小説【マボロシハナビ。】

加藤シゲアキ&増田貴久メイン。 10年振りに帰った故郷。 大人になった初恋の君はまるで、夏の夜空に綺麗に咲いて消えた、七色の花火―。 続きを読む
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はんな□♡▽○妄想投下気味 @hanna_secret

#幻花火 025/127 でも結局、ポイの薄い紙は虚しく一瞬で破けて。 「あーあ…寂しいね、ごめんね。」 縁日のおじさんが厚意でくれた1匹を、 君は膨れ面で覗き込む。 「ま、1匹でも2匹でも、一緒でしょ。」 「まっすーは分かってない!寂しいよ1匹じゃ…」 「…ったく。」

2015-07-17 21:21:24
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#幻花火 026/127 俺は金魚すくいの縁日まで戻る。 「え、シゲ?」 「寂しいんだろ?1匹じゃ。」 …なんて言ったけど、不器用な俺も正直、 金魚すくいなんて自信無くて。 それでも、君の笑顔が欲しくて、 水面に素早く、ポイを泳がせる。 動きの鈍いデメキンが乗っかった。

2015-07-17 21:21:30
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#幻花火 027/127 「偉そーなこと言って、シゲだってたった2匹じゃん。」 「うっせーなっ、2匹掬えりゃ上等だろっ。」 俺は、デメキンと更紗和金が泳ぐビニール袋を、 君に差し出した。 「ん。」 「えっ…くれるの?」 「別に俺、金魚なんて興味無いし。」 「…ありがと。」

2015-07-17 21:21:37
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#幻花火 028/127 「大切に育てる。」 ビニール袋に顔をくっつけて眺める姿が愛しくて―。 ―俺は、シャッターを切ってみる。 そこに写ったのは、神社の境内の大木だけだった。 結局昨日見掛けたのが、本当に君なのか、 確認もできないまま、俺はただ街を歩いた。

2015-07-17 21:21:43
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#幻花火 029/127 何気なくシャッターを切る。 昔秘密基地を作った茂み、 自転車で競争した坂道、 二度と開かないであろうシャッターが錆びた駄菓子屋、 街の真ん中に、要塞みたいに佇む病院の白壁―。 変わらないもの、変わったもの、 全てを丁寧にカメラの中に収めた。

2015-07-18 08:09:01
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#幻花火 030/127 と、背後から一台の自転車が通り過ぎた。 「…まっすー?」 まっすーは自転車を駐輪場に停めると、 慌てた様子で病院に掛け込んで行った。 誰か入院してんのかな? 昨日、おじさんもおばさんも元気だって言ってたのに。 俺は、その後ろ姿をただ見送った。

2015-07-18 08:09:09
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#幻花火 031/127 *** 「葉月っ!!」 息を切らせながら、病室のドアを開ける。 「ん~?」 葉月は拍子抜けしそうな程普段通りに、 バニラアイスを食べてた。 「は、づき…あのっ…発作…」 息が切れて上手く喋れない。 「あぁ、夕方一瞬ね。」 「もっ、平気、なの?」

2015-07-18 08:09:17
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#幻花火 032/127 「んー、この通り。」 俺は、ベッドの横で崩れ落ちた。 「だって…発作、起こしたって言うから…俺、」 「…死んじゃうと思った?」 きん、と病室の空気が止まる。 「死んじゃわないよ、だって、明日夏祭りだよ?  …大好きな人と花火、見たいもん。」

2015-07-18 08:09:25
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#幻花火 033/127 「大好きな人?」 「ふふっ。」 少し赤くなりながら、 また次のアイスの一口を頬張る葉月の横顔は、 とても儚くて、酷く苦しくて―。 俺は、たまに薄い月を見上げる葉月の横顔を、 真っ白で、少し痩せた頬を、ただ見つめていた。 明日、花火が上がる。

2015-07-18 08:09:34
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#幻花火 034/127 *** 「おぁっ!加藤じゃん!」 神社へ向かう途中、夕暮れの道の上で呼び止められる。 「あ、松崎。」 「何だよ、えっ、高校卒業振りじゃない?」 懐かしい同級生の後ろには、小さな子供と女性。 「結婚したの?」 「あぁ、うん。」 彼の家族に小さく会釈。

2015-07-18 14:52:43
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#幻花火 035/127 この街に来てから、ずっと東京にいるよりももっと、 10年って時間の流れを濃く感じる。 「帰省中、時間あるなら飲み行こうぜ。」 「うん。」 社交辞令的な会話を終えると、 彼は子供と手を繋いで、神社の方へ去って行った。 遠くの空に、囃子が響いている。

2015-07-18 14:52:49
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#幻花火 036/127 人ごみの中、あの頃は仲間に囲まれていた筈なのに、 10年という月日が、それも全部変えてしまった。 みんなそれぞれに恋人ができ、結婚し、 家庭を持って、この街で暮らし続けている。 気紛れに帰って来た俺は、 あの頃と同じでも全く違う街の景色に、迷子―。

2015-07-18 14:52:54
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#幻花火 037/127 俺はまた、カメラを構える。 こんな時は、旅行者の振りが一番いい。 ファインダー越しならば、 この街の変化も、俺自身の変化も、 少しフィクションに感じられて、楽だ。 薬局の店名の入った赤い提灯を、一枚。 建物の隙間で寝そべっている猫を、一枚。

2015-07-18 14:53:03
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#幻花火 038/127 ファインダーを覗いたまま、視線を移していく。 公園のブランコを、一枚。 空き地に咲いた蒲公英を、一枚。 徐々に囃子は近くなる。 神社の鳥居の遠景を、一枚。 その足元に近付く。 「遅っせーよシゲ。  夏祭りの日に塾なんか行ってんじゃねーよ。」

2015-07-18 14:53:08
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#幻花火 039/127 *** 「優等生ぶって。」 「うるっせっ。」 中学2年の夏。 ねぇシゲ、あの時から何かが変わり始めてたんだ。 俺が到着したのは、待ち合わせ時間の5分前。 もう鳥居の下には浴衣姿の葉月がいた。 「あのね、まっすー…」 「ん?」 葉月は赤い顔で俯く。

2015-07-18 20:08:44
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#幻花火 040/127 「私、決めたんだ。」 「何を?」 「今日ね、シゲに告白するの。」 一瞬、何が起きたか分からなくて。 お祭りの人ごみのざわめきも、囃子の音も、 全部がストップして、真っ白になって。 「だから、まっすーも協力してくれる?」 「でも…いいの?あんな奴で」

2015-07-18 20:08:53
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#幻花火 041/127 「不器用で、照れ屋で、カッコつけで…  だからほっとけないんだよ、シゲは。」 ふふっと笑う葉月の丸い頬っぺを見ながら、 努めて明るく、笑顔で、自然体でいた俺のプライドは、 一気に崩れて散ってったんだ。 「…分かった。花火、二人きりにしてやるから。」

2015-07-18 20:09:01
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#幻花火 042/127 シゲは結局、30分遅れで到着した。 俺は葉月と小さく目配せして、 奇妙な三角関係のデートがスタートした。 いつも通り、他愛も無い会話を交わしながら、 いか焼き食べて、射的やって、綿菓子買って…。 ヨーヨーで盛り上がってた時、 空は急に色を変えた。

2015-07-18 20:09:09
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#幻花火 043/127 *** 突然の雷。 最初の一滴が来てから、豪雨に変わるまで早かった。 蜘蛛の子を散らしたみたいに、 人々は軒を求めて散って行く。 「やっべー、傘持って来てない!」 雨音の中でまっすーが叫ぶ。 雨は、浴衣姿の君を容赦なく濡らした。

2015-07-18 20:09:20
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#幻花火 044/127 俺は、何の意味も無いと知りながら、 それでも、自分で羽織っていた半袖のシャツを脱ぐと、 君の肩に掛けた。 「待ってて、下のスーパーで傘買ってくる。」 「えっ」 俺は土砂降りの中、逃げ惑うような人ごみを掻き分けて、 神社の長い石段を駆け下りた。

2015-07-18 20:09:26
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#幻花火 045/127 ずぶ濡れの身体はすっかり冷えて、 スーパーに入ると、空調の冷気に身震いした。 見慣れたスーパーの片隅、小さなビニール傘のラックには、 この突然の雨で、もう傘は1本も残っていない。 数軒先のコンビニも、同じ状況だった。 仕方なく店を出る。

2015-07-18 22:02:17
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#幻花火 046/127 『町内会より、お知らせします。  本日の花火は、雨天により、中止となりました―』 雨音の向こうから、スピーカーの割れた音が響く。 中学生の俺は、雨の中途方に暮れた。 君の笑顔を見ていたいのに。 年に一度だけ、夜空の下の君を見れる、特別な日なのに。

2015-07-18 22:02:23
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#幻花火 047/127 *** 葉月が心配そうに、シゲの後ろ姿を見送る。 「ほら、濡れないとこで待ってよ?」 俺は不意に葉月の手を握って、 少しでも雨を避けられる、御神木の下に避難した。 ポケットに押し込んでいたハンドタオルを出すけど、 それも既に濡れてしまっていて。

2015-07-18 22:02:30
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#幻花火 048/127 俺はどうすることもできなくて、 枝を伝った雨に濡れながら、 葉月の手を、ただぎゅっと握ってた。 雷が鳴る。 人ごみから俄かに悲鳴が上がる。 ぎゅっ。 葉月が僅かに握力を強めた掌。 「…怖い?」 「こ、怖くないっ。」 葉月の頬を、雨粒が冷やす。

2015-07-18 22:02:35
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#幻花火 049/127 「嘘、今俺の手握ったじゃん。」 葉月は慌てて手を離すと、 シゲが掛けた白いシャツを、ぎゅっと握った。 俺はどこまで行っても、シゲを越えられない―。 この雨を降らせたのは、きっと俺だ。 花火なんて始まらなければいいって、 今日、ずっと思ってた。

2015-07-18 22:02:41
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