青葉島鎮守府 第十三話

前の話(http://togetter.com/li/833938) 12話からの続きです 青葉と衣笠と古鷹、そして加古の話
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跡地 @kkkkkkmnb

「なんだか、ごめんね。あんなんでも私が建造されたばっかの頃なんかは無茶無茶に強いけど陰があってさかっこ良かったんだけどな……」  そう言って衣笠は不満そうに、そしてどこか誇らしそうな声を漏らした。

2015-07-22 03:15:14
跡地 @kkkkkkmnb

もしかしたら、衣笠は青葉に昔のような強くてかっこいい憧れの青葉に戻って欲しいのかもしれない。だから、わざわざ青葉が嫌がる死神という呼び名を使って周りに青葉の強さを流布しているのかもしれない……そうやって素直になれないところが姉妹揃ってそって全くよく似ていた。

2015-07-22 03:20:07
跡地 @kkkkkkmnb

倉庫の中はとても静かだった。分厚い窓は絶え間なく押し寄せる波の音を遮断しており、工廠の稼働する音は遠く離れたこの倉庫にまでは届かなかった。部屋の真ん中では電灯が光ってはいるが、その隅々にまで行き届かない光は、固めておかれた調度品に陰を生み、むしろ薄暗さを助長していた。

2015-07-22 03:30:10
跡地 @kkkkkkmnb

うちっぱなしのコンクリートは電灯の暖かい光が当たっているはずなのに、触れることを躊躇うほどに寒々しく、そして寂しかった。  まだ加古はこの倉庫から出ていなかった。青葉達を追い出してからずっとこの部屋に留まって窓の外を眺めていた。

2015-07-22 03:37:33
跡地 @kkkkkkmnb

小さな丸い窓に絶え間なく押し寄せて打ち付ける波。鉄でできた窓枠は潮のせいで所々が錆びて、塗装が剥がれおちている。ゴムには亀裂が走り、錆びて膨張したせいだろうか、窓を開けるための鍵は何をしても開かなかった。

2015-07-22 03:41:37
跡地 @kkkkkkmnb

昨日の夜からずっと、加古は呼ばれていた。眠ろうとするたびに声は加古の脳内に響いた。 「オネエチャン……オネエチャン……」  と、悲壮に満ち溢れ、そしてどこかこうやって呼ぶことを楽しむかのように、加古を一晩中苦しめ続けた。

2015-07-22 03:47:11
跡地 @kkkkkkmnb

声の主は分かっている。川内型8人姉妹の中で唯一艦名すらも貰えなかった8番艦。この世に生を受けられなかった憐れな水子が、今、軽巡棲鬼となり、4番艦の加古のことをオネエチャンと呼んで海の底に引きずり込もうとしているのだった。

2015-07-22 03:52:46
跡地 @kkkkkkmnb

加古が神通や川内に助けを求めるのではなく、この倉庫にやってきたのは、この波のせいで外が見えない窓、かつての「古鷹型重巡洋艦」の舷窓を波飛沫が叩く様を水族館と揶揄されたこと、古鷹型の自分と重なる窓の傍でなら……そう願って来てみたが、ひたひたと彼女を呼ぶ声は止む気配を見せなかった。

2015-07-22 04:01:29
跡地 @kkkkkkmnb

「オネエチャン……? ネェ、カコオネエチャン……」

2015-07-22 04:06:42
跡地 @kkkkkkmnb

加古はうめき声を噛み殺し、ただひたすらこの悪夢が醒めるのを待ち続けるのであった……

2015-07-22 04:07:59
跡地 @kkkkkkmnb

【青葉島鎮守府 第13話】 終了

2015-07-22 04:08:21