きるふぇぼんむらかみ

hikari∞短めのお話 @love_suzume

1. 「 こんなんでほんまによかったん？」 きれいとは言いがたい店の中。 鉄板から煙がもくもくあがる。 「なんか、そういう口だったんです」 そう言って、さっき俺が教えた通りにお好み焼きをくるってひっくり返して、できたぁってめっちゃ嬉しそうな顔した。

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2. この前なに食いたいって聞いたとき。 村上さんが東京で一番おいしいと思ったお好み焼き食べたいですーって。 言われて...。 また分からんくなった。 だって今日は...俺的には思っきしデートのつもりやから。

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3. 「あ、スーツ！臭いついちゃいますよね」 第一志望の会社に内定もらったって報告されて、じゃあお祝いしたるわーって。 で、お好み焼き？ って...なんか...めっちゃ脈ない感じせーへんか...？ しかも、夏前やっちゅーのにこのクソ暑い日に。

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4. 「あぁーもう、こーゆーとこ気がきかないんだよなぁ私」 フツーは夜景の見えるシャレたレストランとかでシャンパンかなんかで乾杯して、おめでとうってすんのちゃうん...？ ってそーゆーのは好きな男とすんのかなぁ...。

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5. 「そんなんええねん、アオキやで。安モン安モン」 ほんまはちょっとええやつやけど。 デートやし...。 「ごめんなさいっ」 目ぇぎゅってして、両手合わせてそう言われて、また、胸ん中でパチンって音がした。

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6. 初めて会ったのは...今年の初め。 後輩飲み誘ったら、妹と食事行く予定なんすけどよかったらーって言われて深く考えんとついてったら...。 真っ黒な髪の毛で真っ黒なスーツの真面目そうな女の子が座ってた。 就職活動中で、兄貴にエントリーシート見てもらいに来たって。

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7. そん時は、えらい若い妹おんねんなぁって思ったくらいで、適当に話聞きながら飲んでた。 したら後輩が、仕事トラブって戻らなあかんって...。 こんなおっさんとふたりにされたとこで向こうも困るやろし、さっさとお開きにしようと思ったら。

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8. 「あ...それ......」 俺が持ってた紙袋を指差した。 「あぁ、これな、取引先の人にもらってんけど...食べる？」 なんちゃらって有名なケーキ屋のやつ。 「大好きなんです、キルフェボン！」 そうそう、きるふぇぼん。

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9. 「どーせひとりで全部食われへんし」 箱開けたら、あって言って俺の顔マジマジ見て。 「お誕生日...なんですか？」 フルーツタルトの上には“Happy Birthday！”のプレート。 「あぁ、おとついな」 めっちゃびっくりした顔した。

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10. 黒いバッグの中のピンクの財布から真新しい免許証出して、テーブルに置く。 「私も、誕生日でした。おととい」 1994年1月26日...。 あれ、うわ...。 自分の免許証出して並べてみる。 やっぱり...干支も一緒やんこれ...。 もちろん、ひとまわり違うけど。

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11. 「あの、血液型って何ですか？」 「AB」 「わぁ、一緒だ！」 きゃっきゃって楽しそーに笑って。 「あ、占いとか、おんなじ結果なんですね！私たち」 ............。

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12. 私たち...か...。 彼女は免許証見比べながらニマニマして、なんかすごーいって呟いた。 なぜか、目が離せなくなる。 目が合って...。 え...。 いやぁ...それはどやろ...。 でも、とにかくこの時、何かが始まるような...気配が、した。

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13. めっちゃ真面目な子ぉなんかなって思ったんはシューカツ仕様のスーツと髪型のせいで。 きるふぇぼん食べながら話してみると、いわゆるイマドキの若い女の子。 スマホのケースはなんかキラキラしたやつでデコってあって、ちらって見えた待受はめっちゃ人写ってるプリクラで...。

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14. 今までやったらそんなん見た時点で閉店ガラガラやねんけど。 理想のタイプとか、こんなん絶対無理って思ってたこととか、余裕で飛び越えてくる子がおんねんなぁ...。 もう一軒行こうやって言いたかったけど、さすがに...。

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15. ひとまわりも下やし。 後輩の妹やし。 明日も説明会やって言うし...。 駅まで送ってった。 「ごめんなぁ、おっさんに付き合わせて」 「いえいえ、ちょっと、ホッとしました」

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16. ホッとした...って？ 「お兄ちゃ...兄は、口悪いっていうかずけずけ言うタイプなんで」 少し、目を伏せた。 うわ...まつ毛めっちゃ長い...。 はぁ...お人形やなぁ...。

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17. 「就活のこと、気にしてくれるのは嬉しいんですけど、いつも結局、だからお前はダメなんだーって」 そう言うと、ふーってため息ついた。 地下鉄の駅が見えてきて、なんか、無性に焦る俺。 めっちゃ久々やこんなん...。

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18. 「お話できて良かったです。最近ヘコんでたんで、ちょっと元気出ました」 そう言って、恥ずかしそうに笑った。 ...あれ、コレいけんのかな俺？ いやいや、ないか...。 気ぃつけな、そんなん言うたらおっさんすぐ勘違いすんで？

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19. 「まぁ...シューカツって大変やけど、思いつめんようにな、気楽にやった方がえーとこ出ると思うで」 「はい...あの、今日、すっごい楽しかったです！」 おいおい...。 なんか...えー感じちゃうの？ って、きょうびの若い子ぉはこんなん誰にでも言うんか...？

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20. 「...兄貴に言いにくいグチとかあんのやったら、今度聞くで？」 ダメもとで言ってみたら。 「ふるふる？」 キラキラのスマホを見せて、にこって笑った。 ふるふるって...。 なに？

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21. そっからは...。 ー今日の面接官サイアクー( ༎ຶŎ༎ຶ )寝てるやついた！ ー三連敗ちゅう(இдஇ; ) マジで心折れそう(இдஇ; ) なんかむっちゃLINEくる。

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22. かと思えば飲みに誘ったら、 ーその日合コン入れちゃいました♡マッキンゼー♡♡ヽ(*''▽''*)ﾉ もー、何考えてんのかさっぱりわからんの。 それでもマメに返事返して、飯誘ったりしてんのは...。 たぶん、惚れてしまったから。 ひとまわりも年下の女子大生に。

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23. 何考えてんのかはわからんけど、何回かに一回はちゃんと誘いに応じてくれて、あくまでシューカツのアドバイスって体で飯食いに行って。 ほんまに面接の練習とか、エントリーシートの添削する時もあれば、全然関係ない話だけで終わる日もある。

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24. 誕生日一緒やっただけで運命感じるとかほんまアホみたいやけど...。 だけど、シューカツも合コンもゼミもサークルもバイトも、この子の口から聞くと、めっちゃキラキラしてて夢と希望に溢れてる気がして、なんかいちいち眩しくて。

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25. 俺も12年前はこんなんやったんかなぁ...なんて思ったり。 下心と煩悩と理性がない交ぜになった、なんとも言えない感情のまま、何度か会ってた。 もちろん、たまに飯おごってくれる愉快なおっさんとしか思われてないのはわかってんねんけど...。