ミイラレ!第七話:こっくりさんのこと(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。主人公、さっそくピンチ。 こちらは原文のみになります。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/848118
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それから退魔師は小さな怪異を冷たく見下ろした。「まあ、いいか。とりあえず除霊しちゃおう。このまま離しても憑いてきちゃうだろうし」『じょ、冗談じゃねえ!』それまでもがいていた怪異が叫ぶ。『せっかくいい定住先を見つけたんだ、ここで除霊されてたまるか!』25 #4215tk

2015-07-18 15:48:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そして怪異が身をよじる。『お?』小夜子が妙な声を上げた。どうかしたのか。四季が聞くより早く、怪異の体が伸びた。ように見えた。驚きの視線が集まるなか、幽霊の手から『二つ』の小さな影が飛び出す。まったく同じ姿をした小さな怪異が、手の上側と下側から抜け出たのだ。26 #4215tk

2015-07-18 15:51:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『ふえっ!?』驚く小夜子。怪異の一人が『ガウッ!』『みぎゃーっ!?』その手に噛みついた。「このっ!」怜がカバンから取り出したスポーツタオルを投擲。タオルは小夜子に噛みついて離れない怪異に一瞬で巻きつき、押し潰す。タオルの隙間から黒い煙が立ち上った。27 #4215tk

2015-07-18 15:54:29
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その様子を目を丸くして見ていた四季は、足元を伝って登ってくる小さな存在に気づく。声を上げようとしたときには、もう一人の小さな怪異は襟元にまで到達していた。四季の顔を覗き込んでにたりと笑ったその怪異は、あっという間に四季の右腕に飛び込んだ。28 #4215tk

2015-07-18 15:57:27
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あー、しまった」怜が小さく呻く。「やられた。参ったなぁ」『へへへ、ザマァみやがれ!』四季の右腕から上半身だけを覗かせた怪異が嘲笑う。『正直分身はさっきので限界だっだけど、取り憑いちまえばこっちのもんだ!』「まためんどくさいのに取り憑かれたね……」29 #4215tk

2015-07-18 16:00:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜の様子に、四季は思わず首を傾げる。「……あんまり深刻そうじゃないね?」「いや、まあ」怜が困ったように呟く。「小夜子さんとかに比べると正直この怪異、動物霊に毛が生えた程度のもんだし」「そっか。じゃあいいか」「よくはないよ?」怜の視線に、四季はたじろいだ。30 #4215tk

2015-07-18 16:03:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……取り憑かれてしまったものの、立ち止まっていても仕方がない。四季はとりあえず自分の部屋の前まで戻ってきていた。怜も一緒だ。右腕に憑いた怪異が不埒な真似をしないよう見張っているのである。少し居心地の悪さを感じながらも、四季は鍵を開けようと「開いてますよう」31 #4215tk

2015-07-19 14:30:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

中から返ってきた声に、四季は鼻白んだ。そのままドアノブを捻って玄関へ。そこから見える風景に彼は目を丸くした。薄青い肌をした鬼女が正座している。まあこれはいい。意外なのは、彼女がちゃぶ台の上に置いていじっているもの。どうも旧式のノートPCのようだ。32 #4215tk

2015-07-19 14:33:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「どうしたんです?早くおあがりになってくださいな」「あ、うん。ごめん」四季は思わず頭を下げ、靴を脱ぐ。続いて入ってきた怜も眉をひそめて首を傾げていた。「さて、おかえりなさい若旦那。学舎では早速新たな組員をお引き入れになったようで」「……なんで知ってるの、それ」33 #4215tk

2015-07-19 14:36:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

驚く四季の目の前で、鬼女……巡は懐から巻物を取り出し、広げて見せた。「はい、ここをご照覧あれ」そうして指差した先に、『護之宮(もりのみや) 花子』の文字。「昼頃に組み入りしたようですねえ。組み入りした怪異の名は、すべてここに浮かび上がります」「そうなんだ……」34 #4215tk

2015-07-19 14:39:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は思わず感心する。するすると巻物を閉じて懐にしまいこんでから、巡は彼の右腕に鋭い一瞥をくれた。「で、つまらん小物も連れてきていると。……退魔師の嬢ちゃんがいながら、ねえ」「うるさいな」嫌味ったらしくこぼす巡。怜は嫌そうに眉根を寄せて彼女を睨みつけた。35 #4215tk

2015-07-19 14:42:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

露骨に溜息をついてみせてから、巡は四季の右腕へ手を差し伸べた。その指先から細い糸状のなにかが飛び出す!それは四季の右腕に潜り込み『ぐえっ!?』中に憑いていた小さな怪異をあっさりと引きずり出した。糸は怪異の首に巻きつき、締め付けている。問答無用の早業。36 #4215tk

2015-07-19 14:45:33
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あんたも澄ました顔してんじゃないよ。こそこそしてないで、挨拶くらいはしたらどうだい、ええっ?」その言葉は実に剣呑な響きが込められている。「うちの若旦那にくだらん真似をしてくれる。このまま首を捻じ切って食っちまおうか」『ぐ……ま、待った!待った!』37 #4215tk

2015-07-19 14:48:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

苦しげに怪異が呻く。『悪かった、悪かったよ!名乗ればいいんだろ!?だからせめて、この、首はやめてくれ!』巡はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、指を一振りした。小さな怪異の首筋に巻かれていた糸が解け、今度はその体を拘束する。「いいよ。名乗ってみな」38 #4215tk

2015-07-19 14:51:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

青い鬼女に促され、小さな怪異は脅えながらも自己紹介を始めた。『あ、畦走(あぜはしり)ナナっていうんだ、俺は。見てのとおりの狐だよ』「見てのとおり……?」黙って成り行きを見ていた四季は思わず呟く。改めて彼は右腕の上に乗った小さな怪異を見つめた。39 #4215tk

2015-07-19 14:54:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

頭の上から生えたあの黒い獣耳、狐のものだったのか。よく見ればもふもふとした尻尾も生えている。姿格好は普通の人間……制服姿の。そこまできて四季は首を傾げた。「……それ、うちの高校の制服?」『そうだよ』呆れた顔でナナが振り向いた。『これでもあそこの住人だ、俺は』40 #4215tk

2015-07-19 14:57:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ひとまず腰を下ろしてから、四季は首を傾げる。「住人?ってことは、畦走さんはあれなの?七不思議ってやつ?」『そうそう。なんだ、そういうのは知ってんのかお前』「うん。昔そういう知り合いがいたから」『……そうなの?変なやつに憑いちまったなぁ』ナナが頭を掻いた。41 #4215tk

2015-07-20 14:51:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

七不思議というのは、まあ学校に潜む怪異の総称のようなものだ。四季はそう理解している。少なくとも花子は小・中学のときにそう自称していた……あのへんのシステムがどういう仕組みになっているかはわからないが。「その七不思議が、学校から離れて大丈夫なの?」42 #4215tk

2015-07-20 14:54:31
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の隣に座った怜が冷たく尋ねる。その手には先ほどナナの分身を潰したタオル。鎌首をもたげる蛇のようにひとりでに動くそれを見て、小さな怪異は身震いした。『だからやめろって!もうなんもしねえよ!……仕方ねえだろ。あの学校、だいぶ住み辛くなってたとこなんだし』43 #4215tk

2015-07-20 14:57:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ほう?」片眉をあげたのは巡。「なかなか面白いことを言うじゃないか。詳しく話してみな。内容次第じゃ、手心を加えてやらんでもない」『大して内容のある話でもねえ』ナナがやるせなく呟く。『最近、やたら力のある余所者が湧いてきてな。昔からの連中が追いやられてる』44 #4215tk

2015-07-20 15:00:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「最近……」四季が思わず呟く。脳裏によぎったのは、あの横暴極まりないトイレの怪異。「具体的に言いな。いつ頃だい、最近ってのは」『一年くらい前……あの妙な噂がたってからだ』『妙な噂、ですか?』いつの間にかお茶を飲んでいた小夜子が小首を傾げた。45 #4215tk

2015-07-20 15:03:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「どんな噂だい、それは」『学校に魔女がいる、とか、そんなんだよ』ナナが溜息混じりに答える。『バカバカしいよな。そんなんがいたら、俺らがとっくに知ってるはずだっつーのに』「じゃあ、本当にぽっと出の噂だったんだ」退魔師の確認に、小さな怪異が力なく頷く。46 #4215tk

2015-07-20 15:06:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『そこからだよ。どっからともなく見たこともない怪異がうようよとさ……これが妙に強くて、昔からいた連中がほとんど追い出されちまった』嘆くように言う。『もう、残ってたのは俺くらいじゃねーのかな。もう意地張って居座っててもどうしようもねえ。そこにこいつが』47 #4215tk

2015-07-20 15:09:35
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

と、彼女は視線で四季を示す。『儀式なんぞやってくれたからさ。これ幸いと取り憑かせてもらったんだ』「……その言い分だと、ひょっとして最初から憑いてくる気だったの?」『おう。こっちは死活問題だからな』あっさりと言われ、四季は黙り込む。中断されずとも結果は同じか。48 #4215tk

2015-07-20 15:12:52
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「成る程。その急に湧いて出た怪異、どんなのがいたか言ってみな」巡に促され、ナナは眉根を寄せて虚空を見る。『……ぱっと見ですぐわかったのは、赤マントとテケテケ。あとは元がなんだかわからん怪異ばっかでさ……』「あ、そうだ」四季は不意に思い出す。49 #4215tk

2015-07-20 15:15:13