グリム・リーパー・オブ・カノヤ・ベース

鹿屋基地には死神がいる。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「すご…」瑞鶴は唖然としながら、吹雪と消えた装甲空母姫の攻防を見守った。見えぬ死のカラテ攻撃を、吹雪は防ぎ、往なし、避け続けた。それは宛ら武術の達人による演武の如き。だが、同時に瑞鶴は吹雪が攻めあぐねていることに気付いていた。瑞鶴は歯を食いしばった。傍観者である己を責める。 5

2015-07-09 20:46:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「…あれ?」ふと、瑞鶴は気付いた。数機居た敵の艦載機が居ない。周囲を振り向いて確認するが、その姿が見当たらない。「まさか…!」瑞鶴がその可能性に思い至った瞬間!KABOOM!「グワーッ!」突如、吹雪が爆風で吹き飛ばされる!「吹雪!」「大丈夫です!」吹雪は直ぐ様体勢を立て直す。 6

2015-07-09 20:48:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

見よ。吹雪の両腕は左目と同じ緑色の炎光に覆われ、爆風から己の身を守っていた。何たる超自然的な防御力か!「アイツ、自分の艦載機も消せるみたい」瑞鶴は吹雪に己の推測を語る。「それでしてやられたんだ、私達。あの見えない艦載機のせいで加賀さんが」「その様ですね」装甲空母姫が姿を現す。 7

2015-07-09 20:51:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

同時に、装甲空母姫の周囲に3機の艦載機が姿を現した。「やっぱり…」瑞鶴は矢を番え、敵を見据える。「吹雪、アンタアイツの動き止められる?」「やってみます」吹雪はカラテを構え、突撃する!「イヤーッ!」「イヤーッ!」チョップと回し蹴りが衝突!同時に、装甲空母姫が姿を消す! 8

2015-07-09 20:55:08
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」吹雪は瞬時に飛び離れる。KABOOM!吹雪が居た海面が爆発する!(これで3回…)瑞鶴は弦を引き絞り、思案する。(アイツが艤装も透明化させてるとかじゃなければ、これで爆撃は打ち止め…あとは、吹雪がアイツを止めて、私が艦載機を始末できれば!) 9

2015-07-09 20:57:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「スゥーッ…ハァーッ…」吹雪は一旦構えを解き、調息する。装甲空母姫は攻撃してこない。恐らく、次の攻撃でこちらを仕留めるつもりだ。問題は、自分と瑞鶴。どちらから攻撃してくるかだ。吹雪は、自身に攻撃してくることに賭けた。あの深海棲艦は戦士。恐らく攻撃対象は、練度の高い者からだ。 10

2015-07-09 21:03:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は最大船速で駆ける中、ギリギリ視界内に捉えていた。霧島が打ち倒される瞬間を。(あの3人の中で一番練度が高いのは加賀さん。次いで霧島さん)「スゥーッ…ハァーッ…」吹雪は調息を続ける。雑音がほぼ消える。(私の練度は瑞鶴さんより上。ならば)吹雪は耳を澄ませた。 11

2015-07-09 21:05:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

己の足で砕ける波の音…瑞鶴の弓の弦が引き絞られる音…風の音…起き上がろうとする霧島の音…水が跳ねる音…!「イヤーッ!」吹雪は目をカッと見開き、己の後方に回し蹴りを繰り出す!「グワーッ!」吹雪は装甲空母姫の悲鳴を聞き、腹部にめり込んだ己の足の感覚を感じる。 12

2015-07-09 21:10:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「グワーッ!」装甲空母姫は苦悶の表情を浮かべ、姿を現した。「今!イヤーッ!」瑞鶴はこの機を逃さず、矢を放つ!矢は直ぐ様攻撃機に変じ、機銃を雨霰と降らす!BRATATATATATATATATATATA!「グワーッ!」装甲空母姫とその艦載機が機銃の雨に晒される!吹雪は動じ無い! 13

2015-07-09 21:13:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

KABOOM!KABOOM!KABOOM!3機の艦載機がスイスチーズめいて穴塗れになり、爆発四散する!装甲空母姫も機銃に肉を抉られ、傷口から青黒いコールタールめいた血を撒き散らす!「イヤーッ!」吹雪は勢いよく足を降ろす!「グワーッ!」装甲空母姫は海面に叩き付けられる! 14

2015-07-09 21:17:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ハァーッ…ハァーッ…」装甲空母姫は息を荒げ、起き上る。「吹雪ちゃん!退避!」復帰した霧島が装甲空母姫を狙い撃たんとする。吹雪は手を翳し、それを制した。吹雪と装甲空母姫はカラテを構え、睨み合った。西部劇の決闘めいた沈黙が流れる。装甲空母姫の血が海に落ちる。「「イヤーッ!」」 15

2015-07-09 21:21:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

一瞬。一瞬の決着であった。装甲空母姫の断頭チョップは吹雪の左腕によって逸らされ、逆に吹雪の右のチョップ突きが装甲空母姫の胸を抉り、心臓を摘出していた。「アバッ…」装甲空母姫の口から青黒い血が溢れる。吹雪はジゴクめいた緑の左目で装甲空母姫を見た。そして言う。「ハイクを詠め」 16

2015-07-09 21:28:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アバッ…」装甲空母姫は口から青黒い血を零し、ニヤリと笑った。「……海ニ生キ/海ニ死ス/悔イハ無イ」「イヤーッ!」吹雪は緑色の炎光を右手に纏わせる。炎光は一瞬で心臓を灰燼に帰した。吹雪は腕を引き抜き、離れる。「サヨ…ナラ!」装甲空母姫は、爆発四散した。 17

2015-07-09 21:35:03
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「皆さん!大丈夫ですか」大淀と鳥海が到着する。「ええ、何とか」霧島が二人に近づく。「加賀さん、起き上れますか?」「どうにか…」瑞鶴が加賀に肩を貸し、立ち上がる。吹雪は、爆発四散した装甲空母姫のいた海を見ていた。目を閉じ、両手を合わせる。「ナムアミダブツ」祈りを唱える。 18

2015-07-09 21:38:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それは、鎮魂の祈りに似ていた。「吹雪さん?」大淀が吹雪に呼びかける。「はい!」吹雪はその声に応え、艦隊に合流した。艦隊は「あもり」に向け進路を取る。海は再び静寂を取り戻した。風が装甲空母姫の肉片を海から攫う。肉片は直ぐに風化し、風に溶けて消えた。 19

2015-07-09 21:41:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あもり」甲板上。既に沈みかかった夕日が淡く甲板を照らし、海鳥達の声が響く。「はぁーあ…」縁に寄り掛かり、瑞鶴は溜息をついた。「だらしないわね」後ろから声が掛かる。加賀だ。「怪我人に言われたくないです」瑞鶴は頬杖を付きながら加賀を見る。左腕の包帯が痛々しい。 21

2015-07-09 21:50:30
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

二人は暫く夕焼けと海を眺める。「怪我、大丈夫ですか?」瑞鶴は気遣わしげに言った。「艦娘ですから。あっさり治るわ」「そうですよね」「…結局、二人してしてやられましたね」加賀は壁に寄りかかりぼやいた。「それ言わないで下さいよ…」瑞鶴がアヒルめいて唇を歪め、文句を言った。 22

2015-07-09 21:53:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「…貴方」加賀は意外そうな表情で瑞鶴を見た。「それで落ち込んでたの?」「…悪いですか?」瑞鶴は不快そうに加賀を睨む。「いいえ」加賀は壁から離れ、瑞鶴の左隣の縁にもたれかかった。「ただ、奇遇だなぁ、と」「……加賀さんもへこむ時ってあるんですね」「私も人の子ですから」 23

2015-07-09 21:56:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あれ、加賀さんに瑞鶴さん?」ふと、二人の横から声が掛かった。二人は声の方を向く。そこに居たのは吹雪であった。「こんな所で、どうしたんですか?」「ちょっと黄昏てる」「…同じく」「珍しいですね。お二人がそんなことしてるなんて」「だってさー」瑞鶴が情けない声を上げる。 24

2015-07-09 21:59:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「態々鹿屋まで呼び出されたのに翔鶴姉には会えないし。勢い勇んで出撃してみれば、敵の奇襲にズタボロにされるし。その窮地を救われちゃったりさ」「貴方はまだマシよ瑞鶴。…私に至っては敵に一矢報えませんでしたし」二人は同時に溜息を吐いた。「ハハハ…」吹雪は乾いた笑みを浮かべた。 25

2015-07-09 22:02:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「それで、アンタはどうしたの吹雪」ひとしきり落ち込んだ後、瑞鶴は吹雪に問うた。「アンタも自己反省会?」「ちょっと、夕日を見ようかなぁって」「ふーん」瑞鶴は興味を無くし、夕日に視線を戻した。加賀は横目で吹雪を見た。吹雪の目は真っ直ぐと海を見据えていた。 26

2015-07-09 22:08:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

加賀にはその瞳が、まるで何かを忘れないように己に刻み付けているように見えた。やがて、吹雪は海から目を離し、言った。「そう言えば、そろそろお夕飯の時間ですよ?」「えっ、マジ!?」瑞鶴は慌てて立ち上がり、懐から海中時計を取り出した。「舞鶴」と刻印された懐中時計だ。 27

2015-07-09 22:10:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「うっわマジじゃん!」「そう言う訳で、私はお先に失礼します」吹雪はにこやかに笑い、歩き去って行った。「ちょ、吹雪!…ほら、加賀さん!急ぎますよ!」「ええ…」瑞鶴と加賀は縁から離れ、食堂に向け歩き出した。「…そう言えば」歩きながら、瑞鶴はふと呟く。「どうかして?」 28

2015-07-09 22:13:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「いや、他愛のない話なんですけど」「話の種にはなるでしょう?」加賀はそう促した。「意外と食いつきますね…ええと、この前鹿屋で聞いた噂話なんですけど」「鹿屋の?」「ええ。『鹿屋の海には死神が棲んでいる。そいつは深海棲艦の傍に音も無く忍び寄り、首を狩り殺す』ってのが」 29

2015-07-09 22:15:32
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