なにやら、嫌なことを思い出したとでも言うように。

2015-06-23 19:35:49
【鞘】大賢者タマゴ・ボーロ @tamagobo_ro_AO

「結界塔(うち)にはな、後先考えずに写しては蔵書を増やし、突拍子もなく何かを思い立っては片っ端からひっくり返す、阿呆がおるのじゃ」 深いため息と共に、本棚のひとつを、杖で撫でる。 撫でられた棚は、まるで『綴じた紙が捲れるかのように』、後ろの棚と入れ替わる。

2015-06-23 19:35:52
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